630.見習い錬金術師 トモ 9

「うーん、あなたはまだ魔力操作が甘いかな。そこから勉強した方が早いよ」


「あなたは……魔力水の作り方が不十分だね。もう少し頑張ろう!」


「あなたはおそらくスキルレベルが足りていませんわ。ポーションとディスポイズンでスキルレベル上げを。時間は余り残っていませんが焦らずに一歩一歩」


「「「はい!」」」


 マジックポーションの試験まであと残り三日。


 先輩たちの指導だけじゃなくて、休憩時間中に私たちのところまでアドバイスを聞きに来る人たちまで出てきたの。


 でも、私たちのアドバイスってあってるのかなぁ……。


「ん? 遂にトモたちまで教える側に回り始めたか」


「あ、ユルゲン先輩。嬉しそうにしてないで助けてください!」


「いいんじゃねえか? まあ、指導内容が間違っていそうだったら俺が補佐してやるよ」


「そういう問題じゃ……」


「ねえ、トモ。私の場合は?」


「え、ええと。マジックポーション作りを見せて」


「うん。……こんな感じ」


「うーん、多分レベル不足と魔力操作能力不足。まずは魔力操作をがっつり鍛えて、そのあと……ディスポイズンあたりでスキルレベルを鍛えてみて」


「わかった。スキルレベルマックスだけじゃ足りないんだ、魔力操作って……」


「そこがスタートなんだって。そこから鍛え続けないとこの先がきついらしいよ」


「……この先を見据えると魔力操作からか。時間もないけれど、今日は魔力操作を鍛え続けるしかないか。ありがとう、トモ」


「ううん、頑張ってね」


 またひとりアドバイスをしたけど……本当にあってるよね?


 ユルゲン先輩が止めなかったってことはあってる……と信じたいけど。


「ふむふむ。ケツに火がついてからじゃぎりぎり間に合うかどうかだが……は買わなくちゃな。あいつらも本気を出し始めたみたいだし」


「ユルゲン先輩?」


「ん? 気にすんな。ほれ、またひとり来たぞ」


「え、あ、ほんとだ。と言うかユルゲン先輩が戻ってるんだからユルゲン先輩が教えてください!」


「お前らほどわかりやすくは教えないからな。ほれ、さっさと教えてやれ」


「ああ、もう!」


 ユルゲン先輩に急かされるまま、私たち三人は聞きに来た同期たちにコツを教えていく。


 聞きに来たのはアトリエの中にいた同期の半分くらいだけど……私たちの指導じゃぎりぎり間に合うかどうかになっちゃうのに、大丈夫なのかな?


「トモ、俺のはどうだ?」


「あなたは単純に魔力操作不足。もっと魔力操作をうまく扱えるようになって」


「やっぱりか……水の回転方向を変えるだけで苦労したもんな。サンキュー、アドバイス助かった」


 うーん、本当に大丈夫?


 残り三日だよ?


 当日になってから焦ってもどうにもならないよ?


 そのような感じで授業中でも私たちのところまでアドバイスを求めに来る人たちはいて……先輩たちもそれを咎めようとはしないし。


 理由を聞けば『自習なんだからなにをしようと構わない』としか言わないし。


 私たちもいつ聞かれるかわからないから、全員が魔力枯渇を起こさないように自制しなくちゃいけないし……。


 先輩!


 笑ってないで手伝ってください!


 そんな日々が四日ばかり過ぎ、四日目午後は遂にマジックポーションのテスト。


 これで支部行きかどうかが決まっちゃう。


「さて、あなた方の運命が決まる試験よ。まずは問題児三人組から始めなさい。どうせあなた方は失敗しないんだから」


「ジャニーン先輩、酷いです」


「私たちだって緊張したら失敗します」


「そうですわ。まるで私たちを珍獣みたいに」


「あなた方は失敗なんかしないわよ。さっさと始めなさい。まずはトモから」


「はあい」


 そんな感じで私から受けさせられたけど……本当に三人とも十回中十回とも成功しちゃった。


 ジャニーン先輩も当然という顔をしているし……なにがなんだか。


「まあ、あなた方のがあれば十分よね。次、来なさい」


「は、はい!」


 次の人は、私に何度もアドバイスを聞きに来ていた人。


 結局、マジックポーションの練習は昨日の午後からになっちゃったけど……大丈夫だろうか。


「……ふむ、十回中七回。十分ね。仲間でも教えを請えるがあれば当然の結果でしょう」


「よかった……ぎりぎりだったから」


「ぎりぎりだった自覚があるなら、次からはもっと早めに行動なさい。次の人」


 次の人はずっと自力で頑張ってた人。


 結果は十回中四回。


 ジャニーン先輩もと言い、支部送りを決定していた。


 その後も試験は次々進行していき、私たちが教えていた人は七回とか六回とかぎりぎりだけど合格していく。


 それ以外の人は……合格したりしなかったりでまばら。


 結局、このアトリエで合格できたのは二十六名だった。


「ふむ。想像以上に残ったわね。まあ、当然と言えば当然だけど」


「当然ですか?」


「当然よ。本当ならこのふるいでアトリエをひとつに……と考えていたけれど、もうひとつのアトリエ次第になっちゃったわ」


「……ジャニーン先輩、本音を語りすぎですわ」


「そうかしら? ともかく、あなた方も今回のポーション納品を持って今月の給金は確定よ。支部送りになった者は最後の餞別ね。残りの人間は来月も頑張りなさい」


「……来月、ですか? 今月、あと三日残っていますよ?」


「残りの三日は休暇よ。初期指導と言うことで休暇を取らせずに詰め込んだけれど、来月から本部に残るメンバーは毎週一日の休みを取ることになるわ。私たちの指導期間は毎週決まった日に取ってもらうけれど、指導期間を過ぎれば好きな日に取って構わないわ。ああ、そうそう。支部は休みにするか出勤するかも各自の裁量だから好きにしてね」


「支部ってそんなところも自由なんですね。もっと厳しいのかと考えていました」


「支部って結構自由よ。好きなように学べるし研究もできる。やる気があれば就業時間後に研究もできるしね」


「本当に待遇が違いますね」


「まあね。トモも行きたくなった?」


「いいえ、まったく」


「ならよかった。私たちとしても手放したくないもの、今回合格した人間はまだね」


 うーん、ジャニーン先輩の考えが読めない……。


 一体なにを考えているんだろう……。


 確かって言ってたのに蒸留水やマジックポーションでは遅れた人をどんどん支部送りにしているし……。


 先輩方って本当になにを考えているんだろう?

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