938. 新規ギルド支部建築現場
朝食を食べ終え、除染作業に向かうアリアたちを見送り、今日僕が向かったのは新市街に建設している新ギルド支部の作業現場です。
こちらも竜の襲撃により一時作業が止まっていたため、いまはその遅れを取り戻そうと必死なんですよね。
いま建設中なのは、鍛冶・服飾・宝飾・建築・魔術師・木工・料理・宿屋・錬金術士の9ギルドです。
ほかは物資や建築ペースの関係上、当面見送りです。
医療ギルドは診療所を別に建てていますが、そこは育成の場ではないので除外でいいでしょう。
今回僕が視察に行くのは我が錬金術士ギルドの建物です。
無理をしないでいてくれるといいのですが。
「親方、様子を見に来ました」
「おお、錬金術の旦那。作業を急かしに来たんですかい?」
「急かしませんよ。無理をしているのでしたら止めようと思っているくらいです」
「ま、我らがギルド評議会の皆様方が急かしに来ることもないか。昨日も鍛冶の現場に鍛冶の旦那がやってきたそうですが、無理をしないようにと釘を刺されていたみたいですからね」
「当然でしょう。コンソールにとって技術者は宝なんですから」
「そう言ってもらえると嬉しいですねぇ」
親方はこそばゆそうに鼻の頭をかき、視線を逸らしました。
僕と親方が話している間も建設は進んでおり、いまは3階部分の梁が張られているところです。
相変わらず、仕事が早いですね。
「もう3階部分までできているとなると、この建物はもうすぐ終わりですか」
「ガワはもうすぐ終わりですね。そのあと、内装を整えたら引き渡します」
「それでは冬の2月目くらいでしょうか」
「それくらいを見ていてもらえると助かります。外装が終わったら一部の人員をほかのところの支援に送ってやるんで」
「それはいいですね。工期は無理のない程度でお願いします」
「わかりました。ところで、相談なんですが、丈夫な縄になるような素材ってなにか知りませんかね?」
「丈夫な縄、ですか?」
「はい。この間、別の現場で命綱に使っていた縄が切れて転落事故があったんです。大事には至りませんでしたが、錬金術の旦那ならなにかいい知恵か道具がないかと」
ふむ、縄ですか。
錬金術で作る金属の糸を束ねた縄なら頑丈でしょうが、金属である以上何度も曲げていると脆くなるのでだめですね。
それに、僕がいなくなったあとも継続的に入手できるものが好ましいです。
となると、あれですかね。
「聖獣の森に生えているツタなどはどうでしょう? 適度に伸び縮みもしてやたらと頑丈です」
「錬金術の旦那が『やたらと頑丈』って表現するツタの耐久性が気になりますが……どうやったら手に入りますかね?」
「聖獣の森で聖獣を呼び、聖獣樹のツタがほしいと言えば持って来てくれるでしょう。外から見える範囲にはまず生えていない物ですが、奥までいけば山ほど手に入るものです。気になるなら手土産として焼き菓子でも持参してはいかがでしょう?」
「手土産って……やっぱり、錬金術の旦那と会話してると聖獣ってのが気さくな隣人にしか思えませんね」
「人里近くに好んで住む聖獣ってわりとそんな感じですよ。この街の聖獣が目を離していると子供たちと遊び始めるみたいにね」
「なるほど。そいつはそうだ」
聖獣は怒らせなければいい隣人なんですよ。
さすがにコンソールやシュミットのレベルまでいくとちょっと異常ですが。
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