629.見習い錬金術師 トモ 8
ポーションを習ってから四日目、新しい技術としてディスポイズンとマジックポーションを習えたんです!
ようやく待ちに待った新しい技術、私たちはまた全力で……と思ったらユルゲン先輩から待ったがかかったのです。
新しい技術、早速覚えたいのに!
「さて、そこの問題児三人組がはりきりすぎる前に予定を告げる。ディスポイズンとマジックポーションの作り方は理解してもらえたな?」
「「「はい」」」
「はい!」
「トモはもう少しだけ待て。じゃあ俺たちからの課題だ。来週の三日目が給金支払日なのは知っているな? その日までにマジックポーションを十回やって六回成功できるまで精度を上げろ。これができないやつは支部送りだ。まあ、あと一週間ある。頑張ってくれ。それでは今日から期限日まではすべて自習。先輩も三人いるからわからないことがあったら適当に捕まえろ」
いや、頑張ってくれってユルゲン先輩!
十回中六回って難しいですから!?
私たちだってできるかどうか……。
「ど、どうしようトモちゃん……」
「そ、そうですわね。ギルド本部が厳しいとは聞いておりましたが、まさかここまでだなんて……」
「ど、どうするも……やるしかないよ! まずは、簡単だって言っていたディスポイズンを失敗しないようになる!」
「そ、それがいいよね」
「一足飛びなんて危険すぎますもの」
私たち三人は用意されていた薬草箱のうち、毒消し草の箱の中からたくさんの毒消し草の葉をとりだして早速錬金術を始める。
始めるんだけど……あれ?
「ディスポイズン、意外と簡単?」
「私もできちゃった?」
「私もです。これって一体?」
「あなた方は毎日はりきりすぎていたからね……」
「あ、ジャニーン先輩」
私たちに声をかけてきたのはジャニーン先輩だった。
でも、どういう意味だろう?
「あなた方のことだから魔力視で基本的な流れは学んだんでしょう?」
「「「はい」」」
「それなら難しいことは考えず、今日はディスポイズンだけの練習にしておきなさい。それで満足したらマジックポーションを作り始めること」
「満足したら……ですか?」
「だってあなた方、新しい技術は試してみたいでしょう? 目の前に期限が決められていたとしても」
「それは……」
「えへへ……」
「否定できません……」
「あなた方の考えは正しいし間違ってはいないわ。ともかくアドバイスとしては今日はディスポイズンの作製だけして満足しなさい。マジックポーションは癖があるから、あなた方でも失敗しなくなるまで……二日ちょっとはかかるはずだから」
「二日ちょっと。やる気が出てきました!」
「うん!」
「負けられませんわね!」
「魔力枯渇は起こしてもいいけど回復したと感じたらすぐ戻ってきなさい。ただし、深めの魔力枯渇だけは起こさないでね?」
「「「はい!」」」
「本当に深めの魔力枯渇はやめてね? 監督者の心臓に悪いから」
「わかりました!」
「よろしい。では、お好きなようにどうぞ」
さて、ジャニーン先輩の許可も出たし今日は一日ディスポイズン!
今日一日で何個作ったかわからないくらい作っちゃったけど……これもちゃんとお給金に反映されるのかな?
そして、翌日からはジャニーン先輩のアドバイス通りマジックポーション!
「うーん、昨日ジャニーン先輩が言っていたとおりマジックポーションって癖があるね」
「そうだね。魔力の回転方向を縦にするだけでこんなに変わるんだ」
「あとポーションを色づけていく、つまり薬効成分を溶かし込んでいくタイミングが上から下に行くときだけというのもなかなか難しいですわ」
「いままでは横回転ばかりだったもんね。慣れちゃってたのかな」
「おそらくそうでしょう。見直さねばなりませんわね」
「でも、頑張って慣れていくしかないよ」
「そうだね、頑張ろう!」
「「おー!」」
そんな気持ちで作り始めたマジックポーションでしたが、二日目の終業時間近くには失敗しなくなって来ちゃって……。
「……お前ら、本当に仕事が早いよな?」
「ユルゲン先輩、ポーション作りってこんなに楽でいいんでしょうか?」
「いや、楽じゃ……ああいや、ギルドマスターに教わってたときに比べれば遅いし、どうしたもんかね」
「ギルドマスターってそんなに早いんですか?」
「ん? ああ、俺らに実質八日間で高品質ポーションをある程度教え込んでくださる程度には早いぞ」
「……すごいですわ」
「第二期の時はそれと張り合おうとしたんだが、いろいろと躓きも見えてきてなあ。いまのペースに落としたんだわ」
「いまのペース。結構、皆大変そうですよ? 私たちの席だけのんびりしてますが」
「ここ、隔離されているからな」
「隔離……」
「なにげに私たちの扱いが酷いですわ」
「お前らをあっちの中に放り込むと周りの連中が慌てふためくだろう? それを避けるためだよ」
「なるほど。ところでユルゲン先輩は私たちと話をしていて大丈夫なんですか?」
「心配するな指導の休憩時間だから」
休憩時間に私たちのところに来ていたんだ……。
私たちの扱い、なにげに酷い。
「私たちの訓練の邪魔に来たのですか?」
「少し邪魔しないとまた魔力枯渇起こすだろ、お前ら」
「えーと……」
「それは……」
「否定できません」
「と言うわけだ。ところでお前ら、ほかの同期が躓いている原因わかるか?」
「え、マジックポーションの作り方が変わったからじゃ?」
「それもある。だが根本的な原因もあるんだよ」
「根本的な原因……ですか?」
「ああ。お前ら、いままでどういう手順を踏んできた?」
「ええと、魔力操作、蒸留水、魔力水、ポーション、最後にディスポイズンとマジックポーションです」
「そうだな。なんでディスポイズンとマジックポーションを同時に教えたと考えている?」
「あれ? そういえば……」
「あまり気にしていなかったけど、絶対に理由があるよね」
「ジャニーン先輩も『初日はディスポイズン』と言われてました」
これってつまり……ひょっとして……。
「スキルレベル上げ?」
「正解だ。トモ、お前、頭も回るな」
「思いつきですけど……」
「ほかの連中がなかなか思い通りの結果が出ないのはスキルレベルがぎりぎりなせいだ。スキルレベルがぎりぎりだとギルドマスターお手製の特別な錬金台でもない限り安定しないからな」
「なるほど……」
「お前らは最初の頃、馬鹿みたいにポーションを作っていたからあまり必要性はなかったんだが、それでもディスポイズンの経験を積ませるため、一応ディスポイズンを指導した。それによって更にスキルレベルが上がって、マジックポーションも苦労しなくなったんだよ」
「そうでしたのね……」
「それから、水の回転方向を変えるのも〝魔力操作〟の範疇だ。魔力水を作るだけが魔力操作の範囲じゃないんだよ」
「〝魔力操作〟って奥が深い……」
「お前らクラスの魔力操作能力があれば低級ポーションの内は困らんだろうが、鍛錬はやめるなよ。魔力枯渇を起こさない範囲で」
「「「わかりました」」」
「よし、あとは回数を重ねて本番で失敗しないようにだけ注意しろ。俺も休憩終わりだ。お前らも魔力枯渇を起こす前に適度に休憩を……無理か」
「約束できません!」
「そんな気がしたから大丈夫だ。少しでもふらついたらすぐに仮眠室な」
その日からはひたすらマジックポーション作りの日々が始まったけど……同期の皆、大丈夫かな?
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