980. ミライと打ち合わせ

「そうですか。裏社会のボスはこちらの要求をほぼ飲んでくれると」


「はい。帰り際にひとつお願いごともされましたが」


 私はボスとの交渉を終えたあと、そのまま錬金術士ギルドに立ち寄りミライと面会します。

 ボスと話し合った内容を伝えるためです。

 最後にお願いされた要求が少し面倒だったのですが。


「ミライ、新市街の者たちが旧市街で働ける場を設けることはできますか?」


「え? 新市街の人たちがですか?」


「そうです。それがボスからのお願いごとです」


 あちらから出されたお願いごとは、新市街の住人たちを旧市街での経済活動に参加させることでした。

 いまの旧市街では新市街の住人たちとあまり仲が良くないらしく、交流があまりないようなのです。

 そこをなんとかしてほしいという要求ですね。


「うーん、いきなり働かせるのは無理じゃないですかね。こういってはなんですが、錬金術士ギルドも新市街の錬金術士が作ったポーションは新市街でのみ販売しています。価値観や信用という意味で、いきなり雇うのは難しいかと」


「やはり、そうですよね。いえ、ボスもわかっていてお願いしてきているのでしょうが」


「要するに、どこかで妥協点を見いだしてこいと」


「そうでしょう。いまは旧市街と新市街の間で心の壁がありすぎます。それを壊さない限りギルドが直接関わる仕事以外は新市街に行きませんから」


「そうはいわれてもですね……。旧市街でも職にあぶれている人たちはいるわけで、新市街の人たちを急に取り込もうとすると余計混乱が生じるんですよ」


 まあ、そうなりますよね。

 旧市街だけでもギルドに入るのは狭き門。

 ギルド以外の職人や商売だって信用のおける者しか職に就けません。

 そこに新市街の住人たちを入れる、それも優先的に入れるとなれば混乱が発生するに決まっています。

 さて、どこを妥協点にするべきか。


「これは困りました。私たちだけで悩んでいても埒があきません」


「そうですね。ほかのギルドマスターたちにも相談してみますか? 多分、私と同じような反応をすると思いますが」


「それも目に見えたことですね。ですが、どこかで妥協できるところを見つけない限り今後の交渉が怪しくなります」


「ですよねぇ。こんな時、スヴェイン様ならどうしていたのか」


 スヴェイン様だったらですか。

 そうですね、スヴェイン様だった場合は……。


「スヴェイン様なら……新しい仕事を用意するでしょうね、新市街で」


「それって妥協点になってないんじゃないですか? 結局、新市街の人たちを受け入れてないですよ?」


「ボスの発言は『とにかく仕事を回せ』という意味にも取れます。それに、最大の心理的障壁は新市街の住人を旧市街に入れて仕事をさせるということです。まずは旧市街の住人が新市街の住人に仕事を発注して信頼関係を築くべきでしょう」


「あー、そういうことですか。なるほど、わかりました。その線でほかのギルドと交渉してきます。錬金術士ギルドはすでに仕事を回しているのでこれ以上は不可能です。さすがに、金銭面を扱う仕事やポーションの品質鑑定までは任せられません」


「それでいいと思いますよ? 最初はそこからです」


 とりあえず、子どものお使いにはなったでしょうか。

 スヴェイン様ならすべてをひとりで回してしまえるのがすごいというべきか恐ろしいというべきか悩みます。

 実力と権力を兼ね備えている者は、やはり無茶をしてしまうのでしょうか?

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