309.錬金術講師エレオノーラ

「エレオノーラ先生またねー!」


「ばいばーい!」


「皆、気をつけて帰ってねー!」


 今日は元錬金術師ギルド第二支部予定地だった場所を使っての講習会日です。


 本日錬金術の講義があったため、講師であるエレオノーラさんはフル稼働でした。


「エレオノーラさん、ご苦労様です」


「ギルドマスター、お疲れさまです。なぜここに?」


「いえ、あなたが講習会を開いていると聞いて……」


 そう、錬金術の申込数は非常に多いらしく、なんと週二日のペースで開催しているのだとか。


 それでも、抽選で順番待ちが発生しているのですから……このウサギ、侮れません。


「あー、まずいですかね」


「いえ、不味くはないのですが。ちゃんと休みは取っていますか? 休日に講習会をしているのなら」


「それはないです! 以前ので懲りました!」


「そうですか。ん? ちなみにあなたって師匠……セティ師匠の教えを受けてますよね」


「はい、僭越ながら」


「そちらは大丈夫なんですか?」


「えーと、あまり大丈夫では。ただ、セティ様からは『基礎と製法はしっかりとできている。あとは回数をこなして安定化するだけだから何の問題もない』と太鼓判を押されちゃいました」


「そうですか。セティ師匠はお世辞は言いません。師匠がそういうのでしたらそうなのでしょう」


「そうだと嬉しいです。最近はセティ様も『ポーション作りなんかより、子供たちを飽きさせないための指導方法を考えろ』って課題を出されていて。ポーション作りは最低限しかしてません」


 あの師匠、他人にものを教えることにはまり出し始めましたね?


 一過性のものだといいのですが。


「セティ師匠がそういうのです。あなたは気にせず存分にやりなさい」


「はい……あの、お話中失礼なんですが、昼食を食べてもよろしいでしょうか? そろそろご飯を食べ始めてを始めないと……」


?」


「はい、少しでも待ち時間を少なくするためにに分けて講習をしています。子供たちをあまり待たせてもいけないので」


 なるほど、これが錬金術の人気の秘密ですか。


 回転も速いから子供たちのネットワークにも乗りやすい。


 その結果として応募が殺到する。


 悪循環じゃないですかね、これ。


「エレオノーラさん、無理をしていませんか? あなたが倒れては元も子もないですし、ギルド本部に……戻ってもこちらが優先か。ともかく錬金術講習はあなたなしでは回らないんですからね?」


「ちゃんとわかってます。最近は休日しっかりと休むことも覚えました。元気全開です」


「なら結構ですが……不安ですね。今日の午後の講習は僕も付き合いますよ」


「そんな、ギルドマスターまでなんて、恐れ多い!」


「気にしない、気にしない。子供たちの邪魔はしませんから」


「わかりました。少しだけですよ?」


「ええ」


 子供たちがやってくるというので、僕も手早く食事を終えエレオノーラさんとともに会場をセッテイングします。


 講習開始三十分前から子供たちは集まり続け、その中には極めて異彩を放つ子たちもいました。


 虎と狼の聖獣に乗っている子供たちです。


 あの子たちってリリスが教えてませんでしたっけ?


「スヴェインお兄ちゃん、こんにちは」


「こんにちはー」


「はい、こんにちは。あなた方、リリスから錬金術を学んでいませんでしたか? なぜ初心者向けのこの講習に?」


「リリス先生が他の人の教え方を見るのも勉強だって」


「でもおかしくてもしてきしちゃいけないって言われたの」


 リリス、あなたの英才教育はどこまで……。


『それよりも、あなた方、スヴェインに名前を名乗ったことがある?』


「あ、そうだった!、あのね、わたしミリアって言うの! この子はシルク!」


「僕はアーヴィン! こっちの狼はランサー!」


「シルクにランサー……」


 聖獣たちが名付けを受けて拒まなかった。


 そして自分の背中に乗せて歩いている。


 つまりそれは。


「あなた方、聖獣契約しましたね?」


「せいじゅうけいやくってなに」


「よくわかんない」


『大丈夫よ、この子たちにばれないように行ったから』


『ガゥ』


「ばれないようにって、あなた方……」


『契約方法もいろいろあるの。それに……』


「それに?」


『この子たちの輝きを見て、ほかの聖獣たちも集まり始めていたわ。先に目をつけたのは私だもの譲れないわ』


 聖獣って独占欲が意外と強いですからね。


 特に何匹も同時に契約できない、高位聖獣や子供相手の契約だと。


『それじゃあ。アーヴィン、ミリア。私たちは教室の端のほうで寝ているから、帰るときまで待ってるわ』


「うん、ありがとう!」


「ランサーもありがとうございます!」


『ガァウ』


『あなたを乗せて歩けてランサーも喜んでいるわよ』


「よかった」


 聖獣に乗ってやってきた子供がいましたが、他の子たちは特に気にせず思い思いの席に座り始めました。


 このふたりも初めてではないのでしょう。


 いつの間にか席も満席になりいよいよ講習開始のようです。


「皆、こんにちはー」


「「「こんにちはー!」」」


「今日が初参加の子ってどれくらいいるのかな?」


 エレオノーラさんの問いかけに元気よく手を上げる子供の数はまばらでした。


 それだけ、この講習会を何度も受けている子供たちが多いのでしょう。


「そっかー。その子たちは! 今日は私が所属している錬金術師ギルドのギルドマスター、スヴェイン様も来てくれているんだよ!」


 エレオノーラさん!


 付き合うとは言いましたけど、いきなり話を振らないでください!


「「「わーい!」」」


 これは……出ていくしかないですよね。


「どうも、錬金術師ギルドのギルドマスター、スヴェインです」


「あれ、錬金術師ギルドのギルドマスターって思ったより子供?」


「でも、私たち一緒に一緒に遊んだことあるよ! お裁縫上手なの!」


「あと剣の素振りとかも教えてくれた! シュミットってところから来ている大人たちより強いんだぜ!」


「すごい!」


「すげー!」


「わーい!」


 子供たちは本当にパワフルですね。


 これでは僕が押し切られそうです。

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