310.万能講師スヴェイン先生
「ねえねえ、スヴェインお兄ちゃん。お兄ちゃんって錬金術以外にどんなことができるの?」
子供の素朴な質問、嘘は言えませんよね。
「え? 大抵の事ができますよ? ただ、どれも本職の職人たちには劣りますが……」
「本当! 私、お料理しているところ見たい!」
「私も!」
「じゃあ、僕も!」
やんややんやと料理をせがまれ……仕方がないので料理をすることに。
とはいえ、お昼ご飯は食べてきているでしょうし……聖獣の森で採ってきた果実のジュレでもごちそうしましょう。
適度に果汁を搾り出しそれを固め、少しだけ果肉を乗せれば……できた!
「はい。お料理……というかお菓子ができましたよ」
「お菓子!」
「お菓子だ!」
「うわーい!」
「皆の分をしっかり作ってあります。ちゃんと列を作っていい子にして受け取るんですよ?」
「「「はーい!」」」
聖獣の森で採れた果実……サニーオレンジのジュレは子供たち皆の元へと行き渡ったようです。
「ひとり当たりの量はあまり作れませんでしたからね。ケンカしてはダメですよ?」
「「「はーい!」」」
「ではお食べなさい」
「わーい!」
「なにこれ!! すごく甘くてちょっとだけ酸っぱーい!」
「でも、ぷるぷるしていておいしい!」
「てっぺんに乗ってる果物もおいしい!」
「とっても甘酸っぱい!!」
「ああ、でも、もう無くなっちゃった……」
「スヴェインお兄ちゃん、お代わりは?」
「ありません。……そうだ。ついでですから、今作ったジュレの作り方を少しだけ教えましょう」
「ほんとう!?」
「おうちでもこんなにおいしいの食べられる!?」
「うーん、素材が特別性なのでここまでおいしいかは保証できませんが……自分で作る楽しさはあるでしょう」
「じゃあ、お家でお母さんと作ってみる!」
「ええ、そうしてください。それで、作り方ですが……」
僕は丁寧にジュレの作り方を指導しています。
さすがに何度も失敗してぐずり出す子供もいましたが、なんとかあやして僕がお手本を披露するとなんとか作れるようになりました。
……って、ここまでですでに一時間以上経過している!?
「ああ、ええと、次は……」
「お兄ちゃん、私、お裁縫が知りたい!」
「ハンカチに自分のお名前を刺繍できるようになりたいの!」
「ええ……」
これ、錬金術の講義ですよね?
「俺たちは鍛冶もやってみたい!」
「鍛冶の講習は出たけどハンマーは危ないから触っちゃダメだって」
「うーん、軽いハンマーで柔らかい金属を鍛えさせる程度ならいいでしょう」
「本当!」
「やったぜ!」
「では、刺繍を習いたい子はこちらへ。鍛冶をやってみたい子はあちらに集まってください」
「「「はーい!」」」
……これ、錬金術の講習ですよね?
いいのでしょうか?
********************
「うわぁ……」
「きれぃ……」
「すげぇ」
「お星様ができていくみたいだ」
「……とまあ、これが『魔法研磨』です。今回使った宝石はかなり上級者向けのものなので、たくさんお勉強しなければ真似事すらできません」
「でもお勉強すればできるんだ!」
「私、お勉強してみたい!」
「わたしもお星様作ってみたい!」
「そうですか。それでは『魔法研磨』の講習をしてくれているサンディ先生に習うといいでしょう。彼女も忙しいので十日とか一週間に一回くらいしか講習をできていませんが……」
「じゃあ、お母さんに頼んで早く講習を受けられるようにしてもらう!」
「私も!」
「サンディ先生も喜びますよ。『魔法研磨』はまだまだ知名度が不足しているので子供が集まらないと嘆いていましたから」
「あんなに綺麗なのに?」
「ねー?」
「なので、サンディ先生の講習に顔を出してあげてください。彼女も喜びます」
「「「はーい!」」」
「……っと。時間もかなりオーバーしてしまいましたね。これで今日の講習は終わりにしましょう。錬金術の講習は結局できなかったのですが」
「そんなことないよ! 僕楽しかった!」
「私も! 普段も楽しけどこういうのも楽しい!」
「スヴェインお兄ちゃん、また教えて!」
ええぇ……。
一応、錬金術講義の時間なんですが。
「はいはい。皆はそろそろ帰ってね! スヴェインお兄ちゃんには私からもお願いしておくから!」
「エレオノーラさん!?」
裏切りましたね!
