95.冒険者ギルドへ行く準備

 アリアによる突然の発案で決まった冒険者ギルド行き。


 翌日の午前中はコウさんと一緒に商会長の方々と話を詰めるつもりだったのですが……。


 コウさんには参加する商会の数を聞き、その商会数と同じだけ風治薬四千本が詰まったマジックバッグを渡しておきました。


 コウさんはこの容量のマジックバッグがひょいひょい出てくることに驚いていたようですが、僕としては素材が余っているんですよね。


 ともかく、そちらの件はコウさんに任せて大丈夫という話だったのでお任せすることにします。


 では、こちらの件、冒険者ギルド行きはどうするのかというと、そう簡単なものでもありませんでした。


「ふふふ、高品質な薬草と高品質な魔力水があるのですから高品質ポーションくらいは作れますよね?」


「アリアさん、ちょっと待ってください! ボクたち、まだポーションの作製はやったことがありません!」


「基礎が出来ているのでしたら大丈夫ですよ。さあ、頑張ってくださいな」


「うー、先生も厳しいですがアリアさんも厳しいです」


 アトリエに行くとアリアがこんなことを言って弟子たちにポーション作りをさせていたんですよね。


 まあ、僕もポーションを作らせる予定だったので問題ありませんが。


「あ、スヴェイン様。コウ様とのお話は終わりましたか?」


「ええ、問題なく。それで、アリアはポーション作りを指示していたと」


「はい。スヴェイン様でも指示しますよね、明日のために」


「それはまあ、確かに。でも、あまり無理強いするようなやり方は褒められませんよ?」


「そんなことはしていませんよ。あくまで今の実力で出来る範囲のことをやってもらうだけです」


「そういうことにしておきましょう。ふたりとも、大丈夫ですか?」


 僕は実際に作業をしているふたりに声をかけます。


 ポーション作りは傷薬作りに水の錬金触媒を足すだけなので、そんなに難しいことではないはずですが。


 うーん、ひとりひとり様子を見ていきましょうか。


「ニーベちゃん、調子はどうですか?」


「先生。やっぱり、ポーションを作るのは怖いです。私、どうしたらいいのか……」


「今は恐怖心と向き合うべきときです。ゆっくり心を落ち着けて、錬金台と向かい合ってください。錬金術師の役目は様々ですが、『誰かを助ける』こともその役目のひとつです」


「誰かを助ける……わかりました、やってみます!」


 ニーベちゃんの方はこれで大丈夫でしょう。


 次はエリナちゃんの方ですか。


 彼女はなにを悩んでいるんでしょうね?


「エリナちゃん。なにを迷っているのですか?」


「あ、先生。ボク、ちゃんと高品質ポーションが出来るか不安で……」


「魔力水も高品質ですし、薬草も高品質です。魔力水を安定して作れるだけの技量があれば、高品質ポーションも楽に作れますよ」


「うう……その魔力水なんですが、確かに自分で作ったものです。でも、成功するのは三回に二回程度で……」


「その程度なら大丈夫でしょう。失敗してもまだ材料はありますし、頑張りましょう」


「はい、そうします」


 これで彼女も大丈夫でしょう。


 さて、あとは結果を待つだけです。


 ふたりともやがて決心がついたのか、錬金台へと向かい台に手をつきました。


 いよいよ錬金を始めるんですね。


 ちょっと気合いが入りすぎている気がしますが、最初は失敗しても仕方がないでしょう。


「はぁぁ!」


「やぁぁ!」


 ふたりが錬金台に魔力を通して錬金を行います。


 ただ、やはり気合いを込めすぎですね。


 魔力が流れすぎています。


 その結果はもちろん、品質に現れました。


「うぅ……一般品のポーションにしかなりませんでした」


「ボクもです。なにが悪かったのでしょう」


「簡単ですよ。ふたりとも気合いが入りすぎていて、魔力を過剰に流しすぎていました」


「確かにその通りです……」


「僕がポーションを作る時、ほとんど魔力を流しているように見えないでしょう? 高品質以上のポーションを作ろうと思ったら無理矢理混ぜ合わせるイメージではなく、自然と溶けるイメージに置き換え、それを魔力で促進してやることが重要です」


「なるほどです。そんなところにもコツがあったのですね」


「全然知りませんでした」


「多分、師匠の本にも書いていると思うのですが……書いてなかったら、また師匠の悪癖ですね」


「ニーベちゃん、そんなこと書いてあったっけ?」


「覚えていません。記憶に残らない程度軽く書いているか、書いていないかのどちらかだと思います」


 まったく師匠は……。


 師匠の愚痴を言っていても仕方がありません。


 まずはふたりにしっかりと高品質ポーションの作り方を覚えさせないと。


「書いてなかったのなら仕方がありません。いま言ったことをイメージしてやってみてください」


「はい!」


「わかりました!」


 うん、ふたりとも素直な返事で結構。


 ふたりは錬金台の上を片付け、また新しい素材を置いて錬金を始めます。


 今度はふたりともいい感じに力が抜けています。


 これなら大丈夫でしょう。


 そして、錬金が終わったあとにできたものは……。


「やりました! 高品質ポーション完成です!」


「ボクも高品質ポーションが出来ました。二カ月前までは普通のポーションすら作れなかったのに……」


「それを言ったら私は二カ月前は体調不良で寝込んでました! だから一緒です!」


 うんうん、ふたりとも上出来です。


 さて、この感覚が抜けないうちにもう少し頑張ってもらいましょうか。


「さあ、ふたりとも。完成して嬉しいのはわかりますが、まぐれということもあります。しっかり安定して作れるようになるため、もう少し練習しましょう」


「もう少しですか?」


「高品質なアイテムを作る時、普段よりも多めの魔力を失うことが多いのです。なので、無理をしない範囲で頑張ってください」


「わかりました!」


「任せてください!」


 そのあとは、ふたりとも高品質ポーションを連続して作る事に成功しました。


 ただ作りすぎて、魔力枯渇の症状が出始め侍女のお世話になっていたのは玉に瑕ですが。


 何はともあれ、冒険者ギルドに行くときのお土産は出来ました。


 あとはボクとアリアでうまく立ち回るとしましょう。

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