28.森の賢者
いよいよ辺境伯領に帰る日がやってきました。
お父様は、セティ様の扱いに困っていらっしゃるようですが……。
「へえ、じゃあこのまま馬車で2週間ほどの旅か」
「セティ様にはご不自由をおかけいたしますが……」
「気にしないよ。僕だって、要請があれば軍と一緒にモンスター退治を行うんだ。馬車に乗って移動できるだけ楽なものだよ」
「そういっていただけると助かります」
今回の旅も僕とアリアはウィングとユニに騎乗するので馬車には乗りません。
ウィングはときどき周囲の警戒に出てはモンスターを倒したり、盗賊を早期に見つけたりしているので旅は順調そのものです
そうして旅程の半分ほどを過ぎたとき、僕は宝飾品店でいただいた宝石のことを想いだしてセティ様に尋ねてみました。
「おや、それはワイズマンズストーンだね? どこで手に入れたんだい」
「ええと、指輪を買ったときに宝飾品店でおまけとして渡されましたが……まずかったでしょうか?」
「いや、ご禁制の品ではないから安心していいよ。ただ、出所が気になるね」
「ちなみに、ワイズマンズストーンとは賢者の石のことでは?」
「賢者の石とはまったく別物だよ。確か聖獣か幻獣が死ぬときに残す石だと聞いているが……」
『……スヴェイン、悪いんだけどその石、僕にもよくみせてくれないか?』
「ウィング?」
ウィングがこういうものに興味を示すとは珍しいです。
彼が見やすいように前に出してあげまました。
すると、ウィングは驚くようなことを言い放ちます。
『スヴェイン。この石は生きたワイズマンから奪われた石だよ』
「え!?」
「なんだって!?」
「なんだと!?」
「間違いないのかい、ウィングくん?」
『間違いないよ。亡くなって残されたのなら独特の魔力が残るんだ。でも、この石からはその気配が感じない。むしろ、強制的に抜き取られたときに出てくる魔力の乱れを感じるよ』
「……それは一大事だ。聖獣にしろ幻獣にしろ、生きている存在から無理矢理宝玉を奪う行為は御法度だし、その宝石はご禁制の品になるからね」
「ええと、持ち歩くのもまずいでしょうか」
「正直、まずい。ただ、証拠がない以上、持ち歩くだけでは取り締まりの対象にはならないかな」
「ですが、これは無理矢理奪われたものなんですよね? ウィング、これを元の聖獣か幻獣に返却することはできますか?」
『ちょっと待って。……うん、可能だ。かなり衰弱しているけどその宝石の持ち主はまだ生きている。僕らが本気で飛べば、片道2日半程度で着くはずだ』
「それまで、この石の持ち主は耐えられますか?」
『それは大丈夫だと思うよ。ただ、衰弱しているからユニも一緒に来てもらわないといけない』
『話は聞いていたわ。同行してほしいなら最初からいいなさい』
『あはは。じゃあ、一緒に来てよ、ユニ。かなり重篤な状態だからね』
『任せなさい。スヴェインは一緒に行くとして、アリアはどうするの?』
「私も一緒に行きます!」
『この子も意思は固そうだし、連れていくしかないわね』
『カーバンクルも一緒だしまったく問題ないんじゃないかな。……というわけで、アンドレイ。僕たちはしばらく別行動を取るよ』
「承知しました。息子たちをよろしくお願いいたします」
『わかった。合流は……お屋敷でいいよね?』
「はい。先に着きましたら息子たちを休ませてあげてください」
『了解だ。スヴェイン。しっかりつかまっていて』
『アリアも振り落とされないようにね』
「はい!」
「よろしくお願いします、ウィング」
まずはある程度の高度まで浮かび上がり、そこから矢よりも早い速度で飛び出していくウィングとユニ。
あっという間にお父様たちの隊列は見えなくなり、森を越え川を越え山まで越えていきます。
これって、国も越えていないでしょうか?