「やったー!」
「絶対にまた来てねー!」
「ばいばーい!」
子供たちが嵐のように教室から出て行き……取り残されたのは僕とエレオノーラさんのふたりだけです。
「エレオノーラさん、どういうつもりですか?」
「だって、私もわくわくしちゃいました! 次はどんなことが教えてもらえるんだろうなって思ったらいてもたってもいられないです! 子供たちの気持ちもよくわかります!」
「いや、錬金術の講習で他のものばかり教えてはまずいでしょう?」
「え? どうしてですか?」
「はい?」
「子供たちがあんなに元気に、たくさん学んでるんです。錬金術がどうのなんてちっぽけなことはどうでもいいじゃないですか」
……そう言われると、確かに。
子供たちが様々な事に興味を持ってもらうことが僕の目的なわけですし。
「と言うわけで、ギルドマスターも月に一度くらいでいいので教えに来てください! 子供たちも待っていますから!」
「いつ来るかは保証しませんよ?」
「ギルドマスターに会えたら当たりってことで!」
僕はくじかなにかでしょうか?
最近、本部のギルド員も遠慮が無くなりつつあります。
「あと、『魔法研磨』! あれって私は習えませんか!?」
「エレオノーラさんがですか?」
「はい! 私も感動しちゃいました! 錬金術はもちろんがんばります! でも『魔法研磨』もがんばってみたいです!」
「わかりました。サンディさんにはあなたのことを話しておきます。どうなるかはわかりませんが」
「やった! 基本は宝石研磨だから宝石図鑑とか鉱物図鑑は大事だよね、あとは原石? でも、それはあとからでも買えるだろうし、まずは宝石の種類と知識、それから磨き方の勉強からかな?」
「エレオノーラさん?」
「ギルドマスター! この部屋のお片付けを任せてもいいですか!?」
「ええ、まあ。ほとんど僕が出した素材ばかりですし」
「じゃあ失礼します! 図書館にいい本あるかなー!」
ああ、行ってしまった……。
あの様子だと図書館で宝石や鉱物の資料を買って回るんでしょうね。
部屋の片付けを済ませて家に帰る途中、コウさんのお屋敷によってサンディさんに彼女のことを伝えると『絶対に弟子一号にしてみせる』と意気込み始めました。
錬金術師ギルド的には優秀な錬金術師の引き抜きは勘弁してもらいたいのですが……本人の意思を尊重しましょう。
それから後日、製菓ギルドマスターがやってきて。
「錬金術師ギルドマスター! 子供たちになんてものを食べさせてくれたんですか!?」
「なにかまずいことでも?」
「うちの子供向け講師が『スヴェインお兄ちゃんのお菓子の方が美味しかった』と口々に言われて落ち込んでいます!」
「ああ、あのとき。確かにおいしいでしょう。聖獣の森産の果物を使ったお菓子でしたから」
「は?」
「たいした調理ではありません。果汁を搾ってジュレにしただけです。僕では複雑な調理をできないので……」
「ジュレ! そうだジュレ! なんでそんな簡単な調理法すら思いつかなかったのか!?」
「製菓ギルドマスター?」
「申し訳ありません。急用ができました。未熟者にはこちらで腕を磨かせますので失礼いたします」
「はあ」
製菓ギルドも大変そうですね。
さて、あと一週間もすればもう夏。
僕がシャルを連れてコンソールに帰ってきた季節です。
あの大嵐からももうすぐ一年ですか、早いものですね。
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