247.挿話-18 シュミット講師の宴

「エリシャさん。遅いですよ!」


「そうそう。もう始まってますよ」


「すまない。皆」


 今日はシュミットからコンソールに来ている講師全員が集まっての宴。


 私、エリシャも参加予定だったのだが。


「本当に遅れてすまない。殿に手合わせをしてもらっていたらすっかり夜が更けてしまっていた」


「いや、エリシャ様が本気で相手をしてもらえる御方が現れて嬉しいのはわかりますが……」


「スヴェイン様にも内緒でお願いしているんですよね? あまり夜遅くまでやっているとそのうちばれますよ?」


「いや、自制をしているつもりなのだが……つい」


 私が本気で手合わせを願える相手など公王様かディーン様、オルド様くらいのものだ。


 そして、お三方とも大変お忙しい方々、滅多なことでは手合わせなど願えない。


 だが、コンソールに来てからはスヴェイン様に内緒という約束でのカイザー殿やのチャリオット殿にお相手していただける。


 なんたる至福か!


「それにしても、今日は本当になのだな。滅多に顔を出してはくれなかった鍛冶や服飾の者たちまで来てくれていたとは」


「面目ない、エリシャの姉御」


「申し訳ありません。自分たちの未熟さを痛感しているもので、鍛錬の時間を優先してしまい……」


「未熟さを痛感しているのならもっと顔を出すべきです。ここは。互いの知識を持ち寄り深める場です」


「……はい」


「……申し訳ありません」


「わかってくれればいい」


「それにしても、錬金術師ども。お前らよくコンソールに来られたな?」


「最上位のウエルナはともかく最下位まで幅が広い」


「いやあ……」


「私たちくじ引きでしたから」


「その話はシャルロット様からも聞いている。公王様に仲裁されたというのも本当か?」


「全部誇張なしの事実です」


「本当に殴り合いました」


「あなたたち……」


 シュミットに長くすんでいれば普段は穏やかでもここぞという場面では牙をむく。


 牙をむくのだが……。


「公王様まで仲裁に入らねばならなかったのか?」


「最初はただのつかみ合いだったんですけどね……」


「そのうち取っ組み合いになりまして」


「その後、全員での殴り合いに……」


「あんたら……」


「いや! くじ引きに参加した連中はまだですよ!?」


「そうそう! を使おうとした連中はくじ引き参加禁止でしたから!!」


「素手で〝シュミット流〟を使おうとするな……」


「私たち冒険者講師でもそんな事したら一回で拳が砕けるわよ……」


「だって、錬金術師にとって行方不明だったスヴェイン様と一緒に働けるなんて、そんな名誉を放っておける訳ないじゃないですか!」


「そうだぜ。シュミットをポーションと薬草の一大生産地に変えたスヴェイン様ですよ! お試しだろうとなんだろうと話に乗らないわけにいかない!」


「いや、しかしだな……」


「それにエリシャ様。あなたも他人のことは言えませんよね?」


 う!?


「コンソールで最初に募集があったのは、冒険者の一般技能との講師です。のエリシャ様にはお呼びはかかっていないはずですよ?」


「そうだぜ。ましてやエリシャ様は古代竜殺しエンシェントスレイヤー。白金貨一万枚だろうと動かないでしょう?」


 な!?


「冒険者講師は黙秘してますけどシュミットじゃ有名ですよ? エリシャ様が強権を使って特殊技能講師を黙らせてコンソールに乗り込んだって」


「それは……」


「同じ特務技能のクオさんたちは本気で悔しがってましたからね。『なんで自分たちは募集したときにシュミットに居なかったのか』って」


「いや、それはだな」


「それにエリシャ様は遠縁とはいえシュミット家の縁戚ですよね。本来、コンソールに乗り込んでいい人間じゃないでしょ」


「ああ、ええと……」


「前に冒険者ギルドでスヴェイン様と魔鋼製の訓練剣で手合わせを始めた時だってすっごい焦ったんですからね! エリシャさん、熱くなると見境なしなんですから!!」


「ああ……」


「スヴェイン様は光の帯まで出し始めていた。あのまま続けさせていれば少なくともしていたぞ」


「……」


「さすがのスヴェイン様だって古代竜殺しエンシェントスレイヤーに魔法なしは無理ですからね? 剣一本どころか腕一本折ってましたよ?」


「すまん」


「すまん、ですまされません! スヴェイン様に大怪我をさせたらアリア様が飛んで行くじゃないですか!?」


「まったくだ。観客席でアリア様も見ておいでだったというのに」


「アリア様も引き取られた直後はともかく、そのあとはシュミット家なんですから……」


「……」


「アリア様の魔法は幼い頃よりスヴェイン様の上をいっていました! いまでも上でしたらセティ様にも引けを取らない可能性だってあるんですからね!? 理解してます!?」


「そのような魔法が炸裂していた可能性があるかと思うと……恐ろしい」


「いや、俺たちがわざわざ骨を折って止めたの理解してますか、本当に」


「本当にすまん」


 悔しいがすべて事実なのでなにも言い返せん……。


 私の剣でもカーバンクル様の守りは切れないと考えていたのだが……。


 今日の宴は私の反省会になりそうだ……。

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