37.傍若無人なエドゥ王子と新たな聖獣の誕生
「アリアお嬢様、またエドゥ王子がお見えです……」
「またですか……」
僕たちの『星霊の儀式』が終わったあと、たくさんの貴族たちからアプローチがありました。
そういったものは、すべてお父様が一蹴していましす。
ただ、お父様にも断れないものがあるわけで……。
それが、この第三王子の『襲来』なのです。
第三王子はアリアを婚約者にしたいらしく、この10日間毎日この屋敷に無理矢理押しかけてきています。
本来であれば王族であろうとも、守るべき礼儀があるというのにそれを無視してです。
「わかりました、すぐ行くとお伝えください」
「かしこまりました。スヴェイン様とセティ様もご一緒ですよね?」
「もちろんですわ。いい加減つきまとわれるのもごめんです」
「それではセティ様を呼んで参ります。しばしお待ちを」
「ふぅ、困ったものですね。あのエドゥ王子にも」
「本当です。国王陛下にもお願いされているんですよね?」
「セティ様経由で何度もお願いしているはずです。その都度、注意していると返事は来ているようですが……」
『なんともおめでたい頭の王子じゃ。いっそ切り捨ててしまった方が後腐れがないのではないか?』
「王族にそんな真似をしたら反逆罪に問われますって……」
アリアやワイズと話をしていると廊下が騒がしくなってきました。
一体、なにがあったのでしょうか?
部屋の外で待機していたリリスが部屋の中に戻ってきて、状況を教えてくれました。
「エドゥ王子がこちらに侵入してきました。貴族のプライベートエリアへと、招かれてもいないのに立ち入るなど前代未聞です」
『エドゥ王子とやらはそこまでバカなのかのぅ?』
「それが……一緒にバグスキー侯爵もご一緒なようでして、使用人では止められません」
「それは僕が出向かなければ……」
「大丈夫です。すでに旦那様とセティ様が対応にあたってくれています」
**********
「さて、今日は何用かなバグスキー侯爵」
バグスキー侯爵、この男は好きになれんな。
金に目のない有力者の腰巾着といったイメージしかない。
「異な事を申すな、シュミット辺境伯。私は忠臣としてエドゥ王子のお付きをしているに過ぎない」
「ほぅ。では、エドゥ王子、あなたはなにをしにこちらへ?」
「うむ、アリアを我が嫁にもらい受けに来た!」
……エドゥ王子は思慮が足りない性格だとは聞いていたが、ここまで愚かなのか?
一体ギゥナ国王陛下はどのような教育をされている?
「それをアリアが望んでいないのはご存じでしょう」
「あれは照れ隠しだとバグスキーもシェヴァリエも言っておるぞ」
「照れ隠しなどではありません。それにアリアにはすでに婚約者もおります」
「む……そのものは王子より偉いのか?」
「少なくとも、このような些事に権力を振り回す王子などよりは立派ですな」
「なんだと!」
「ましてや、ここは貴族家の寝所があるプライベートエリア。許可がなければ立ち入れない場所です。そこに無理矢理立ち入っている時点で、礼儀知らずの無作法者のそしりを受けても仕方がありますまい」
「先ほどから無礼であるぞシュミット辺境伯! 貴様も予の忠臣であれば大人しく我が命にしたがうのだ」
ああ、なるほど。
自分は王族であるから、貴族は無条件に従うものと思っているのか。
なんと浅はかで愚かな考えだ。
「失礼ながら、私はエドゥ王子の家臣などではありませんよ。私はギゥナ国王陛下の忠臣にございます。そこをはき違えないよう」
「父の部下は私の部下である!」
「誰からそう教わったのかは存じ上げませんが、違います。あなたには本来護衛の騎士に命令する権限すらありません。ましてや、国の貴族に命令する権利などありませんな」
「言わせておけば……バグスキー、こやつを切れ!」
ほう、あちらから剣を抜いてくれるか。
それであればこちらも対処しやすい。
「いや、しかし……」
「ほう、構いませんぞ。私もこれ以上、賊の侵入を許すのは拒絶したいところだ」
「なに、賊だと!」
「エドゥ王子、ここは引き下がりましょう。シュミット辺境伯はこの国一番の剣の使い手、まともに戦っては勝ち目がありませぬ」
「ぐ……それでは私のアリアはどうなる!」
「そもそもアリアは君のものじゃないけどね。我が儘王子」
「貴様は誰だ!」
「おや、昔あいさつしただろう。『賢者』セティでございます」
ここでセティ様が登場か。
気配は先ほどから感じていたから、なにかをしていたのであろう。
「『賢者』セティだと……?」
「いままでのお話。すべて記録して国王陛下にご連絡させていただきました。また、この10日間の所業も含めてね」
「……『賢者』ごときが生意気な!」
「お控えください、王子! 相手は『賢者』です! 敵に回せば国が滅びます!」
