27.新たな師匠と仲間

 新しい聖獣カーバンクルが仲間になるというイベントがありましたが、アリアとの婚約は無事終了しました。


 契約済みのカーバンクルは、基本的に主人の魔力を食べて成長するそうです。


 ただ、おやつとして果物を与えると喜ぶそうなので少しマジックバッグに入れておきました。


 また、カーバンクルの卵がはまっていた指輪ですが、卵がはまっていた場所にそれぞれのカーバンクルの毛並みと同じ色の宝石がはまっています。


 ウィングとユニから聞いた話では、これも魔法を増幅する力があり、そのほかにも他人の悪意を見抜く力があるそうですよ。


 本当に便利なものをいただいてしまいました。


 そんなカーバンクルとアリアですが……今日も僕と一緒のベッドで眠っています。


「うん……スヴェイン」


「いい夢を見ているみたいですね」


 前は怯えて僕の腕をつかんでいたアリアでした。


 でも、いまは嬉しそうに僕の腕をつかんで離しません。


 まだ、婚約関係にしか過ぎないのにこんな感じでよいのでしょうか?


**********


「キュー!」


 翌朝、カーバンクルが頬をぺちぺち叩く感覚で目を覚まします。


 カーバンクルが叩く方の逆側には少し湿った暖かい感触があり、そちらに目を向けると……アリアがキスをしていました。


「あ、あの……おはようございます、スヴェイン様」


「おはようございます、アリア。キス、したかったのですか?」


「……はい。そうすればスヴェイン様との距離がもう一歩近づくかなと」


「じゃあ、僕もアリアにキスをしないと」


「ふぇ!?」


「だめですか?」


「だめじゃないです! ど、どうぞ」


 許可も下りましたし、アリアの右頬に優しくそっと口づけします。


 これだけでも胸がドキドキしますよ。


「……スヴェイン様、私たちの結婚っていつになるのでしょうか?」


「早くてもこの国の成人である15歳の儀式の日だと思いますが」


「あと9年ほどですね。その日が待ち遠しいです」


「……僕もです。さて、アリア。そろそろ起きないと」


「そうですね。私も自室に戻って朝の支度をして参ります」


「はい。いってらっしゃい」


「行って参ります。レイク、行こう」


「キュ!」


 アリアを送り出し、僕もリリスに手伝ってもらいながら朝の身支度を調えます。


 彼女の部屋には昨日僕が買ってきた花束が置いてあるはずですが喜んでもらえるでしょうか?


 そして、朝食のテーブルに着くと、お父様とアーロニー伯爵が来ませんでした。


 お母様がいうには、昨日の夜おふたりでお酒を飲み過ぎたらしく、仲良く二日酔いなんだとか。


 僕とディーンにはあのような大人にならないようにと釘を刺されました。


 お父様、二日酔いに効くポーションも持っているのですが差し上げることは難しいです。


 そして、アーロニー伯爵夫妻がお帰りになったあとは辺境伯領に帰る準備です。


 主にやることは帰りの食料や水の準備だけのようですが。


 2日間でそれらの準備も整い、翌日出発というところで来客がありました。


 ひとり目は、この前王宮図書館で僕たちに魔術書をくれたエルフさんです。


「やあ、スヴェイン、アリア。勉強ははかどっているかな?」


「はい。いただいた魔術書のおかげでいろいろな理論がわかりました。あとはそれを応用、発展できれば完璧ですが……」


「申し訳ありません。私たちの魔法レベルではそこまでまだたどり着いていないみたいです」


「いやいや、そこまでできれば十分過ぎるよ。どのくらい勉強するのかと思ってあの教材を渡したんだけど、そんなに勉強をしてくれたのは君たちが初めてな気もする」


「ありがとうございます。それで、今日はどのような用件でお越しいただけたのでしょう?」


「ああ、スヴェインのお父さん、シュミット辺境伯は不在かな?」


「おそらく、もうすぐ戻るかと……戻ってきたようです」


 あれ、お父様もお母様も大急ぎでこちらに向かっているような?


「セティ様、我が家にどのようなご用件でしょうか?」


「まさかセティ様のような賢者がいらっしゃるとは思いもしませんでした」


 セティ様……ひょっとしてあの絵本にも出てくる英雄セティ様ですか!?


