301.森の恵み、泉の恵み

 ギルド評議会から数日後、僕たちはとりあえず聖獣の森へとやってきました。


 目的は森の食材を分けてもらうこと。


 錬金術師ギルドからは道案内役の僕とオマケのミライさん。


 調理と製菓からはそれぞれのギルドマスターとサブマスターほか数名ずつがやってきています。


 あと、食いしん坊のアリアと弟子たちにフルーツパイを作るための食材を探しに来たリリスも一緒に。


 アリアとリリスは自分たちだけでも来ることができるでしょう?


「錬金術師ギルドマスター、本当に聖獣の森に食材はあるのかい?」


「私も疑問ですね。あまりあるように感じないのですが……」


 調理と製菓のギルドマスターたちはあまり信じることができていないようです。


 普段はうっそうとした森ですし仕方がありませんか。


「たくさんありますよ。聖獣たちの案内がなければ分けてもらえませんが」


「久しぶりの聖獣の森です。この季節でしたらルビーベリーでしょうか?」


「そろそろクリスタルマンゴーも採れるはずです。がんばっているあの子たちのためにもたくさんの種類を持ち帰らねば」


「本当にあるんですか? スヴェイン様が言うんですから本当でしょうけど……」


 ちなみに僕たちは全員馬なり騎獣なりに乗っています。


 森の恵みを分けてもらうにはそれなりの場所にいかなければいけませんからね。


「さて、森までつきましたね」


「はい。この森ではどんな食材が取れるのか楽しみです」


「うーん、やっぱりただの森なんだけどなあ?」


 ミライさんも疑い深い。


 さて、案内役の聖獣を……おや?


『この間はどうもね、人間たち』


「前に会ったドライアドさん」


『ええ。私が間違えて作ってしまった森も大分綺麗になってきたわ』


「そのようです。あの森がなくなったら、伐採してもいい範囲の木々を教えてくださいね」


『ええ、もちろん。私もいるし、木を切り倒しても三日あれば元通りよ」


「それは頼もしい」


 本当に頼もしいです。


 また『うっかり』森の範囲を広げられては困りますが。


『それで今日はなぜ森に?』


「そうでした。森の恵みを分けてもらおうと」


『お安いご用よ。果物だけでいいの? 薬草や山菜もあるけれど』


「……らしいのですが、どうしますか?」


「ああ、いや。今日は果物だけでいいよ」


「ですな。必要でしたらまた取りに伺ってもよろしいでしょうか?」


『いつでも私がいるとは限らないけど、呼びかけてもらえれば誰かが出てくるわ。その子が案内する範囲でならいくらでも持っていっていいわよ』


「話はまとまりましたね。それでは行きましょう」


『ええ、今道を開けるから』


 ドライアドさんの言葉通り、森の木々がふたつに分かれて道ができました。


 さて、採取の始まりですね。


『では、ついてきて』


「ウィング、ほかの馬たちが逃げないように見張りを」


「ユニもお願い」


『任せてよ』


『私はグリーンキャロットがいいわ』


『じゃあ僕は果実樹の蔓で』


『我もホワイトホーンが食べたいぞ』


 マサムネまで念話を使っておねだりとは珍しい。


 どれもこの季節なら手に入るでしょうし、持ち帰るとしましょうか。


『聖獣さんは食べ盛りね』


「普段街にばかりいるので森の恵みに飢えているんです」


「たまにはいいものを食べさえてあげないと愛想を尽かされそうです」


『ふふ。じゃあ、聖獣さんのおねだりもとって帰らなくちゃね』


「お願いします」


『任されたわ』


 そこから先は森の中にできた小道を歩きつつ、様々な果物を収穫です。


 アリアの目当てであるルビーベリーは今が食べ頃で、家で食べる分もしっかり確保しつつ、食べ歩いていました。


 リリスはクリスタルマンゴーのほかエメラルドメロン、サファイアベリーなども確保しご満悦です。


 僕は僕でサニーオレンジを食べ歩いたり聖獣たちの要望した山菜類を確保したり、こっそり錬金術素材を分けてもらったりと余念がありません。


 問題は残った面々で……。


「なんだい、この果物。今まで食べたものとは別格だよ……」


「甘みも酸味も凝縮されている。これほどのものとは……」


「聖獣の森ってこんなのもあるんだあ」


 ミライさん、途方に暮れるのはいいですがココナッツが自分の取ってきた果物を食べさせようとしていますよ?


 森の中を歩くこと二時間弱、僕たちは元いた森の外まで戻ってきました。


『十分に採取できたかしら?』


「僕たちは十分です」


「ありがとうございました」


「これでおいしいフルーツパイをごちそうできます」


「私らも十分に取らせてもらったけど……」


「これは頭の痛い食材ですな……」


『そう? そのまま食べてしまえばいいと思うのだけど?』


「ああ、いや、その通りなんだけどね……」


「それでは調理師や製菓師の意味が……」


『人って大変ね?』


「人間の世界にもいろいろあるのです。では、ドライアドさん。また、立ち寄らせていただきます」


「季節が変わったら必ずお邪魔いたしますわ」


「夏ですか……スターメロンの時期ですね」


「どうしよう。私、この人たちのところにお嫁に行けるの?」


 ひとり途方に暮れていますが、諦めなさい。


 聖獣たちはそれぞれのおねだりした山菜をおいしそうに食べていますし。


『このあとはどうするの?』


「中サイズの聖獣の泉へ。あそこなら泉の恵みも多種多様でしょう」


『そうね。それじゃあまたいらして』


「はい。それでは」


 各自が馬や騎獣を走らせ聖獣の泉へ。


 そこで遊んでいた聖獣に呼びかけるといつもとは違うマーメイドさんがやってきました。


『あ、聖獣の主さんだ!』


「こんにちは、マーメイドさん。いつもの方は?」


『あの子ならドラゴンの泉に行って沈んだ鱗を集めてるよ』


「沈んだ鱗……」


「なかなか壮大なスケールですな……」


『あまり貯め込んじゃうと泉が汚れてきちゃうからね。主さんはあの子にご用?』


「いえ。聖獣の泉の恵みを分けてもらおうと」


『そっか。どれくらいほしい?』


「僕は必要ありませんね。アリアは?」


「ガーネットシュリンプというのはありますか?」


『それならたくさんいるよ? むしろ最近は多くなりすぎているからたくさんあげる』


「では是非」


「私は一通りいただけますでしょうか。スヴェイン様方に出すお料理の素材としていろいろと試したいので」


『わかった。ほかの皆は?』


 調理ギルドと製菓ギルドもとりあえず一通り持ち帰ることに。


 僕が貸し出したマジックバッグもありますし、持ち運びには困らないでしょう。


 マーメイドさんが集めてくれた食材を受け取り僕たちは解散、リリスは早速弟子たちを呼び寄せてフルーツパイをごちそうするみたいです。


「このフルーツパイ、すごくおいしいです!」


「なんだろう、表現できないくらいおいしい!」


「がんばっているあなた方へのご褒美です。精霊の森と泉で分けていただいた特産品をふんだんに使ったフルーツパイ。私たちでも滅多に用意できませんよ?」


「そう言われると食べるのがもったいないのです」


「でもおいしくて……」


「お持ち帰り用も用意いたしましたのでお家でも分けて食べてください。夏になれば新しいフルーツが手に入るので、そのときにまた」


「わかりました!」


「それまで勉強がんばります!」


「……少しは休んでもいいんですよ?」


 リリス、自然と焚きつけるのはやめてください。

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