675.滞在六日目:錬金術講師訓練所

「うわあ、あれが錬金術講師訓練所なのですか!?」


「薬草園の中に建てられているんですね!!」


 滞在六日目、折り返し日です。


 今日の予定は午前中が僕と弟子たちの要望で錬金術講師訓練所、午後がユイとサリナさんの要望で服飾講師訓練所に決まりました。


 僕も講師訓練所は初めてなのですがこんな場所に建っていたのですね。


「そういうことです。錬金術講師が正確な薬草栽培程度できなくては話になりません。薬草園の管理は基本中の基本です」


 僕たちの乗っている馬車には案内役としてシャルも同乗していました。


 午前中のメンバーは僕にニーベちゃんとエリナちゃん、シャルの四人です。


 形式上はシャルの視察に僕たちが同行していることになっていますね。


「なるほどなのです」


「そう言われればそうかも」


「お兄様が薬草栽培を広めて以降、カリキュラムも増えて錬金術講師は大変ですよ?」


「それは悪いことをしました」


「いつもながら心にもないことを言わないでください」


「ですが、薬草栽培が広まったおかげでカリキュラムも充実したでしょう? 滅多に使えなかった上薬草などの中級薬草が使い放題になったのですから」


「まったくその通りですから反論できません。お兄様には不可能だった中級薬草栽培も錬金術講師訓練所では研究可能でしたし、実際三年で安定させました。その中級薬草を使い中級ポーションの大量生産も可能に。上位講師にしか実際に教えられなかったミドルポーションとミドルマジックポーションの指導が、下位講師や訓練生にもできるようになったのは本当に大きいです」


「教えているのはミドルポーションとミドルマジックポーションまでです?」


「高品質ミドルポーションと高品質ミドルマジックポーションは?」


「そちらは自己研究です。ヒントは与えますがすべて自力で解き明かさせます。ちなみに、高品質ミドルマジックポーションをある程度作れるようにならないと錬金術講師の資格は与えられません」


「それじゃあ私たちでは講師資格は無理なのです」


「講師になるつもりなんてないけれどね」


「あなた方ならば研修だけでなれますよ? 高品質ミドルマジックポーションをもう既に九割以上出来るのでしょう? ポーション作りの資格は十分です。あとは教え方の問題ですね」


「それなら余計必要ないのです」


「先生の教え方だけで十分です」


「あなた方にはそれがあっているでしょうし、それ以外はあわないでしょうね」


 シャルもクスクス笑いながら話していますが……この子たちを講師訓練所に連れて行っても大丈夫なのでしょうか?


 興味があるので連れて行きますが余計な事をしないか不安になってきましたよ。


 そんなことを話ながらも馬車は錬金術講師訓練所の前へと到着。


 出迎えの方が出ておられますが……訓練所の教官でしょうか?


 それとも所長?


 ともかく馬車から降りねば。


「ようこそ、シャルロット様。そして、スヴェイン様。それからスヴェイン様のお弟子様方。私は当錬金術講師訓練所の所長サエでございます」


「久しぶりですね、サエ」


「ええ、お久しぶりでございます。コンソールに渡った者たちはユキエ以外お役に立っていますでしょうか」


「報告書にしたためた通り、今年の選考で不手際があった以外は問題ありません。コンソール以外に渡っている者たちも今のところ問題ないようです」


「それはよかった。この訓練所で育った者たちがお役に立てていないとなると恥ですからね」


「まったくです。それで、名目上は私の視察ですが本来の目的はお兄様の弟子たちが訓練所に興味を持ったための来訪です。問題ありませんね?」


「もちろんです。アルデから二年前の報告書も読んでいます。あの時点で立派な錬金術師としてしての覚悟と誇りを持っていた少女たち。出来ることならば訓練所の訓練生たちに指導もお願いしたいところです」


「私たちが指導……です?」


「さすがにおこがましいかと」


「そんなことはありません。訓練所に入っている訓練生たちは無論、相応の腕前を持ち入所試験に合格した者たちばかりです。ですが、まだまだ覚悟と誇りは足りていない。スヴェイン様にもご講義願いたいですが、お弟子様方にも講義願えればと」


「……いいのですか、先生?」


「さすがに、コンソール錬金術師ギルドで教えるのとは違いますよね?」


「同じ気持ちでやればいいと思いますよ? あなた方の目から見て覚悟が足りないと感じたらガツンと気合いを入れてあげなさい」


「……では、様子を見てから考えてみるのです」


「うん、さすがにここでは」


「それで構いませんとも。それでは参りましょう」


 サエ所長に案内され錬金術講師訓練所へと入ります。


 その中ではアトリエごとに区切られて様々な講義を受けたり研究を行ったりしていました。


 ……どれもニーベちゃんとエリナちゃんから見れば不服げな様子ですが。


「サエ所長さん。入口に近いアトリエの訓練生はまだ年季が浅い訓練生です?」


「そうなりますね。少なくともシュミット錬金術師ギルドを卒業できる程度の腕前はありますが……その程度です」


「ボクたち、相当な英才教育を受けていたんだね」


「はいです。それを一気に駆け抜けたことも今更実感したのですよ」


「わかってくれたなら少しスピードを落としてください」


「先生のお願いでも止まれないのです」


「はい。早くハイポーションに進みたいです」


「おやおや。十五歳でハイポーション。さすがはスヴェイン様のお弟子様、練度がまったく違う」


「まだ命の錬金触媒も作れませんけどね」


「命の錬金触媒自体作れるのが中の上と言った講師ですよ? それ未満の者たちは作り方を知っていても爆発を恐れて試せないか、見極めが早く触媒にならない者、遅すぎて魔力暴走を起こす者です」


「意外と私たちは進んでいるのです」


「そうだね。先生の教育ってやっぱりすごいや」


「わかってくれたのなら結構。本当にペースを落とす気はないんですね?」


「ないのです」


「止まれません」


 この子たち、本当に頑固です。


 どうすればゆっくり育って……ああいや、僕とアリアの研究すべてを受け継ぐなんて言い出している以上、無理ですか。


「どうです? 入口の近くにいるアトリエの訓練生にだけでも指導してみませんか?」


「どうするのです? エリナちゃん」


「少しだけやってみようか。お邪魔になるかもしれないけれど」


「では、講義を行っている講師に話をつけて参りましょう。ひょっとするとその講師以上の講義になる可能性もありますが」


 とりあえずニーベちゃんとエリナちゃんの講義は決まったようです。


 あまりやり過ぎなければいいのですが……無理ですね。

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