678.滞在六日目:スヴェインの講義

「うん、しっかり指導できたのです」


「頑張ってほしいね」


「やり過ぎという言葉を覚えてください、ふたりとも」


 結局、ふたりは中級クラスの訓練生にもしっかりと講義をつけてきました。


 内容そのものは非常に正しかったのですが……やり過ぎです。


「まあまあ、よろしいではありませんか。訓練生たちにもいい刺激になったでしょう」


「刺激どころの話ですめばよいのですが、サエ所長」


「シャルロット様も心配性ですね。あの程度で落ちこぼれるならですよ? シュミット公国の講師訓練生として失格です」


「それはそうですが……きついでしょうね」


「次は上級クラス。講師からの指導も終わり自主学習のみに入っている者たちばかりが集まっているアトリエですが……今度はスヴェイン様の手腕を見せていただきたいものです」


「僕の……ですか?」


「はい。お弟子様方があれほどの指導を出来るのです。スヴェイン様の直接指導であれば伸び悩んでいる者たちも飛躍的に伸びることが出来るでしょう」


「……それ、訓練所として許されるのですか?」


「今日だけ許しましょう。もちろん、答えは教えませんよね?」


「無論です。ですが……に気が付いている訓練生ってどれくらいいますか?」


「ほとんどおりません。無論、ではない以上、ことにも」


「それは大変そうです」


「ええ、大変です」


「あれ? 先生、ってどういう意味ですか?」


「ボクたち最初は初心者向け錬金台で作っていましたよ?」


「それはあなた方にがあるからです。高品質ミドルポーションの錬金触媒は言えますよね?」


「もちろんです。水土、光、聖、回復です」


「それがなにか?」


「合成触媒抜きで考えてください。もちろん、合成に使った触媒も含めて」


「うん? 水、土、雷、光、聖、回復なのです」


「えーと?」


?」


「あ、四つなのです」


「六つは扱えません」


「あなた方にもまだ教えていませんでしたが、六つの錬金触媒までなら同時に扱える錬金台も作れるのです。個人の魔力波長とぴったりあわせないといけないために自作しか道がないのですけど」


「それ、帰ったら教えてほしいのです」


「はい。是非教えてください」


「言われずとも帰ったら教えます。合成触媒が作れるあなた方なら不要ですが本来はハイポーションでも必要な錬金台ですからね。作り方も複雑になりますが頑張って覚えてください」


「「はい!」」


 新しい知識という餌をぶら下げられた弟子たちは一気に機嫌がよくなりました。


 帰るまで待てるでしょうか、この子たち。


「しかしどうやって教えましょうか。特殊錬金台の作り方を講義するわけにもいきません。高品質ミドルポーションの作り方を考えつかないと特殊錬金台の必要性に気付きませんし……難題ですね」


「はい! 先生! 高品質ミドルマジックポーションって六属性でどうやって作るんです?」


「あ、そう言えば。使っている錬金触媒って水風、光闇、聖、回復の四つ。分解すると水、風、火、光、闇、聖、聖、回復の八つだものね。錬金触媒を八つ使えないと足りないです」


「ああ、それでしたら所長の私から。火の触媒と聖の触媒のうちひとつはなくても高品質ミドルマジックポーションになるのですよ。合成触媒を使った作り方よりも更に繊細な魔力操作が必要となる方法、正しい組み合わせに気付けるかどうかが勝負です」


「ありがとうなのです、サエ所長」


「そうか、そういう作り方もあったんだ」


「知識として覚え、特殊錬金台を作れたら試してみるといいでしょう。合成触媒の方法で安定しているあなた方なら確認程度にしかならないでしょうが知識は無駄になりませんから」


「「はい!」」


 さて、弟子たちの機嫌は更によくなりましたがこちらは本当に難題です。


 とりあえず合成触媒の手順は見せませんが……どうしたものか。


「サエ所長、そのアトリエにいる訓練生たちは錬金台の自作が出来ますか?」


「ある程度は習っているでしょう。ですが不完全でしょうね。まだ街の錬金術道具店で買ったものを使っている者が大半のはずです」


「では、そこの意識改革を目指しましょうか」


 そして、上級クラスのアトリエへ。


 そこで講師をしていた方に話をつけていただき、今回は全員でアトリエに入ることにしました。


 公太女であるシャルまで入ってきていますから皆さん驚いていますね。


「スヴェイン様、こんなところでお目にかかれるとは光栄でございます」


「あなたは?」


「錬金術師講師アーチーと申します。シュミットからコンソールに渡ったウエルナに次ぐ第二位講師です」


「第二位の方でしたか。それは授業を妨げてしまい申し訳ありません」


「いえ、最近はこのアトリエの進み方が停滞していて困っていたところでございます。スヴェイン様にはお手数をおかけしますがこの者たちに檄をお入れください」


「どの程度の効果があるかは保証いたしかねますが、可能な範囲で。それでは始めさせていただきます」


 さて、教壇に立たせていただきましたしまずは軽く自己紹介から始めましょう。


 既に素性はばれていると考えていますけど。


「初めまして。『隠者』スヴェインです。今日は妹のシャルの付き添いで錬金術講師訓練所の見学に訪れていたのですが、皆さんの講師をすることになりました。短い時間ですがよろしくお願いします」


