308.師匠の野望、弟子の野望
「『フレアストライク』です!」
「『アイシクルチェイサー』!」
『ふはは! いいぞ、いいぞ! 育ってきているではないか、ニーベ、エリナ!』
「ありがとうです!」
「ありがとうございます!」
サンディさんにお金の使い方でダメ出しをされてから更に一週間が経過。
本日は弟子たちの魔法指導日です。
講師はもちろんアリアなので僕は手出し無用、口出し厳禁。
あと、様子が見たいと言いだしついてきたサンディさんもいます。
「十二歳で『フレアストライク』に『アイシクルチェイサー』……どっちもレベル30の魔法……」
「魔力収束もなかなかのものでしょう?」
「はい。自分がシュミット出身者であるからこそわかります。恐ろしいまでの密度ですね。普通の『サンクチュアリ』は貫通します」
「だから最近は魔法の修行も場所に困っているようで。コンソールを遠く離れたこの場所で、的がカイザーです」
「
「最初はアリアたちも嫌がっていたらしいんですが、カイザーが面白がって的になり始めたらしく。今では最初から的にしているようです」
「普通は竜に手を出したら殺されますよね」
「今の彼女たちならワイバーン程度は平気で倒せます」
「ですよね」
『さあさあ! もっと撃ってくるのだ! ニーベ、エリナ!』
「カイザー様、ゴキゲンですね」
「まったくですよ。弟子たちは竜に好かれる性質でも持っているのか」
あの『パンツァー』ですらこの子たちが気に入ったのです。
なにがどうなっているのやら……。
「それにしても……その『魔導錬金術師』ですか? 具体的にはどのようなことが?」
「『隠者』の劣化版らしいです。あまりにもワイズが具体的なことを教えてくれないので同じワイズマンズのシェビィに聞いたら、軽くさわり程度は教えてくれました。錬金術特化、賢者並みの魔法能力、各生産職業『師』程度の生産能力だそうです」
「いやいや。それって、人間種の時間だけじゃ極められないですからね?」
「はい。ワイズもなにを考えてこのような超級職を超える職業をすすめたのかわかりません」
「聖獣様ですし面白がってすすめただけでは?」
「ワイズマンズですよ? 少なくともニーベちゃんは真剣に悩んでいました。それを面白半分に苦行の道へ誘う真似はしません。彼女の第一志望は『賢者』でしたが、そもそも目的と手段が食い違っていましたから」
「そうなんですね……」
「はい。と言うわけでして、なぜワイズが『魔導錬金術師』などと言うふざけた職業をすすめたのか……」
本当になぜすすめたのでしょう。
この職業について知れば知るほど理解できなくなります。
僕の後継者を育てたいのでしたら、ニーベちゃんはあまりにも年齢が近すぎる。
僕の代替品を育てようとしたところで聖獣たちが従うかは未知数だった。
あまりにも謎が多すぎる。
ワイズを問いただしたところで答えが返ってくるはずもないですし……。
『む。また来たか』
「また来た? なにがですか?」
『少し待っておれ。すぐに吹き散らしてくる』
「吹き散らす? まさか……」
カイザーは僕の疑問には答えず地平線の彼方へと飛んでいき……わずかばかり経ってから戻ってきました。
『さて、用事は済んだ。魔法の訓練を……』
「カイザー、答えなさい。月に何回くらい攻めてきているのです?」
『……お前が出ていくとややこしくなる。街道の警備は』
「僕はあなた方の主です。知っておく権利と義務があります」
『やれやれ、頑固者が。私は月に二度ほどだ。ほかの竜たちも何回かは動いている。竜に何度も攻めかかるなど、まったくもって愚かしい』
「なぜ僕に説明も相談もしないのです?」
『お前に相談などすれば動くだろう? だからだ』
「しかし、それでは……」
『捨て置け。お前たちは動くべきではない。お前たちが人里に来ていること、受け入れられていることが奇跡なのだ。人の命は儚きもの。今はその夢を甘んじて受け入れよ』
「僕が動けばすぐにでも解決するものを」
『故にこそ動かせぬ。その街の者たちも本能的に理解しているのであろう? だからこそ誰も知らせぬ。グッドリッジだったか。あれが例外中の例外だ。お前が人として動いた。お前がお前として動けば国を終わらせてすべてが解決だ』
「……」
『もう一度言う。捨て置け。我らが守りし我らの宝。何人たりとも踏み荒らさせはせぬ』
「……お願いします、カイザー。ほかの竜たち。眷属たちも」
『任せよ、我が主。その言葉こそ我の望むもの』
「……ニーベちゃん、エリナちゃん。今日はもう帰りましょう。魔法の訓練という気分ではないでしょう?」
「はいです……」
「先生、つらそうですが大丈夫ですか?」
「ええ、僕は大丈夫です。弟子にまで心配させるとは不甲斐ない」
『まったくだ。お前の野望を叶えるまであと一歩であろう? 今立ち止まる時間があるのか?』
「先生の野望、です?」
「そんな話聞いたことありませんよ?」
『なんだ、弟子にすら話していなかったのか?』
カイザー!?
