184.宝飾師たちの『デモンストレーション』
宝飾ギルドマスターが部屋を出て行き十分ほどたった後、用意ができたと呼びに来られました。
工房に戻ってみると、宝飾ギルドが雇った講師六人が勢揃いしています。
そして、その周りには宝飾ギルドのギルド員たちがびっしりと集まっていました。
「初めまして、皆さん。スヴェインです」
「「「初めまして。スヴェイン様」」」
「はい。今日は宝飾ギルドマスターからの依頼であなたたちにもお題を出すこととなってしまいました。お手数をおかけしますがよろしくお願いします」
「いえ、シュミット家の方に自分たちの作品を見ていただく機会に恵まれるとは幸せです」
「はい。本国だと私たち程度では恐れ多いことです」
「僕はシュミット家を出ているので気を楽に。……さて、お題です。あちらにおられるシュベルトマン侯爵の奥様と娘様。それぞれへのプレゼントを作っていただきます。奥様へはイヤリング、娘様へは指輪です」
「スヴェイン様、シュベルトマン侯爵から奥様と娘様の特徴を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ダメです。代わりに三年前に描いた姿絵をお借りいたします。それから今の姿を思い描き、それぞれに似合うデザインのアクセサリーを作りなさい」
「……やはりシュミット家です。お題に容赦がない」
「無理なようでしたらシュベルトマン侯爵から最近のご様子を伺っても構いませんが、どうします?」
「いえ、姿絵だけで十分です」
「わかりました。それから、シュベルトマン侯爵はおふたりの健康を願っています。それを忘れぬよう」
「オーダー承りました。素材はいかがいたしましょう」
「僕が用意します。純ミスリルは取り扱えますね?」
「もちろんです。少量ならオリハルコンも混ぜられます」
「では、ミスリルとオリハルコンを置いていきます。あと、宝石は原石を多数置いていきます。その中から好きにお使いなさい」
「ありがとうございます。お時間はいかほどいただけますか?」
「一時間半で」
「承知いたしました。皆も問題ないな」
「「「はい」」」
「よろしい。……シュベルトマン侯爵、ロケットペンダントをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。これだ」
「それでは失礼して。……原石はこれらです。それから、インゴットはこちらに。ロケットペンダントはこれです。姿絵もこの中です。当然ですが……」
「傷つけるような真似はいたしません」
「結構。では始めてください」
「お、おい! まだ、姿絵も確認していないのに!?」
「ふむ、三年前でこのお姿か……」
「娘様は十歳くらいかしら? 今だと十三歳くらい?」
「貴族様の姿絵だ。まだ十一歳くらいの可能性もある」
「……指輪班、動けるか?」
「イメージスケッチ、十分で起こします」
「その間にインゴットを加工します」
「原石も選ばせてもらいます」
「よし。俺たちはイヤリング班だ。奥様の特徴だが……」
「な、なんだ。あの手際の良さは?」
「おや、少し簡単すぎるお題でしたでしょうか?」
「……いやぁ、ギルドマスター? 三年前の姿絵から現在の姿をイメージしてってかなり難しいお題ですよ?」
「……そういえば、宝飾ギルドは講師代をかなり高額に設定していましたね。やはり簡単すぎるお題ですね」
「私どもとしては本気で行う彼らの仕事を間近で見る機会、まことに光栄です」
「どっちのギルドマスターも話を聞いてませんね」
ミライさんの言うことは放置です。
実際、指輪は三十分以上残して完成していましたし、イヤリングも同じくらいに完成していました。
現在は非常に精緻な細工を施しているところです。
「すげぇ……」
「私たちもあれを学べるの……」
「魔法で宝石をカットするところとか見たかよ。あれだけで芸術品だぞ?」
うんうん、このギルドにも熱が入っているようで結構ですね。
彼らは細工も終わり、今は宝石箱を仕上げています。
宝石箱は依頼外ですが、まあサービス品としましょう。
「スヴェイン様、すべて完了いたしました」
「よろしい。一時間十八分。依頼外の宝石箱まで作ってこの時間とは恐れ入ります」
「失礼ながら。宝飾品を扱うには宝石箱は必需品かと」
「……確かに。僕が失礼でした。お詫びいたします」
「差し出がましい事を述べました。では、お納めください」
「はい。……シュベルトマン侯爵。まずはロケットペンダントを返却いたします」
「う、うむ」
「そして、こちらが依頼の品。奥様のイヤリングと娘様の指輪です。ご確認を」
「ああ。……おお、なんと美しい。娘は今十二歳だがこれならば気に入ってくれるであろう」
「シュベルトマン侯爵。それらのアクセサリーには【体力上昇】および【疾病耐性】、【生命力回復速度上昇】のエンチャントも施してあります。可能であれば普段からおつけいただくようにご進言願います」
「な……アクセサリーに三重エンチャント? しかも、指輪には【自動サイズ調整】もかかっているはずだぞ?」
「はい。指輪の方はなかなか苦労いたしました。スヴェイン様がオリハルコンを分けてくださらなければ完成できませんでした」
「おや、まあ。それだけで一大財産ですね。シュベルトマン侯爵」
「いや、その。このようなものをいただいていいのだろうか?」
「もらってあげてください。アクセサリーも使い手がいないと錆びるものです」
「あ、ああ。妻と娘に必ず渡そう」
「よろしくお願いします。……宝飾師の皆さん。お疲れ様でした。使っていない宝石は回収させていただきますが、残っているインゴットは差し上げます。それを使ってこれからも修行を忘れずに」
「本当ですか!?」
「やったー!! 本物の純ミスリルに純オリハルコン!!」
「俺たちの給料じゃ買いたくても市場に出回らないからな!」
「……そんなに修行用のインゴットがほしければ無くなったときに錬金術師ギルドを訪ねてきなさい。僕がいればインゴットを売って差し上げます」
「本当!!」
「よし! これで国元の連中を追い抜ける!!」
「シュミット公国でも純オリハルコンなんて手に入らないものね!」
ここの講師陣も本格的な仕事人ばかりですね……。
人選に抜かりはないと言うことでしょうか。
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