 この時点でざわつくのはシュミット外から訓練所に来ている訓練生たちでしょう。


 昔からこの街にいた住人でしたらシャルと一緒にアトリエへと入ってきた時点で気付くでしょうから。


「さて、お手本ですが……わかりやすくでもご覧に入れましょう。素材などはもちろん明かしませんがたいしたものではありませんので頑張って研究してください」


 僕はストレージから特殊錬金台と魔力水、大量の魔石、最高品質の上薬草、そしてバイコーンの生き血を用意しました。


 そこから手早く魔力水を霊力水に錬金術で変換、上薬草と魔石、バイコーンの生き血も錬金台の上にあげて最高品質ミドルポーションにしてしまいました。


 もちろん、使わなかった魔石は錬金術行使と同時にストレージにしまいましたのでなにを使ったかなどばれません。


 僕はそれを瓶詰めしたあと全員に確認してもらい講義開始です。


「さて、このアトリエでは高品質ミドルポーションを目指していると聞きます。なので、基本素材の確認から高品質霊力水をしている者は?」


 この時点で手が挙がる者が半数程度。


 とウエルナさんに聞いたことがありますからまだまだ甘いですね。


「では次、に達している者は?」


 この発言で手がかなり下がりました。


 らしいですから……まあ仕方がないでしょう。


「最後、者は?」


 これによって全員の手が下がりました。


 ふむ、まだ確実に高品質霊力水を作れる者はいませんか。


 横目でニーベちゃんとエリナちゃんを確認しましたが落胆していました。


 ふたりはもう少し表情を隠してください。


「そうなると高品質霊力水の指導となりますが……その前に確認です。街で買った錬金台を使っている者はどれくらいいますか?」


 今回の質問に手を挙げた者は全体の三分の二程度。


 確かにまだへと進んでいる者は少ないようです。


 自作に進んでいる者も魔力波長とぴったりあった錬金台を作れている者はどれだけいるか。


「それで、調律してもらっていない者はいますか?」


 さすがにこの質問では手が挙がりませんでした。


 うん、僕の弟子が特殊すぎるだけです。


 わかっていましたとも。


「それではまずひとりひとりの魔力水作りを見せていただきます。悪い点は指摘してあげますのでご安心を」


 さて、ここからが本番、指導開始です。


 各個人個人を回りながら実際に問題点を指摘、その際に錬金台の様子も確認して回りましたがやはり魔力波長とあっていません。


 全員を一回ずつ回ったところであらためて教壇に立ちました。


「各個人を見させていただきましたが、大前提として。もう一度回ります。その時に調律をしてあげますので試してみてください」


 僕は街で買った錬金台、個人で作った錬金台一切構わずに調律作業を施していきました。


 結果として全員『霊力水が作りやすくなった』と言っているので調律の重要性はわかっていただけたでしょう。


 ここから先、話についてきていただけますかね?


「調律については理解しているでしょう。そして、調律の結果が調律者の腕前で変わることも。今回、街で買った錬金台だけではなく自作した錬金台でも調律をさせていただきました。この意味はと言うことです。街で錬金台を購入している者は錬金台の自作をいまから始めなさい。遅れれば遅れるほど差を広げられます。自作していても調律で使いやすくなった者は自分の魔力波長を理解しきれていないと言う証です。もっと自己研鑽を。そうしないと、その先にあるには手が届きませんよ?」


 最後はサービスしすぎましたかね?


 ですが自作を究めていただかないと特殊錬金台には届きませんし頑張ってもらわねば。


 ちょうど講義終了の鐘も鳴り響きましたしちょうどいい頃合いでしょう。


「さて、講義時間も終わりを告げたようですのでこれで終了です。皆さん、講師目指して頑張ってください」


 これで僕の講義も無事終了。


 そのあとはサエ所長の部屋でお茶をいただきながらいろいろとお話を伺いました。


 講師を目指す上での最大の難関はやはり特殊錬金台に気付くかどうからしいです。


 それにさえ気が付けば高品質ミドルポーションも視野に入るそうですが、そこに気が付くのが難しいと。


 今回の訪問はちょうどいい刺激になったらしいですね。


 そう言っていただけると講義した甲斐があります。


 サエ所長とのお話が終われば錬金術講師訓練所訪問も終了、一度公王邸に戻って昼食を挟み今度はユイたちと服飾講師訓練所へ。


 服飾講師訓練所ではユイを……さすがに覚えているでしょうね。

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