「そんなことはしないけどね。それよりも、君たちが敵に回そうとしている『彼』の方が国を滅ぼす可能性が高い」
「なに……?」
「これ以上、語ることはないね。さあ、お引き取り願おう」
「おのれ……覚えていろ!」
鼻息も荒くエドゥ王子は引き上げて行ったな。
まったく、どのような教育を受けて育ったのか。
「さて、シュミット辺境伯。僕はこれから至急の用事として国王陛下に謁見を申し込むけど、君はどうする?」
「お供いたしましょう。場合によっては、国に納めているものの数を制限せねばなりませんからな」
「それはいい。これで大人しくなってくれればいいけど」
「何らかの手は打ってもらえるでしょう。我々との関係をこじらせることと我が儘放題の王子、どちらを取るかで国の未来も決まるというもの」
「そうだね。フリーになったら雇ってもらってもいいかい、シュミット辺境伯?」
「ええ、喜んで」
さて、ことの子細を伝えて城に向かうか。
面倒なことこの上ないがな。
**********
「それではお父様もセティ様も無事なんですね?」
「はい。ふたりはすぐにお城へと向かわれましたが、怪我のひとつもありませんでした」
「一安心……なんでしょうか?」
「しばらくは収まると思いますが……」
「まだ完全には収束しないのですね」
「第三王子の我が儘ぶりは王都でも有名なので……」
「わかりました、ありがとうございます」
うーん、アリアのそばには常にカーバンクルのレイクがいるので心配はいらないのですが、不安ですね。
どうしたものでしょうか。
とりあえず僕とアリアは、念のために僕の部屋の中で過ごすことにしました。
とは言っても、やることも特になかったのでおしゃべりをするだけでしたが。
そんなとき、僕のホルダーに入っていた卵たちが一斉に輝き始めました。
『ほほう! どうやら卵が孵るようじゃの!』
「ようやくですね。どんな子たちが生まれるのでしょう」
「楽しみですね、スヴェイン様!」
『お主らも慣れたものじゃのう。すぐに姿を現すから見ておれ』
光っていた卵がはじけ飛ぶと、そこには4匹の獣たちの姿がありました。
見た目は亀、蛇、猫、鳥ですが……?
『やれやれ、ようやく外に出られたか』
『しかし、善き主に巡り会えた幸運に祈るべきであろう』
『なにに祈るんだい? まあ、善き主という点では認めるけどさ』
『卵が盗まれたときにはどうなることかと思っていたけど、こうなる運命だったとはね』
卵から孵った聖獣たちは好き勝手に喋り始めました。
どうやら、お互いに顔見知りなようです。
僕とアリアは目を白黒とさせてしまいますが……。
『ほほう、東方守護の四聖獣がこのような場所にいるとはな』
『うん? ワイズマンズ・フォレストか』
『あなたもあの主様に仕えているのか』
『と言うことは先輩だな』
『よろしく頼みます』
「あの……一体どういうことでしょう?」
僕を置き去りに話はまとまったようです。
結局、どういう話になったのでしょうか?
『要約すると、こやつらもスヴェインと契約するということじゃ』
『左様。儂の名前はゲンブで頼む』
『私はセイリュウだ。この地方にすむドラゴンとは種族が違うが龍の一種である』
『僕はビャッコ。疾風のごとき爪を持つ虎さ』
『私はスザク。本来の姿は契約すればわかります』
「同時に契約した方がいいのでしょうか?」
『その方がよかろう。すでにこやつらはスヴェインの魔力で満ちている。これ以上、魔力を吸われることはない』
「では、始めましょう。ゲンブ、セイリュウ、ビャッコ、スザク。僕とともに」
ワイズの説明通り、ほとんど魔力を消費せずに契約は成り立ちました。
そして契約により成長した聖獣たちですが……その姿を大きく変えています。
ゲンブは亀の姿をそのままに尾が蛇となっていますね。
セイリュウは……確かに蛇ではなく龍のようです。
昔見た、王宮図書館で遙か東の国から伝わったという蔵書にあった、龍の姿に似ています。
ビャッコは猫の姿から雄々しい虎へと変わりました。
鋭い爪や牙がかっこいいですね。
そしてスザクが一番変わりました。
最初の見た目は燃えるような赤い翼に長い尾、頭部も体から伸びた位置にあります。
変化前はかわいらしい小鳥だったのに、いまは猛々しい炎鳥ですね。
『ふむ、やはりこの姿が一番落ち着く』
『確かに。部屋の中故大きさは考えねばならないが』
『セイリュウ、大きいものね』
『ともかく新しい主様に感謝しないと、ありがとうスヴェイン様』
「いえいえ、お役に立てたのなら幸いです」
こうして僕には新しい聖獣がまた4匹増えることになりました。
ワイズによると戦闘力はいままでの聖獣たちとは比べものにならないくらい強いそうです。
戦う力など発揮することが無いことを願います。
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