246.社会見学実施後

 さて、昨日は第一回目の社会見学があり今日はその結果を報告するためのギルド評議会です。


 ですが、皆さん疲れていますね。


 ミライさん以外のサブマスターは全員欠席みたいですし問題があったのでしょうか?


「……定刻だ。ギルド評議会を開催する」


 医療ギルドマスター、ジェラルドさんの声も覇気がありません。


 問題でもありましたかね?


「あの、皆さん問題でも?」


「……お前は元気そうだな、スヴェイン。いや、錬金術師ギルドマスター」


「はい、とくに問題ありませんが?」


「錬金術師ギルドマスターに問う。シュミットではこのようなことを当然のごとくやっているのかね?」


「僕は領主家の人間でしたので受けたことはありません。ですが、毎年決まった時期に子供たちを集めて開催していると聞きました」


「そうでしたか。それで、シュミットの講師はあれほど落ち着いて……」


「……問題でもありましたか?」


「逆だ逆! なんの問題もなかったよ! シュミットの講師どものおかげでな!!」


「私ども商業ギルドでも同じく。シュミットの講師がいなければパンクしていました……」


「私などシュミットの講師だけで一日が終わりました……」


「鍛冶ギルドもですか。宝飾ギルドも似たような有様です」


「建築ギルドもだぜ……子供ってのは元気だな、おい」


「調理としては大人しかったが……やっぱり火を扱わせる以上気を抜けなかったよ」


「製菓も同じですな」


「いやはや、馬車ギルドも似たような有様です。私では危ないところを避けさせるのでも手一杯なのに、シュミットの方々は安全な場所をすいすいと案内して……」


「……うむ。医療ギルドも大差ない。子供たちは様々なものに興味を示す。それらのうち、危ないものはすぐに興味をほかに向けさせることで遠ざけ、安全なものは更に関心を持たせる。見事な手際だった」


「錬金術師ギルドは……賑やかでしたがなんの問題もありませんでした。ね、ギルドマスター?」


「はい。パワフルでしたが、子供とはそう言うものです」


 それくらい元気でないと困りますからね。


 子供に活力のない街は大人にも活力がありませんから。


「これを最低でも募集した人数分こなすと考えるとそれだけで頭が痛くなる。ミストなんて具合を悪くして、今日は冒険者ギルドのギルドマスタールームで横になってるって言ってたぜ」


「サブマスターたちはそれが許されるからうらやましい。商業ギルドのサブマスターも今頃は机に突っ伏しているでしょう」


「我が医療ギルドも大差なかろう。ひょっとすると居眠りをしているかも知れぬが……今日ばかりは責められぬ」


「……それほどですか?」


「いや、ギルドマスター? 錬金術師ギルドはギルドマスターがうまくさばいてくれましたから影響がありませんでしたが、ギルドマスター抜きだったら私もどうなっていたかわかりませんからね?」


「ミライさんでもダメですか?」


「無理です」


「意外ですね」


「人を人外方面に引きずり込むのはやめてください」


「……そこまでのことでは」


 そんなにキツかったでしょうか?


 各講師陣にはシャルの方からギルドマスターの補佐をするように指示を飛ばしていたと聞きましたが。


「ともかくだ。我々の疲労度は置いておくとして結果報告と行こう。まずは……錬金術師ギルドマスターから頼む」


「はい。錬金術師ギルドで受け入れた人数は総勢五十名。全員に錬金術師たちがポーションを作っている作業を見せ、錬金術師系統の子供たちには魔力水の作製までしてもらいました」


「……待て。その言い方だと錬金術師系統以外の参加者も居たように聞こえるが?」


「実際、十人あまりいました。理由を聞いてみると『ポーションがどんな風に作られているのかを知りたかったから』だそうです」


「おいおい、ひょっとして俺たちのところにも……」


「はい。各職業ギルドのところにも該当する職業系統以外の参加者が若干名は混じっていると考えています。そのためにのですから」


「……気がつかなかった」


「そう言われてみれば、職業を記入してもらう欄がありませんでしたな」


「発案者が錬金術師ギルドマスターなので大丈夫だとばかり考え見過ごしていた……」


「弱った。今更募集内容を変えるわけにも……」


「いいじゃないですか。今のままで」


「錬金術師ギルドマスター?」


「今回、僕がこの提案を出した目的はが最大の理由です。自分の職業系統にあわなくても大いに結構。僕のところにもポーションの作り方を知りたいだけの子供たちが来ていましたが、子供たちの好奇心を無碍にする理由なんてありませんよ」


「だわなぁ。特に冒険者なんて戦闘系職業以外でもなっている連中が山ほどいるし……」


「商業ギルドもですな。事務員に求められるのは職業系統ではなく実務能力です」


「さすがに鍛冶ギルドは難しいでしょうが……武器作りのことを知ってもらうことに意義はあるでしょうね」


「医療ギルドも医術の知識があれば生活の役に立つか。やれやれ、まだ『職業』という考えにこだわっていたようだ」


「それにシャルのことです。そう遠くない未来に職業変更の技術も持ち込みますよ。そうなれば、『交霊の儀式』で授かった『職業』など単なるにしかなりません。そのあとのでなんにでもなれます」


「……さすがシュミット。言葉の重みがまるで違うわ」


「ですな。そうなってくると、この社会見学も重要な意味合いを持って参ります」


「うむ。か」


「奪い合いなんて物騒な。技術披露の場ですよ」


「だといいのだが。さて、錬金術師ギルドの発表は終わったな。では次に私の医療ギルドが報告しよう」


 そのあとは円滑に社会見学の報告会が進み、次回の実施日も決められました。


 ですが、このペースで行くと錬金術師ギルドの希望者がいなくなるのっていつでしょうか……。

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