「そんなにかしこまらないでよ。普段は王宮図書館の奥で隠者のごとく世俗から離れて暮らしているんだから」


「は、しかし……」


「それに、時空魔法の使い手を教師に迎えたいと言い出したのは、君たちシュミット辺境伯家なんだろう? いまこの国には時空魔法の使い手は僕しかいないのさ。悲しいことにね」


「は……それでは?」


「はっきり言って、最初は断るつもりでいたよ。めんどくさいからね。でも、スヴェインが王宮図書館に通って魔術書に向かう姿勢に感銘を受けてね。僕お手製の魔術書を渡してみたんだ。すると、その内容をスラスラ読み解いてそれを既存の魔術書と比較、発展させようとした。こんなことができる6歳児なんてめったにいないよ」


「そうだったのですね。これくらいなら誰でもできるとばかり……」


「君は自己評価が低いね。もっと自信を持った方がいい。……ところで僕の渡した魔術書の最終ページにあった魔法理論は読み解けたかい?」


「僕ひとりではなかなか読み解けませんでしたが、アリアと一緒になんとか」


「……本当にすごいな君……いや君たちは。あの理論は時空魔法の入り口だ。あれが読み解けるなら時空魔法の素質があるのかも知れない」


「本当ですか!」


「よかったですね、スヴェイン様!」


「いや、君もだよ、アリア。一緒に読み解いたんだろう? だったら君にもその才能が芽生えているはずだ」


「え、私『魔法使い』ですよ?」


「時空魔法は魔法を扱える職業ならば、どのような職業でも扱えるのさ。とっかかりが難しいだけでね」


「やりましたね、アリア!」


「……うん、ありがとうございます」


「そういうわけだから、僕もシュミット辺境伯領に同行させてもらうよ。授業は落ち着いた場所で行いたいから、領主邸に到着してからね」


「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします」


「ははは、予想以上のお方を推薦してくださったようだ、国王陛下は」


「あなた、お礼状を書かなくては」


「そうだな。……だが、その前にもうひとり紹介したいものがいるんだ」


「紹介したいもの、ですか?」


「ああ。いまはディーンと庭で剣術の稽古に励んでいるはずだ」


 セティ様も面白そうという理由でついてきてくださり、中庭に向かいます。


 すると、ディーンと激しい打ち合いをしている少年がいました。


 腕前はほぼ互角……いえ、ディーンが押してますね。


 やがて、少年の手から剣がはじき飛ばされて試合は終了となったようです。


「くっ……やはり、俺の職業では『剣術師』に勝つのは無理か!」


「オルド様……」


 なにか深い事情がありそうです。


 お父様が説明してくれるのを待ちましょう。


「ディーン、オルド。こちらに」


「はい」


「は、はい」


「セティ様は知りませんな。私の第二子、ディーンです。職業は『剣術師』でございます」


「……父上、セティ様というのは賢者セティ様ですか?」


「ああ、そうだ。セティ様が辺境伯領に来てくださることになった。詳しい事情は後ほど話す」


「かしこまりました。セティ様、よろしくお願いいたします」


「うん、よろしく。それで、そっちはソーディアン公爵家の次男じゃないかな?」


「はい。覚えていてくださいましたか」


「君だけ魔力の質が違ったからね。おおよそ、魔法使い系の職業に就いたのだろう?」


「……セティ様はなんでもお見通しですね。俺の職業は『魔術士』です」


「なるほどなるほど。それで、職業を徹底的に鍛え上げ、上位のものに置き換える実績のあるシュミット辺境伯に預けられたわけだ」


「はい。……悔しいですが、剣術師と剣で勝負してもまったく勝てる道筋が見えませんでした」


「なるほどね……そういうことなら辺境伯領についてから相談に乗るよ。ふたりを教えるついでに、ひとりくらい相談に乗ってあげよう」


「ありがとうございます、セティ様」


 オルド様はかなり意気消沈としています。


 僕がなにか手助けしてあげられればいいのですが……難しそうですね。


 その日はささやかな親睦会を行い、翌々日の出発に備えることとなりました。


 辺境伯領に戻ってたっぷり錬金術がしたいです……。

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