75.特殊依頼:周辺の生態系調査
「おう、来たな。スヴェイン、アリア」
マオさんたちを見送ったあと、冒険者ギルドにやってきました。
ギルドには本当にタイガさんがいてくれましたね。
「おはようございます、タイガさん」
「おはようございます」
「まあ、固くなるな。飯は?」
「宿で食べてから来ました。エルドゥアンさんからも『朝食時に行くと依頼の争奪戦に巻き込まれます』と、アドバイスをいただきましたので」
「そりゃ正解だ。お前さんたちに頼みたい依頼は、ギルド直の指名依頼に近いものだからな」
「指名依頼……ですか?」
「それを私たちが?」
「おう、むしろ特殊採取者なら薬草なんかを探すのは得意だろう?」
「ええ、まあ。群生地でも探してくればいいのですか?」
「ああ、違う違う。とりあえず、ギルドの職員から話を聞こうぜ」
タイガさんに先導されてギルドの受付に行き、彼は『塩漬け依頼22番の説明を頼む』と受付のお姉さんに言っていました。
ここでも塩漬け依頼ですか……いいんですけどね。
そのあとはギルドの担当者の方と一緒に打ち合わせ用の部屋へ入ります。
そこで説明が始まりました。
「タイガ様、そちらのおふたりが22番を受けてくださるのですか?」
「まあ、話すだけ話してみろよ。だめだったらだめだったで仕方がないんだからよ」
「それもそうですね。ええと、スヴェインさんとアリアさんでしたね。塩漬け依頼というのは……」
「知っています。長い間、誰も受けずに放置されていた依頼ですよね」
「放置というと聞こえが悪いですが……実際似たようなものですから反論できませんね。では、塩漬け依頼については知っているものとして話を進めさせていただきます」
「よろしくお願いします」
「22番の依頼内容ですが『この街から日帰りできる範囲内にある、野生の動植物に関する生態系調査』です」
うん、そんなに難しい内容でもないような?
僕が首をひねっていると、アリアも首をかしげています。
うん、かわいいですね。
「お前ら、難しくないとか考えているだろう?」
「はい。といいますか、拠点周辺の生態系、野生動物のねぐらや薬草、毒草の群生地を調べるのは普通では?」
「……うん、お前らやっぱり冒険者じゃなくて採取者だわ」
「おふたりのような考え方のできる冒険者が増えてもらえると、当ギルドとしても本当に助かるのですが……」
「違うんですの?」
「アリア、冒険者ってのはな、もっと過酷な世界で生きてるんだよ。だから、足元なんて見やしねえ」
「はい。その結果、討伐帰りに下級モンスターに襲われて深手を負わされたり、命を落とすなんて例も年に何件か報告があります」
「意外ですね。僕の知っている冒険者さんは、もっと地に足をつけて慎重に物事を運ぶ方々でしたので……」
「そういうやつらは大成しているのが常だな。そいつらのランクは?」
「たしかBでした」
「Bランクまで上がってりゃ立派だよ。Aランクなんてならない方が身のため、街のためだからな」
「え?」
「ああ、こっちの話だ。それでこの依頼、受けてもらえるか?」
「そうですね、受けることは可能です。いくつか条件はつけさせていただきますが」
「なんでございましょう。可能な範囲であれば対応いたします」
「まずはこの街周辺の地図を用意してください。僕たちも旅の途中で立ち寄っているだけですから、街中も含めて地理には疎いです」
「それはもちろんです。探索してほしい範囲も指定しておきます。ほかにご要望は?」
「できれば、まだ森の中を歩き慣れていないような新人冒険者を1グループ、それと彼らの護衛を1グループつけてください」
「可能ですが……理由は?」
「『日帰り可能な範囲』なんですよね? 僕たちは森歩き、山歩きに慣れてしまっているので、普通の平野を歩く感覚ですいすい歩けます。でもそれだと、『日帰り可能な範囲』の計測にはなりません」
僕たちだけだと本当に森の中を邪魔されずに進めてしまいますからね。
僕たち基準の日帰りが往復3日といわれても不思議じゃないのです。
「なるほど……確かに、そうですね」
「そのためにまだ体力の育っていない新人冒険者を使い、半日で移動できる距離を確認。お昼休憩を終えたら、また別の道を使って街に戻ってくる。そういう計画で進めたいと思います。いかがでしょう?」
「わかりました、その予定で進めましょう。護衛はもしもモンスターに襲われたとき……新人グループを守る役目ですね?」
「ええ。昨日の模擬戦の話を聞いておられるのでしたら早いのですが、僕たちはこう見えてかなり強いです。それも、対モンスター特化です」
「わかりました。その予定で手配をかけましょう」
「よろしくお願いします。準備には何日かかりますか?」
「明日の朝には出発できるようにしておきます。明日の朝二の鐘ごろギルド出発でよろしいですか?」
「はい。では、手配をお願いします」
