345.新居の完成と内弟子

「では、坊ちゃん。設備も説明したとおりだ」


「……本当にもうできたのですね。それも前より立派な家が」


「シュミットでも一二を争う職人チームだからな!」


 呆れたものです。


 本当に数日で家が建ちました。


 聖獣樹の特性や、などを利用しているとはいえ、本当に早い。


「説明したとおりこっちの住宅側がリビングとかの生活スペースに坊ちゃんや奥方様方の寝室、あとはリリス様なんかの使用人室。店舗側は一階がユイ用の仕立屋に錬金術なんかのアトリエ、二階以上はゲストルームだ」


「ありがとうございます、棟梁。本当にこんなに早く」


「いいっていいって。本音を言えば俺たちもコンソールの風を早く浴びたい」


「……手抜きはしてませんよね?」


「当然だ。あとは任せていいか?」


「はい。重ねてお礼を」


「坊ちゃんの家を建てられたって自慢できるからいいんだよ。それにこんな高級素材をふんだんに使える機会も滅多にないからな! じゃあ、不都合があったら呼んでくれ! すぐに直すからよ!」


 やっぱり高級素材をふんだんに使ったのですね?


 窓ガラスに見えるあれだって聖獣樹の樹液から作った透明板ですし。


 シャル、あなたはなにが目的ですか?


「スヴェイン様。ミライ様はいらっしゃいませんが残りの部屋は大急ぎで仕上げましょう」


「はい。ミライの私物は預かっているのですよね?」


「一応。ただ、寝るスペース以外は自分で作ると」


「わかりました。それでは、各自の部屋から片付けていきましょう」


 家が新しくなったことで僕には寝室のほか書斎も割り当てられました。


 今度、ラベンダーハウスから希少本の一部を写本して持ち込みましょう。


 弟子にも読ませなくては。


 ……それにしても。


「僕の寝室、なぜ防音結界が三重、遮音結界が二重に張られているんでしょうね?」


 これってつまり、をしてもばれないようにってことでしょうか?


 するつもりはないと言うのに、信用されていません。


 いろいろ腑に落ちないのですが、細かいことと割り切り片付けをしましょう。


 寝るスペースがないと困ります。


 僕が広くなった寝室を片付け終わる頃にはリリスがリビングの清掃を終えており、家具を取り出し始めていました。


 相変わらず優秀です。


「スヴェイン様。寝室が終わられたのでしたらアトリエを整理してきてはいかがでしょう? そのうち、弟子も来るでしょうし」


「それもそうですね。そうさせてもらいます」


 リリスのお言葉に甘えてアトリエの清掃と各種機材の設置を行います。


 ここも広くなったため、据え置き型の道具を置くスペースができてありがたいですね。


 アトリエを片付け終わった頃、玄関の呼び鈴が鳴らされました。


 はて、来客予定はありましたでしょうか?


 少し経つと小走りな足音と一緒にノックの音が。


「スヴェイン様。ニーベ様とエリナ様がお見えです」


「ニーベちゃんとエリナちゃんが? 入ってもらってください」


 リリスの言葉を受けアトリエを開けてもらうと、本当に弟子ふたりがいました。


 ふたりとも外出禁止だったはずでは?


「先生! !」


「ご迷惑はかけません。


「は?」


 なんでしょう?


 このふたりの話し方は。


 まるで……。


「あら、もう来ましたか」


「アリア先生!」


「数日ぶりです」


「はい。元気にしていましたか?」


「先生たちの指導を受けたくてうずうずしていました!」


「ごめんなさい。やっぱり、直接指導の機会が減ると……」


「まあ、いいでしょう。あなた方の部屋は……」


「ちょっと待ってください、アリア!」


 あなた方の部屋?


 なにを言い出しているのですか?


「どうかしたのですか? スヴェイン先生?」


「はい。急に慌てて」


「アリア、ふたりの部屋とは?」


「はい。コウ様たちと相談してこのふたりをとして招くことにしました。寝室はリリスと同じく本館の三階です。……あ、ふたりの部屋の鍵はスヴェイン様でも渡しませんからね? 弟子相手に夜這いは厳禁です」


「そんな事はしません……ではなく、いつの間に?」


「この家を建て始めるときから。使用人室と言ってもこの程度の家ならリリスひとりで全部なんとかなるそうなので。それなら、三階にある使用人室にふたりを招いてもいいかなと考えコウ様たちに相談いたしましたわ」


「僕、なにも相談されていませんよ?」


「相談したら反対するでしょう?」


「当然です。ふたりはまだ成人前。まだまだ親元で……」


「ニーベちゃんはともかく、エリナちゃんは十一歳の頃から一度もヴィンドに帰っていませんよ? それなのに今更親元がどうの、なんて理由になりません。そして、エリナちゃんひとりを招くのは不公平なのでニーベちゃんも招きました。コウさんたちも快く送り出してくださいましたよ」


「う……それは……」


「それからふたりにはときどきコウさんたちの家に顔を出すよう命じてあります。あと、エリナちゃんにも情勢が落ち着けばクリスタルを使って一度は実家に里帰りするように言いました。たった二年で立派に成長した娘の姿、親御さんたちにも見せてあげねば」


「完璧な理論武装ですね。コウさんたちの家にある薬草畑は?」


「クーちゃんが畑ごと先生たちの家に運んでくれるそうです!」


「アリア先生の許可はもらってあります」


「明日からの薬草栽培には聖獣の泉にある水を使えます。聖属性が入りますので生育もよくなりますよ」


 ……ダメだ、反論の余地がない。


 確かに指導の機会は増えるし、同じ街にいる以上顔を出すのは容易です。


 親元を離れるのも……今後の勉強を考えれば悪いことではない、と。


「スヴェイン先生、ダメですか?」


「ボクたち不慣れですけどお掃除とかもがんばります!」


「家事はダメです。それは私の領分。あなた方は薬草畑の手入れと……そうですね、気にするのでしたらアトリエの掃除を。アトリエは私も気軽に入れませんから」


 そういえば、アトリエの掃除だけはリリスではなく僕がずっとやっていました。


 と言うか、そんな事を弟子たちに振ってしまうと……。


「わかりました!」


「アトリエの掃除なら得意です!」


 やる気を出すだけですよ……。


「諦めなさい、スヴェイン先生。もう決定事項です」


「念のため、このあとコウさんに確認を取ってきますからね?」


「どうぞ。さあ、あなた方の部屋に案内します。まずは寝る場所の確保からですよ」


「はいです!」


「はい!」


 ……アリア、だまし討ち、いえ、不意打ちがうまくなりましたね。


「スヴェイン、諦めよう?」


「ユイのおっしゃるとおりです。諦めましょう。今後の育成にもプラスです」


 利点しかないのは事実なんですが……納得できません。

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