307.この師匠にしてこの弟子あり

「だから、ここはこう言う風に魔力を流して……こう」


「なるほどです」


「よくわかりました」


「私も指導方法の勉強になります」


 サンディさんからシュミット講師陣のあれこれを教えられて一週間。


 今日は珍しく僕が弟子たちに指導です。


 彼女たちからのお願いで、サンディさんでも難しい宝石のカットを見てみたくなったそうな。


 あと、シュミット講師陣に売っている彼ら向けの教材は週にまとめてエリシャさんが引き取るようになりました。


 それを各講師たちが分け合っているそうです。


 これ以上は責任を持てません。


 それから、服飾の女の子たち。


 彼女たちにはやっぱりリリスからもう少しだけお仕置きしてもらいました。


 結果は『宿の個室だったからお嫁に行けなくならずにすんだ』とだけ。


「先生、私たちがこの宝石をカットできるようになるのはいつぐらいですか?」


「そうですね……まだまだ先でしょう。あなた方では魔力圧縮率も魔力効率も魔力操作能力も足りていません。カットする以前に傷すらつきませんよ」


「そうですか……ボクたちも試してみたかったのですが」


「おや? 宝石に興味が出てきましたか?」


には興味がないのです」


「宝石によくがついているので理由があるのかなと」


 もう少し女の子らしい考え方をしてほしいです。


 師匠からのプレゼントとして普通の髪飾りとかイヤリングでも送るべきでしょうか?


 ……ん?


 宝石によく妖精の卵がついている?


「あなた方、今度は宝石店で妖精の卵を買いあさっているのですね?」


「な、なんのことですか?」


「心当たりがありません」


「思いっきり目をそらさない」


 この子たちは……。


 研究以外でもお金を使ってもらいたいものです。


「それで、お金はどれくらい貯まりましたか?」


「……たくさんです」


「……数えてません」


「あなた方、悪いところまで僕に似なくてもいいです」


 僕も言えた義理ではないのですがどんぶり勘定になっています。


 ですが、お金の大切さはどのように教えればいいのでしょうか?


「あなた方、今度から僕から渡す錬金術素材は買い取り制にしますか?」


「多分それでも余るのです」


「『カーバンクル』の売り上げが多すぎます……」


「そもそも先生から受け取っている錬金術素材もあまりありません」


「はい。薬草類は薬草畑で自家栽培、錬金触媒に使っている魔石も自分たちで買いに行っています」


「うーん……」


 困りました。


 この子たちの元にもお金が貯まる一方で出ていきません。


「サンディさん。あなたの修業時代ってどうでしたか?」


 ダメ元でサンディさんに話を振ります。


「おふたりの環境がとてもうらやましいです。私の修業時代は自分が作ったアクセサリーを売って、なんとか生活費をやりくりしていました。参考書や自習用の教材、道具も自腹でしたし……」


「うーん……」


 サンディさん、ご苦労されていたのですね。


 少しばかり弟子にいい環境を与えすぎたのでしょうか?


「スヴェイン様。この子たちの参考書や教材、道具はどうしているのですか?」


「まず参考書。これはこの街が所属していた国のものはまったく役立たずなのでセティ師匠のものを与えました」


「うらやましい」


「次に道具。付与板はこの一帯で手に入らないだろうと考え僕が自作して渡しました。錬金台は去年の夏まで僕が最初に教えた初心者向けの錬金台を使用し続け、夏に買い換えてからはそれを使い続けています。新しい錬金台は自腹で買わせましたが、そのときにはたっぷりと資金を貯め込んでいました。研磨は……語るまでもないですよね?」


「……うらやましい」


「最後に教材。彼女たちは一から薬草畑を作り上げそこで薬草を栽培し続けています。最初の種こそ渡していますが、それ以外はすべて自家栽培。錬金触媒に必要な魔石は買い取っているようですが、彼女たちが毎週売っているポーションの利益から考えれば微々たるもの。水なんて井戸水から作るのでただですからね」


「ほんっとうにうらやましい! なんですか、その恵まれた指導環境!! ただでさえ優れた指導者に教えてもらっているのに、修行費用さえかからないなんてずるいなんてものじゃありません!!」


「いや……なんだか申し訳ありません」


「それに私を呼んだ費用もスヴェイン様の持ち出しですよね!? 弟子のために白金貨を百枚単位でホイホイ出す師匠なんてまずいませんよ!?」


「まあ、そうなんですが……」


「将来的には弟子から私の出張費用くらい回収してください!!」


「あの……多分、一年で回収してしまいます。彼女たちの修行の仕上げは『秘境』での探索方法ですから、魔物素材を売るだけでも終わります。この子たちはそんな事しないでしょうが、それを加工することで更に上の利益を出すでしょう」


「うわーん!! なんなのこの師弟!? 優秀すぎてツッコミどころがない!!」


「すみません……」


「申し訳ないのです……」


「ごめんなさい……」


「謝られるのも困ります!!」


 どうしましょう?


 この場はどうやって収拾をつければ?


「……サンディさんもこっち側に来ますか?」


「へ?」


「宝飾は専門外ですが、エンチャントと魔法研磨は僕が指導できます。デザインも自由に書き起こし、望む形を武具錬成で作れますから、勉強になりますよ?」


「……………………ものすごい、ものすっごい魅惑的で魅力的で手を伸ばしたいお誘いですけど、断腸の思いでお断りします」


「それはなぜに?」


「ものすごくわかりやすい理由です。そんな指導を受けてしまえば仲間たちから消されます。ええ、物理的に、跡形もなく。ただでさえスヴェイン様のお弟子様を教えているだけでもやっかみを受けているのに」


 やっかみ、受けていたんですね。


 そうなると提供できるものが……。


「なので、コウ様のお屋敷内でのみ、こっそりとオリハルコンとガルヴォルンを分けてください」


「へ?」


「隠れて練習します。コウ様のお屋敷内なら絶対にばれません」


「まあ、構いませんが……そのふたつって」


「宝飾で相性が悪いのはよく知っています。だからこそ練習になるのです」


「……わかりました。その程度でよければ提供いたします」


「……あと、武具錬成でティアラを作ってください。参考資料にします」


「構いませんよ。すべてコウさんのお屋敷内でやった方がいいですよね?」


「ほかの場所でやれば絶対にどこかからばれます。お手数をおかけしますがよろしくお願いします」


 サンディさんもシュミットの講師であり師匠ですね。


 彼女の師匠もしたたかだったのでしょうか?

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