余計な事を話さないでください!!
『そやつが抱いてしまった野望。お前たちを見て夢見てしまった夢の果て。それは人の都市を造ることだ』
「街ですか!?」
「先生、スケールが違いすぎます!!」
『それもただの都市ではない。人を育てるための都市。お前たちのような優れた人の子を育む場所だ』
「先生!!」
「なんて夢を!?」
『その都市を造るための縄張りは手に入れた。財宝もある。あとは育てるための親鳥が足りぬと嘆いている』
「親鳥……」
「つまり、先生のような人……」
『それを手に入れるため必死でもがいているのだ。お前たちもいずれ力を蓄え自ら羽ばたいた暁には力を貸すとよい』
「……」
「……」
『では我はまた眠る。またな』
カイザー!?
言うだけ言って、自分は寝るのですか!?
「先生! どうしてそんな大切なことを黙っているんです!?」
「そうですよ! ボクたちそんなに頼りないですか!?」
「ああ、いえ。それは……」
ああ、こうなるから黙っていたのに。
「あなた方はまだまだ頼りないですよ」
「アリア?」
「アリア先生」
「アリア先生……」
「あなた方はまだまだ誰も教えたことがない、カイザーに言わせれば小鳥。そのような人材、私たちの野望には不要です」
「先生……」
「でも……」
「なので、今は我慢なさい。そして、あなた方が親鳥となったときにまた帰ってきなさい。そうすれば私もスヴェイン様も迎え入れます」
「!?」
「本当ですか!!」
「嘘は言いませんよ。教育者はどれだけいても足りないのですから」
「わかりました!!」
「先生方の下を巣だったら必ず立派に成長して帰ってきます。自分たちの弟子を連れて!!」
「ええ、そのときを楽しみに待っています。なので今はまず、あなた方が私たちの教育を受けなさい。話はそれからです」
「はい!」
「わかりました!」
「よろしい。では今日の訓練終了です。帰りましょうか、皆さん」
やれやれ、おいしいところはアリアがすべて持っていきましたね。
なお、この話を聞くことになったサンディさんも教育者側になることを強く希望。
アリアが『まずは弟子を育てるところから始めなさい』と言ったため、今後のプランを練り始めました。
翌日には僕とアリアをコウさんのお屋敷に呼び出してプランを発表、それによれば弟子ふたりの育成が終了したあともこの街にとどまり『魔法研磨』の私塾を開くそうです。
アリアもそのプランに賛成し、リリスを呼び出して〝スヴェイン流〟の集中講義をサンディさんに受けさせる始末。
こうして『魔法研磨』の先生となったサンディさんは弟子たちの育成の傍ら、街の子供たちに『魔法研磨』を実演し将来の卵を探し始めました。
思わぬ拾いものをしたのはよかったのですが……これ、シュミットから直接サンディさんをコンソールに引っこ抜きましたよね?
シャルに一言も相談していませんが、大丈夫ですか、アリア。
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