96.いざ、冒険者ギルドへ

 結局、ふたりはそれぞれ三十本ずつの高品質ポーションとそれよりも少し少ない数の一般品ポーションが完成しました。


 一般品ポーションの方が少ないのは、さすが二カ月間勉強してきただけのことはありますね。


 そして翌日、朝食をとり冒険者ギルドが混み合っていない時間を見計らってギルドへと向かいます。


 コウさんは主立った商会との風治薬取引についての会合で手一杯ですし、執事のジェフさんも今日の風治薬販売で手が離せませんでした。


 なので、保護者は僕とアリアですよ。


「ここが冒険者ギルドですか……」


「ボクはイナお姉ちゃんと一緒にヴィンドのギルドに行ったことがあるけど、ここのギルドはもっと大きいですね」


「街の規模に応じて大きくなるんでしょうかね? 探せば多分支部も街中にあるでしょう。今日はこの本部に入りますが」


「いきなり本部ですか!?」


「もう少し小さな場所からでも……」


「本部のギルドマスター、ティショウさんとは顔見知りですからね。悪いようにはならないでしょう。さあ、入りますよ」


「は、はい。わかりました」


「う、うん。ここは冒険者ギルド、冒険者ギルド……」


「あらあら。ふたりともすっかり緊張していますね」


「僕たちが変わっているのかもしれませんね」


 ふたりを先導するように冒険者ギルドに入ると、新たな来客に視線が集まります。


 それに対してふたりは一瞬びくついていますね。


 普段から殺気とか視線に慣れてないとこうなりますか。


「お、ガキに嬢ちゃんたち。冒険者ギルドになにか用かい?」


 冒険者ギルドに入ってきた僕たちに声をかけてくる男性がいました。


 見た目は体つきもがっしりしていて強面の方ですが、悪い人ではなさそうです。


「はい。まずはギルドマスターのティショウさんと面会です。そのあとは……まあ、様子を見てから決めます」


「ギルドマスターと面会って……Dランク冒険者のようだが、そう簡単に会えるもんじゃねぇぞ?」


「うーん。貸し出ししているものもありますし、不在じゃなければ取り次いでいただけると思うんですよね」


「そうか? まあ、用件があるならあそこのカウンターで話してこいや」


「ええ、ご丁寧にありがとうございます」


「お、おう。あまりガキがうろつく場所じゃないからな。絡まれる前に帰れよ」


 うん、やっぱり見た目は少し怖いですがいい人でした。


 弟子ふたりは完全に飲まれてましたけどね。


「ふたりとも、大丈夫ですか?」


「は、はい。先生は大丈夫だったのですか?」


「うーん、確かに強面の方でしたが悪い方ではないとすぐにわかりましたよ」


「ええと、コツを教えていただけると……」


「こればかりは慣れとしか……あとは冒険者等級を示した腕輪の色をみるとか」


「腕輪の色、ですか?」


「はい。先ほどの方はBランクの銀色の腕輪でした。Bランクになるためには強さだけではなく、依頼主やほかのパーティなどとトラブルを起こさないで信用を得られることも条件のひとつです。Bランクの方でしたらあまり問題はないでしょう」


「そうなんですね。ボク、知りませんでした」


「だからといってホイホイ付いていってはいけませんわよ。Bランクでも悪人はいるはずですから」


「肝に銘じておきます、先生」


「はい。それでは受付で話を通してもらいましょう」


 僕たちのやりとりは受付でも聞こえていたらしく、そんな簡単にギルドマスターには面会できないと注意されました。


 ですが、僕が特殊採取者のスヴェインであることを明かすと態度が一変し、すぐに予定を聞きにいってくれましたよ。


 うん、仕事が早い人は好ましいです。


 やがて、階段の上から獅子族の獣人の方とエルフの方が降りてきました。


 ギルドマスターのティショウさんとサブマスターのミストさんですね。


「お、スヴェイン。ようやく戻ってきたか!」


「はい。状態異常回復薬、お待たせしました」


「いや、そうじゃねぇよ。それも待ってたけど、そうじゃない」


「あれ、ほかにもなにかありましたか?」


「スヴェイン様、ここではお話しできない内容があります。申し訳ありませんがギルドマスタールームまでお越しください」


「わかりました。ここに僕の弟子も連れてきていますが、ふたりも同席させて構いませんか?」


「スヴェインの弟子か……秘密は守れるよな?」


「もちろんです!」


「ボクも大丈夫です」


「よし、それなら問題ない。一緒にギルドマスタールームに行くぞ」


「はい。よろしくお願いします」


「頼んでるのはこっちだってーの。ほら、さっさと行くぞ」


 ティショウさんに急かされてギルドマスタールームへと向かいます。


 部屋の中に入りソファーに座ると、ティショウさんが早速といわんばかりに金庫のようなものを開けました。


 中から出てきたのは……僕が渡した魔宝石魔導具ですね。


 ひとつも壊れていないということは、あまり役に立たなかったのでしょうか?


