357.ウサギのお姉ちゃんの正式弟子入りとお星様
「エレオノーラさん、どうですか調子は?」
彼女が我が家にやってきてまもなく一カ月になろうとしています。
アリアとミライは軽く考えていたようですが、彼女の覚悟は本物だったようで……とりあえずあのふたりにはしばらく反省していていただきましょう。
「はい! 調子はとってもいいです! 目的だった魔法研磨以外にも子供たちへの指導方法や家事、普段はもうやっていないポーション作りの指導までしていただいて」
「リリスも喜んでいましたよ。やる気があって嬉しい、と」
「それならよかったです。いつもリリス様のお邪魔をしていないか不安でしたので」
「リリスのことです。本当に邪魔なら邪魔にならないように先に片付けてしまっているでしょう。ニーベちゃんとエリナちゃんとの関係も順調なようですね」
「ええ。私が『妖精の卵』を孵せたことを知るとふたりとも大喜びで祝ってくれました。一緒にまだ孵っていない卵付きの宝石やアクセサリーもプレゼントされましたが……」
「すみません。悪気はないのです」
悪気がないからこそ余計たちが悪いとも言えるのですが……。
ここでそのようなことを考えても無粋でしょう。
「それで、先ほどの話ですが本気ですか?」
「はい。正式な内弟子にしてください。来年の夏には一人暮らしを始めたいので、それからは通いになりますが……構いませんか?」
「構いませんよ。でも本当にいいのですか? こう言ってはなんですが、僕は勤務先の上司。妻のひとりはサブマスター。ユイはともかくアリアはちょっと嫉妬深い側面がありますよ? リリスにお説教をされていたので反省しているはずですが」
「大丈夫です。ここで学べる知識と技術。これに比べればその程度なんて言うことはありません。……ただ」
「ただ?」
「申し訳ありません、私が内弟子としてスヴェイン様の家で暮らしている事がシャルにばれてしまいました。シャルから『一週間に一日くらいは抜け出してもバチはあたりませんよね?』と言われていて……」
困った妹です。
自分から言い出した〝親友〟を困らせるとは。
「エレオノーラさんがいいのでしたらシャルのお願いを聞いてあげてください。一週間に一度くらいは休んだ方がいいでしょう。本当はニーベちゃんとエリナちゃんにもそうしてもらいたいのですが」
「ニーベ様とエリナ様は無理だと思います。それでは、お言葉に甘えて二週間に一度シャルの家……と言いますか大使館に泊まってきます」
「……一週間に一度でいいのですよ?」
「さすがにそれだと修行に支障が出ます。なので二週間に一度と言うことでシャルと話し合ってきます」
「ケンカはしないでくださいね」
「はい!」
仲がよさそうなのはいいのですが……内面まで似てこないか心配です。
エレオノーラさんまで〝シュミットの流儀〟に染まってしまうのはちょっと……。
「それにしてもニーベ様とエリナ様、これだけ話をしていてもまったく集中力が途切れませんね」
「負荷がかかっているときはそういう状態です。話も聞いていますし周りのことにも気を配っていますが、自分の手元は離しません。うかつに制御を緩めると暴発して事故になりますからね」
「危ないんですね……」
「錬金術も上位になると危険が伴います。ハイポーション作りなんて正しい手順を踏まなければ錬金台ごと大爆発、なんてこともありえますから」
「そうだったんですか」
「はい。弟子たちはカーバンクルもいますので万が一などありえませんが、事故を起こすような不手際は一度しか許しません」
本当にこの方法って危険なんですよ。
魔力循環が乱れて負荷がかかっているせいで一瞬でも気を抜くと大量の魔力を流し込んで、錬金台ごと大爆発などという事態になります。
弟子たちにはお小言で済むのですが、問題は錬金台。
オババの特別製ですし前に事故があった時用のスペアを頼みに行ったら、『今度はアンタが用意しな、このバカ師匠』と怒鳴られました。
いや、確かに僕が作った方がいいのですが……僕だと彼女たちの腕前と癖、魔力波長などを知りすぎていて文字通りぴったりな錬金台を作ってしまうんですよね。
さすがに自作以外でそれは弟子のためにもならないでしょうし……悩みどころです。
「ニーベちゃん、エリナちゃん。ふたりともそこまでです」
「はいです」
「わかりました。……ようやくニーベちゃんに並べました」
「作る速度の差で一回だけニーベちゃんの方が多いです。誤差の範囲ですけどね。ふたりともよく頑張っています。修行の成果は着実に出ていますよ?」
「「はい!」」
「……でも、この修行。せめて一日一度にしませんか? 前にも説明したとおり危険も伴うんです。あなた方なら大丈夫なのは知っていますが不安なんですよ」
「先生に心配をさせるのは申し訳なのです。でも……」
「これを知ってしまった以上、止まれません。先生との約束は必ず守りますので許してください」
「はあ、あなたたちも本当に頑固者だ。どちらか一方でも無理だと感じたときは絶対にやらせませんからね」
「はいです!」
「ありがとうございます!」
「さて、夕食まではもう少し時間があるでしょう。ふたりは……」
「普通の練習です!」
「もっともっと頑張らなくちゃ!」
「……少しは休憩とかそういうことも覚えてください」
師匠命令で止めるほど疲れてもいないのが難点です。
少し指輪にかけたエンチャントが強すぎましたかね。
「スヴェイン様、おふたりの監督が終わったようですので私の指導をしていただけますか?」
「構いませんよ。どこを教えましょう?」
「最初から一通り確認してください。その上でおかしな点や間違っている点、修正した方がいい癖があったらご指摘を」
「わかりました。……そういえば、あなたも僕のことを『先生』と呼んで構いませんよ。正式な内弟子になることを決めたようですし」
「いえ、スヴェイン様を『先生』と呼ぶタイミングはもう決めてしまっていたので」
「ほう。聞いてもいいのでしょうか?」
「はい。スヴェイン様の野望、それに乗り、その一員になれたときは『先生』と呼ばせてください」
「わかりました。その覚悟、受け止めましょう」
「はい、よろしくお願いいたします。では、私の実演を」
まったく、エレオノーラさんも僕の弟子になってしまいました。
このまま頑固者に育ったら親御さんにどうお詫びをすればいいのか、不安です。
********************
「ここを、こうして……こうっ!」
「うわぁ、ウサギのお姉ちゃん、とっても綺麗!」
「前に見た時よりもお星様が綺麗になってる!」
「すっげぇ!」
よかった、子供たちもたくさん喜んでくれて。
子供たちが喜んでくれないと魔法研磨でスヴェイン様に弟子入りした意味がないからね。
「私じゃまだ丸いお星様しか作れないの。まだまだ修行不足でごめんね?」
「ううん、それでもすごいよ!」
「ただの石ころがお星様になるんだもん!」
「俺もそういうこと、できるようになるのかな?」
「大変だけどできるようになるよ! それに皆だってお星様になれるよ?」
「私たちが?」
「お星様に?」
「うん。まだまだ磨かれていない原石だけどこれからいっぱい頑張ればお星様になれちゃうんだから!」
「それってウサギのお姉ちゃんみたいに!?」
「ウサギのお姉ちゃんみたいになれるんだったら、僕も頑張る」
「俺だって!」
「皆なら私よりももっともっと輝けるよ! だから、これからもお勉強やお手伝い、頑張ってね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます