677.滞在六日目:ニーベとエリナの講義後

「先生どうだったのです、いまの講義は?」


「はい。結局、魔力水と霊力水の指導だけで終わってしまいました」


 講義を終え、また訓練所内を歩き出したあとふたりが不安そうに聞いてきました。


 サエ所長もシャルも満足げなのですが。


「十分でしたよ。そもそも霊力水の元となっている魔力水すら完璧ではなかったのです。霊力水が安定するはずもないでしょう」


「それもそうなのです」


「その通りですね」


 ふたりも納得してくれました。


 さすがにサエ所長は困った顔をしていますが。


「スヴェイン様、お弟子様方の指導力も見事ですね。まさか、魔力水の指導から入るとは考えてもいませんでしたが」


「この子たちならやる可能性も考えていましたよ? コンソールの錬金術師ギルド本部では魔力水指導が厳しいですし」


「なるほど。彼らも錬金術師ギルドや修業先の工房で鍛えられているはずですが、スヴェイン様たちの基準からすればまだまだ足りませんか」


「足りなかったようです。僕は遠目で見ていただけなのでわかりませんが、ふたりの指導が入っていると言うことは魔力水から鍛え直さないと高品質霊力水に届かない者が多いのでしょう。あとは彼らがどう受け取るかですね」


「年下の少女ふたりから基本中の基本、魔力水の指導を受けた彼らは厳しそうです。ですが本当に講師を目指すならば高品質ミドルマジックポーションをある程度作れるのは最低条件、つまり高品質霊力水は絶対条件ですから」


「お兄様もニーベちゃんとエリナちゃんも心をへし折るならお手柔らかに。実力差がはっきりしてしまうので」


「シャル、冷たくないですか?」


「冷たくありません。事実です」


 やはり、いつもながらシャルが冷たいです。


 しかし、講師訓練生がでは大変そうですね。


「サエ所長、今年卒業見込みのある訓練生はまだ現れていませんか?」


「いえ、シャルロット様。数名おります。ですが今年中となると難しいかもしれません」


「それは残念です。シュミットとしても派遣先を増やしたいところなのですが」


「おや? 派遣先が増える予定でも?」


「お父様とのテーブルに着く国々がいくつか現れ始めました。建国から三年経ってようやくです」


「まあ、先触れもなしに突然現れる国王の国ですからね。好感触は引き出せているのですか?」


「お父様の話では今のところまだまだだと。私たちの技術、侮っているようです」


「ふむ。いっそ、でも起こしては?」


「国を吹き飛ばすのはやめましょう、お兄様。シュミット公国の名が広まったのもお兄様の、コンソールのおかげですが」


「『コンソールブランド』はそこまで遠くの国にまで影響を与え始めていますか」


「与えていますね。愚かな旧国家群の王たちはともかく旧国家の隣接国からは問い合わせがあります。そちらについてはすべてお父様任せですが、今後次第でしょう」


「いいことです。シュミットも油断しないでくださいね?」


「竜でも攻めてこない限りは」


「竜が来ても聖獣の皆さんが追い払いそうですが」


「それもそうでした」


 和やかな話をしながら歩き続け授業が再開した教室を覗くと、ここは中級クラスの訓練生がいるアトリエのようです。


 ここではミドルマジックポーションの講義を行っているようですが……ニーベちゃんとエリナちゃんは手出しを控えましょうね?


 自分たちより年上がのんびりやっていることが我慢ならないのは認めますがやり過ぎです。


「講師訓練生ってこのペースで教えていて大丈夫なのです?」


「ちょっと心配になります」


「あなた方基準で考えるのはやめなさい」


「お兄様の基準だと訓練についていける者がいませんよ」


「私たちはついてきているのです」


「はい。わかりやすいですよ?」


「その基準がおかしいことに気が付いてくださいね?」


「そもそもお兄様とアリアお姉様の考えた宿題一年分のうち十カ月分を三カ月で解いたと言っていましたよね、昔。そのレベルの努力が出来るほどの十二歳などおりません」


「私たちがいたのです」


「はい。そして、ボクが弟子を持ったときも同じように指導します」


「私もなのです」


「……お兄様、加減を教えておきなさい」


「……はい」


 この子たち、自分たちが大丈夫だったせいか弟子にも同じことを要求するつもりです。


 確かに僕は半年で最高品質安定まで行きましたし特級品も発見しましたが、この子たちだとそれ以上を求めそうです。


「さすがはスヴェイン様のお弟子様たち、腕前だけではなく気も強い。どうです、この教室でも講師をされていきますか?」


「いいのですか?」


「お手伝いできるのであれば」


「構いませんとも。シャルロット様とスヴェイン様も構わないでしょうか?」


「……その話をしてしまってはふたりはもう止まりません」


「……あまりよくはないのですが、ふたりとも手加減はしてくださいね?」


「手加減しては指導にならないのです!」


「はい!」


「では、情けない先達どもに気合いを入れてまわっていただきましょう。話を通して参りますので少しお待ちを」


 サエ所長は本当に話を通してきてふたりによる指導が行われました。


 念のためと言うことで魔力水の作り方から確認したようですが……さすがにここでは指導ようです。


 そのあと、ミドルマジックポーションの指導に移り変わりましたが細かくわかりやすい指導に訓練生の方が驚いていて……。


 それを見たふたりから余計檄が飛ぶ結果となったのは言うまでもないですね。


 このふたりに加減を教えるにはどうすればいいのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る