「こちらこそ。……そういえば、何日間調査をしていただけるのでしょう? この依頼は歩合制になりますが……」
「とりあえず、明日からだと5日間の予定でお願いします。イナさんの体調に問題がなければ、その次の日にはこの街を出る予定ですので」
「承知しました。では明日からよろしくお願いいたします」
こうして、翌朝からは依頼を受けることとなりました。
朝二の鐘でしたらイナさんの朝の歌を聴いてから、ギルドに移動して諸準備をしても間に合います。
帰りも遅くならなければ夕食の歌を聴けるでしょう。
うん、問題ありません。
**********
「お待たせしました。本日、護衛を担当してくれる【アイシクルブロウ】の皆さんですね」
調査開始日当日、指定された時間の30分ほど前に集合場所に向かうと20歳くらいの男女4人組がいました。
ギルド職員の話によれば、彼らが護衛担当のはずです。
「ああ、そうだ。君たちが特殊採取者のスヴェインとアリアかい?」
「はい、スヴェインです。よろしくお願いします」
「アリアです。よろしくお願いいたします」
「あ、ああ。あとは、護衛対象の【スワローテイル】が来てくれれば全員集合なんだが……」
「まだ来ていないみたいですね。僕たちが一番最後だと思っていたのですが」
「君たちの事情は聞いているし、感謝もしているよ。イナさんの容態はどうだい?」
「声がかすれる様子もないですし、体力の回復は順調なようです。調子が悪いと感じたら、その歌が終わり次第終了してくれていますし」
「じゃあ、ひとまずは安心と言うことか。本当によかった」
「ええ。いざというときのために薬は渡してありますが、薬に頼らない方がいいですから」
「そうだな。……しかし、【スワローテイル】は遅いな」
「僕たちも遅かったですし……」
「君たちは事情があることを事前に説明されているし、今日は調査範囲についても説明を受けてきたんだろう? なら、多少遅くても文句は言わない。こうしてブリーフィングの時間は持てているわけだしな。だが、そういった事情のない【スワローテイル】が遅れているのはいただけない」
「そういうものでしょうか?」
「ええ。君たちもほかのパーティと行動をともにするときは気をつけなさい。時間ギリギリでも問題ない依頼か、早めに来て打ち合わせをしたほうがいい依頼かを考えてね」
【アイシクルブロウ】の女性の方が僕たちに忠告をしてくれました。
先輩の教えです、ありがたく聞いておきましょう。
「……これ以上待つと出発が遅れるな。スヴェイン、今日の予定を説明してくれ」
「はい。今日の予定ですが……」
僕は地図を取り出し、今日の指定された調査範囲と僕たちだけで行動した場合の調査範囲予想、そして新人冒険者がついてこられるだろう範囲の調査範囲予想を話します。
これに驚いていたのは【アイシクルブロウ】の皆さんですね。
「いや、すまない。少しみくびっていたようだ。調査範囲予想もしっかり立ててある。それも自分たちだけの場合と新人がついてこられそうな範囲、ふたつを想定しているとはな。この手の依頼を受けたことがあるのか?」
「いいえ。ただ、団体行動するときは予定のほか、実際に行動できそうな予測も立てるようにと師匠から教わりました」
「素晴らしい師匠だな。今日の午前中は君たちだけで行動した場合の予想範囲で動こう。それで、どの程度動いたら新人たちがバテるか……」
「すいません! 遅くなりました!」
謝りながら集合場所に飛び込んできたのは15歳ほどの少女。
セリフからして【スワローテイル】のひとりでしょうか?
「なに慌ててるんだよ、リノ。まだ集合時間には早いって言ってるだろう?」
「集合時間じゃなくって出発時間だって言ってたじゃない! それを忘れたの?」
「大差ないって。俺たちは森の中を歩けばいいだけの仕事なんだからさ」
「そうそう、そんな難しく考えることは……」
「お前たちが【スワローテイル】か?」
「へ、あ、はい」
「ずいぶん遅い到着だな? 事情があって到着が遅れる予定だった探索リーダーでさえ、出発30分以上前には来ていたのに」
「いえ、でも……森の中を歩くだけですよね? だったら……」
「例えそうだとしても数日間にわたる合同調査だ。早めに来て顔合わせをすませるのが常識だ」
「えっと、すみません!」
「あ、はあ、申し訳ありません」
少女はきっちりと謝っていますが、残りの少年たちはあいまいな謝り方ですね。
あれはなにが悪いのか理解していないでしょう。
「もういい。今日の探索範囲の打ち合わせは済ませてある。お前たちは余計な事はせず、ただついてこられる範囲でついてこい」
「うっす」
……なんというか、前途多難、ですね。
でも、引き受けた仕事はきっちりこなしましょう。
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