「スヴェイン、まずはこれを返すぞ。はっきり言って、これを預かっているってだけで心臓に悪い」


「そうですか? ところでひとつも壊れていないようですが、あまりお役に立ちませんでしたでしょうか?」


「逆だ逆! 強すぎて使いどころに困ったんだよ! 一匹一匹を倒すならガイアランスとフレアアローだけで十分だし、巣を破壊するときもブリザード一発でほとんどの蜂どもが死んじまった。なんつーものを気軽に渡してくれてるんだよ!」


「ふむ……確かにフレアアローとガイアランスの魔宝石にはそれなりに使った痕跡がありますね。遠慮せずに使い潰してもよかったのに」


「使い潰すほど蜂がいなかったんだよ。お前たちの指輪が強すぎて、蜂がすぐに警戒モードに変わったんだ」


「警戒モードというと巣に戻って守りを固めるパターンですか」


「ああ、本当に博識だな。倒した蜂の総数は百匹近い。危険度ランクBランク指定だったのに、あっさりと片付いちまったんで冒険者どもも拍子抜けしてたよ」


「それは申し訳ないことを……」


「いや、危険がないに越したことはない。今回は本当に助かった」


「お役に立てたのでしたら光栄です。では、魔宝石は確かに受け取りました」


 僕は受け取った魔宝石をストレージの中にしまいます。


 あとでメンテナンスをして修復ですね。


「それから、状態異常回復薬だがそれぞれ何本作ってきてくれた?」


「注文されていたものですが、途中ヴィンドの街でも少し卸してきたのでそれぞれ七十本です」


「……七十本もあれば十分ですわ」


「だな。ミスト、買い取り依頼票の発行を頼む」


「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 ミストさんはゆっくりと部屋を出ていってしまいました。


 買い取り依頼票を作ってきてくれるようです。


「それで、今日はなんでまた弟子を連れてきたんだ?」


「ええ。弟子にポーションを作らせたのですが、本当に傷を癒やせるのか不安で堪らないということでしたので連れてきました」


「ふぅん。弟子ってことはそれなりの腕前なのか?」


「まだ正式に弟子になってから二カ月程度ですからね。僕に言わせれば最初の一歩を踏み出した感じです」


「そうか。それで、弟子の作ったポーションってのはどんな感じなんだ?」


「そうですね。ティショウさんにも鑑定していただきましょう。ふたりとも、ポーションをマジックバッグから出してください」


「はい」


「わかりました」


 僕がふたりに命じる形になってしまいましたが、それぞれのマジックバッグからポーションが机の上に並べられます。


 ティショウさんはそれを鑑定して……驚いた様子でこちらを見ましたね。


「おい、スヴェイン。弟子を取って二カ月というのは本当か?」


「はい。まだ二カ月しか仕込んでません」


「二カ月しか仕込んでないのに、なんでポーションが作れているんだよ!?」


「二カ月間必死に勉強してもらいましたから、この程度は当然です。まだまだ安定しているとは言い難いですが」


「マジかよ……お前なら一カ月仕込めば誰でも一般品質のポーションを作れるようになるんじゃないのか?」


「ヴィンドの街で錬金術師系の冒険者の方々にポーション製作の講義を行ってきましたよ? 期間は三日でほとんどの方が安定して一般品質のポーションを量産できるようになっていましたね」


「……バケモンが」


「そんなにすごいことですか?」


「すごいことだよ! まったく無自覚にとんでもない知識を広めやがって……」


「うーん。僕から言わせると、一般品質までは量産できる方法を大々的に広めるべきだと思うんですよ」


「ほう。その心は?」


「まず、ポーションが広く普及することで死者が減るでしょう。戦争などを容易に行おうとして逆に増える恐れもありますが……そこまでは責任を持てません」


「だな。俺たち冒険者が国の考えまで気を回すもんじゃない」


「ふたつ目に錬金術師全体の質を上げることです。一般品質のポーションが当たり前のように作れれば、ほかのポーションを作る時間もとれますし、場合によっては高品質化を目指すことも出来ます。ヴィンドが特殊な例かもしれませんが、この国の錬金術は遅れているように感じます」


「あー、それは反論できねぇわ。この国の錬金術師は頭が硬くてなぁ……」


「最後に、僕が錬金術師と認める最低ラインが一般品質のポーションを作れることです。僕が五歳の頃には出来たことです。その数倍の年齢になっている方々が出来ないはずがありません」


「……すげーな、お前」


「スヴェイン様は小さい頃から錬金術一筋でしたから……」


「まあ、お前の野望はわかったよ。とりあえず、今日はなんで弟子を連れてきたんだ?」


「そこは私から説明いたします」


「スヴェインじゃなくアリアの発案か」


「はい。薬が効くかどうかは実際に使ってみないとわからないものですわ」


「確かにそうだ。だが、そいつらにはまだ自信がないんだろう? 俺の鑑定でも高品質と出る以上、なんの問題もないだろうが気休めにもならん」


「それもそうです。なので、実際に薬を使って効き目があるところを見せればいいのです」


「あ? 誰か冒険者と組ませて出かけるのか?」


「そんな危険な真似はさせません。このふたりにはまだ魔法を教えていませんので」


「……まるで魔法を教えたら戦いにも行くような発言です」


「……ボクもそう聞こえたよ」


「じゃあ、どうするんだ? 帰ってきて負傷している連中にでも飲ませるか?」


「それでもいいのですが、もっと手っ取り早い治療場所がありますよね?」


「手っ取り早い治療場所……ああ、あそこか」


「はい。訓練場で効果を試させていただけますか?」


 アリアの考えはそこでしたか。


 確かに訓練場ならば怪我人もいるでしょうし、命に関わることはないでしょうね。

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