676.滞在六日目:ニーベとエリナの講義
「初めまして。サエ所長さんのお願いで急遽皆さん講師を努めることになったニーベなのです」
「同じくエリナです。よろしくお願いします」
ニーベちゃんとエリナちゃんのあいさつから始まった今回の講義。
僕とシャルはアトリエ外から黙ってみているだけですが、大丈夫でしょうか。
「まずは講師の腕前がわからないと不安だと思うのです。高品質ミドルマジックポーションを作ってみせるのですよ」
「はい。三年かけてようやくある程度は安定しました」
アトリエ内がざわつき始めました。
自分たちよりも年下の少女たちが高品質ミドルマジックポーションをある程度安定などと言い出せば当然でしょうか。
「錬金台もようやく自作が安定なのです。先生はずっと自作なのですからすごいのですよ」
「本当にね。素材はすべて純ミスリル、抵抗が必要な部分はミスリルを圧縮、錬金炉はカラードラゴンの血を分けていただいたけど……まだまだ魔力圧縮が足りないから道は険しいや」
「オリハルコンを混ぜることも考えるのです。とりあえず次はガルヴォルンとの合金化でしょうかね?」
「そこが一番早いと思う。外殻の素材も考えなくちゃいけないけれど、まずは魔力回路と安全装置、安定装置からかな」
「ですね。あ、こちらの話に付き合わせてしまったのです。始めます」
ニーベちゃんとエリナちゃんは錬金台の話をやめると自分たちの錬金台を取り出し、蒸留水を設置、手早く魔力水、霊力水を作りあげました。
「さて、ここからが勝負なのです。成功率は九割八分程度、まだまだ未熟なのですよ」
「うん。失敗したらごめんね。二回やれば確実に成功するけれど」
おや、もうそこまでいっていましたか。
彼女たち、公王邸のアトリエでも練習を繰り返していたんじゃないでしょうか。
「ではいくのです。えい! ……うん、高品質ミドルマジックポーション成功です」
「こっちも成功。でも、いまのを見えた人っているかな?」
「わからないのです。でも、将来は錬金術の講師を目指しているのですからこれくらいは出来てもらわないといけません」
「そうだね。それじゃあ、講義を始めます」
ふたりの講義はミドルポーションの作製手順と効率的な魔力の流し方、純粋化の方法からスタート。
ただ、それについてくることができていないことを確認すると今度は霊力水の初歩的な作製手順からに変更しました。
しかし、それでも反応が鈍いことを確認し、結局は実際に霊力水を作らせてそれを確認するところから始めることにしたようです。
でも、ふたりはその前段階からお気に召さなかったようですね。
「あなた、魔力水の作り方が甘いのです。魔力水を縦に回転させるタイミングが遅すぎですよ」
「うーん、あなたもですね。あなたは魔力を注ぎ込むときにムラがあります。そこを均一化しないと霊力水、特に高品質以上の霊力水には影響が出ます」
「あなたは魔力を注ぎ込みすぎているのです。それでは霊力水にした時の魔力密度が濃くなり過ぎます」
「あなたは……魔力をゆっくり注ぎ込みすぎですね。霊力水でもその癖が出ているのでしたら一般品質安定がぎりぎりでしょう? もう少し早めに注ぎ込めるようにならないと」
そのチェックは訓練生全員に続き、ダメ出しされなかった者は皆無でした。
このままでは講義が進まないことを確認したふたりは魔力水の修正を自主訓練に任せて霊力水の指導に入るようです。
魔力水で指導が入っている以上、霊力水で指導が入らないはずもないのですが。
「あなたの霊力水、色が濃すぎます。魔力水から霊力水に変えるときの魔力を注ぎ過ぎな証拠なのです。もっと丁寧に注いでください」
「こっちは手順が間違っています。その手順では一般品質の霊力水は作れても高品質霊力水は絶対に作れません。手順の見直しを」
「あなたも手順が違います。それから注ぐ魔力量も少ないのです。一から見直さないと先に進めません」
「あなたは……魔力波長とあっていない魔力の注ぎ方をしているのでしょうか、作り終えたときの霊力水が均一になっていません。調律していただける錬金台の購入か自分にあった錬金台の自作をお勧めします」
「あなたは無理矢理錬金術を行使しているのです。それでは導く側になれません。もっと丁寧に錬金術を使うのです」
「あなたは恐る恐る錬金術を使いすぎています。もっと自信を持ってください」
まあ、指導内容の細かいこと細かいこと。
作った結果のダメ出しだけではなく作業方法のダメ出しから入っている者たちもいます。
ここにいるのは錬金術講師訓練所に所属している訓練生たち、つまりは実力がなければ上に行けないことを普段から厳しく教え込まれている方々ばかり。
年下の少女であろうと圧倒的な腕前を見せつけられ、霊力水の前段階ですら指導を受けている。
そんな相手に反発できるはずもありませんからね。
そのままふたりは訓練生たちに何回も霊力水を作らせては指摘を行い、次の訓練生に移るを繰り返しました。
そして、やがて講義時間終了の鐘が鳴り響き講義終了となります。
「残念ですがこれで講義終了なのです。ただ、最後に最高品質霊力水の作り方を見せるのですよ」
「ボクとニーベちゃんのふたりそれぞれが一回ずつ見せます。シュミットの講師訓練生でしたらそこからヒントを盗み出してください」
「では、前に集まるのです。集まったら行います」
講義の仕上げとして最高品質霊力水を作ってみせるようですね。
ふたりにしては大サービスです。
「では始めるのです。これが私の最高品質霊力水の作り方なのですよ」
ニーベちゃんは一瞬にして最高品質魔力水を最高品質霊力水に変えてしまいました。
さすがにシュミットの講師訓練生相手ではゆっくりなんて見せませんか。
「次はボクの番です。ニーベちゃんとは違う部分もありますが基本は一緒。同じ部分が最高品質霊力水の基礎手順です。頑張って盗み取ってください」
エリナちゃんも同じように最高品質霊力水を作製、こちらも一瞬の早技です。
さて、どれくらいの訓練生が気付けたかどうか……。
「これで私たちの講義は本当に終了なのです。私たちは先生から学び始めて今年の秋で四年、頑張って追いついてください」
「ちなみに最高品質霊力水は三年前の冬に作れるようになりました。もちろん先生の、スヴェイン先生の指導は受けていません。高品質霊力水の作製までは三年前の夏に作れるようになりましたがそちらもヒントなしです。実演くらいしかされていません。それでは皆さんも頑張ってください」
訓練生たちはふたりが僕の弟子だと知って驚いていますが……そこに驚いていていいんですか?
彼女たちは一年以内に高品質霊力水の作製ができるようになったと宣言しているのですよ?
頑張って追いついてもらわないと困りますね。
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