259.師匠命令
はあ、本当に困りました。
これ以上の課題となるとハイポーションなのですが……。
これを作れるとシュミット講師陣に並ぶんですよね。
「ふたりとも、これからは高品質ミドルマジックポーションを作製し続けなさい。あなた方が想像している以上に魔力を消耗します。そうすれば魔力枯渇も起こしやすくなるはずなので最大魔力の向上にも繋がるでしょう」
「はいです!」
「はい!」
ふたりともいい返事です。
最近は魔力枯渇を起こしにくくて最大魔力を増やせないでいたため嬉しいのでしょう。
「あとは……そうですね。時空魔法の勉強課題を与えます。まだしばらくは座学ですがアルフレッドさんのお孫さん、ウィル君の件もあってそのうちセティ師匠がやってくるはずです。合間を見て時空魔法を教えてもらえるようにお願いしますのでそれまで待っていてください」
「先生たちは教えてくれないのですか?」
「ボクたちは先生たちの方がいいです」
「慕ってくれるのは嬉しいですが、時空魔法……特に『ストレージ』を教えるのはセティ師匠の方が得意でしょう。それ以外の魔法は僕らに丸投げされると考えています。申し訳ありませんがそれまで待っていてください」
「むぅ、仕方がありません」
「堪えて、ニーベちゃん。先生たちが街にいるのに教えてくれないということはなにか理由があるんだよ」
「理由はあります。先に説明しておきましょう。時空魔法で唯一の攻撃魔法に『ディストーション』というものがあります。それは、時空を引き裂き空間ごとあらゆるものを切り裂く魔法。今のあなた方の魔力なら街門程度は切り裂けます」
「それは怖いのです……」
「うん……」
「なので、まずは安全な『ストレージ』からです。高品質ミドルマジックポーションまで自力で作れるようになったと知れば、師匠も大喜びで教えてくれるでしょう。僕も師匠も他人に甘えるものは嫌いですが努力するものは大好きですから」
「わかったのです」
「わかりました」
納得してくれたようで良かったです。
正直、時空魔法の基礎となる『ストレージ』はかなり感覚頼りの魔法。
テオさんに聞いても『三年かけてぎりぎり間に合った』と言っていましたし、この子たちなら一カ月かからないでしょうが僕らよりもセティ師匠でしょう。
「はい! 先生!! 代わりにお願いがあるのです!!」
「ボクからもひとつお願いが……」
「なんですか? 簡単なことで良ければ応じてあげますよ。弟子がまさかの高品質ミドルマジックポーションまで完成させたお祝いです」
「じゃあ、最高品質ミドルポーションを実演してください!!」
「ボクも同じです。お願いできませんか?」
やっぱりそれですか。
順番的にそうなりますよね。
「ダメです」
「え?」
「先生?」
「あなた方のことです。僕が実演すれば自分たちでも作りたくなるでしょう?」
「当然です!」
「ボクたちだって試したいです!」
「だからこそダメです。ただ見せるだけならいいのですが、自分たちで作ろうとするなら許可できません」
「なんでですか!」
「いままでは許可してくれましたよね?」
「どうしてもダメです。あなた方ではどうあがいても作れません。ただ単に魔力枯渇を起こしているだけなら最大魔力が上がっていいのです。ですが、気絶する以上の魔力を放出するような真似をすれば寿命を縮めたり、場合によっては命を落とす可能性もあります。僕はあなたたちの師匠。ひとり立ちしていない弟子に命をかけろ、などとは言えません」
「うぅ……」
「そこまで危険なんですか?」
「魔力量的には足りているんですよ。ただ、必要な素材が最高品質素材に加え魔物素材がひとつだけ必要です。それを入手する術があなた方にはない」
「魔物素材なら冒険者ギルドです」
「そうです。冒険者ギルドで依頼を出せば……」
「断られます。そもそもそのモンスターがこの国……いえ、この周辺国家に生息しているかがわかりません。入手難易度も冒険者には高すぎます。僕やアリアは対抗装備と採取道具を持っているのでいくらでも集められます。でも、それらがないと不可能なんですよ。だから、いまは諦めてください。あなた方が『神霊の儀式』を終わらせたあと、『魔導錬金術師』になったら魔物素材などの集め方を含めた危険地域での生存手段を教えます。師匠の顔を立てると考えここは折れてください」
「そんなの納得できません!!」
「ボクたちはいま試したいんです!!」
はあ、困りました。
僕が言っても止まらないようではどうにもなりません。
少しほかの大人に頼んで頭を冷やしてもらいましょう。
「そこまで言うならわかりました。必要な魔物素材を教えます。それは……」
********************
はあ、やっぱり飛び出していきましたか。
いくら腕前が優れているとはいえ十二歳の子供たち、走り出したら止まれないこともあるでしょう。
「あの、ギルドマスター? 先ほど言っていた素材は本当ですか?」
「本当ですよ? 現物を確認しますか? ……ほら」
「本物だ。でもこんなもの手に入るはずがないですよ? 冒険者に頼んだところで……」
「そもそもこの地域には生息していない。生息していればそんな危険地域に街など造れないでしょう」
「ですよね?」
「すみませんがミライさん。ギルドをお任せします」
「ギルドマスターはどちらに?」
「弟子が迷惑をかけて回る大人たちへのお詫び周りです」
「師匠も大変ですね」
「僕も知らない間にセティ師匠に迷惑をかけていたのかも知れませんね……」
「それでは、ギルドは引き受けます。お詫び周りにどうぞ」
「行ってきます」
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