「ウィングどこまで行くんですか?」
『かなり遠くだよ! 途中途中で休憩するけどしっかりつかまっていてね』
ウィングのいうとおり、途中いくつもの山を越えて飛んでいきます。
もうここがどのあたりなのかまったく想像ができません。
夜の間はしっかりと眠りますが、それ以外の時間はときどき休憩するだけで飛び続けています。
そんな日々が2日ちょっと続いた頃、山を越えると目の前に大森林が広がりました。
「ここは?」
『正確な名前は知らないなあ。さまざまなワイズマンたちが暮らしている森だっていうのは知っているけど』
『そんなことは後回しよ。例の宝石の持ち主を探すわ』
『そうだね。スヴェイン、ワイズマンズストーンを出してもらえるかな?』
「はい。これでいいですか?」
『うん。これに特殊な術を施してっと』
ウィングがなにかの術をかけると、ワイズマンズストーンから光の帯が伸び始めました。
それは森の一角を指し示しています。
『うん、あそこにこの石の持ち主がいるようだ』
『急ぎましょう』
「はい。アリアも大丈夫ですか?」
「大丈夫です。行きましょう」
アリアもこの一年で本当に強くなりました。
……感傷にひたっている場合じゃないですし、急いでこの宝石をお返ししましょう。
僕たちが光の指し示す先へと向かうと、そこにはフクロウの石像がありました。
それ以外にはなにもありませんね……?
『スヴェイン、その石の持ち主はそこの石像だよ』
「そうなんですか!?」
『自分に石化の魔法をかけて生きながらえていたのね』
「そんな……」
『ワイズマンにとって、ワイズマンズストーンはふたつめの心臓だからね。さあ、ワイズマンズストーンをそのフクロウにはめてあげて』
「わかりました」
僕はウィングから降りてフクロウの石像に近寄り、宝石を石像の額にはめ込みます。
すると、宝石をはめ込んだ場所から石化が解けていき、真っ白なフクロウが姿を現しました。
『ふぅ、助かったわい。このわしが人間なぞに後れを取ろうとは』
『無事なようね、ワイズマンズ・フォレスト』
『うん、ペガサスにユニコーンじゃと? お主らの生息域ではなかったはずじゃが?』
『僕たちの主様が、君のワイズマンズストーンを見つけて持ってきたんだよ。お礼くらいは言いなよ』
『む、そうだったのか。主というのはそこの少年だな。助かったぞ、少年。私は森の賢者、ワイズマンズ・フォレスト。人間に後れを取り、ワイズマンズストーンを奪われたときは死ぬかと思ったわ』
「それは……ご迷惑をおかけしました」
『少年が奪ったわけではあるまい。謝る必要はなかろう』
「そうですが……あなたのワイズマンズストーンは、僕が宝飾品を買ったおまけとしていただいた宝石ですし」
『ならばなおさらじゃ。お主が宝石を買ってくれなければ、わしはこのままただの石像になっていたのじゃからな』
「そうですか?」
『そうじゃよ。なにかお礼をしたいところじゃが、力のほとんどを失っていてなにもできないのが歯がゆいな』
『だったら契約してあげたらどうかな? ワイズマンの寿命から考えれば人間の寿命なんて大した長さじゃないでしょう?』
『その少年は儂を受け入れられるだけの器があるのか?』
『試してみなよ。そうすればわかるさ』
『わかった。少年よ、聖獣契約を交わそうぞ。名前はワイズを所望する』
「わかりました。ワイズ、僕とともに行きましょう」
軽い気持ちで始めた契約ですが、いままでで一番激しく魔力を吸い取られていきます。
魔力操作でなんとか調整したものの、これは魔力が足りるのでしょうか?
魔力の吸収は1分ほどで終了しましたが、僕は終わると同時に尻餅をついてしまいます。
契約は成功したのでしょうか?
『ほうほう! これはなかなか! 魔力の質もよいし、なにより清浄である! 気持ちがいいぞ』
「成功したようですね、ワイズ」
『うむ、成功した。これからよろしく頼む。……まずは疲れた体を休めるためにここで一晩過ごすといい』
「そうさせていただきます。アリア、それで構いませんか?」
「はい。スヴェイン様がそうおっしゃるなら」
僕は魔力枯渇によって疲れ果て、一晩ここで過ごすこととなりました。
食事はユニから治療を受けたワイズが、森の中からいろいろな木の実を集めてきてくます。
なので、困ることはありません。
ただ、ワイズが言うにはこれらの実を育てて錬金術素材にすると、上位の病を治す治療薬になるそうです。
普通の食べ物を持ってきていたわけではなかったのですね。
さすがは森の賢者でしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます