258.高品質ミドルマジックポーション
「それでは失礼いたします」
「ええ。また」
打ち合わせが終わったため僕は部屋の結界を解除します。
すると。
「あー! ようやく結界が解除されたのです!!」
「ニーベちゃん! 嬉しいのはわかるけど入るときはノックをして入室許可を待たないと!!」
「あっ!? そうでした!!」
「なんですか、騒々しい」
「『カーバンクル』様方は今日も元気ですね」
結界の解除とともに部屋になだれ込んできたのはニーベちゃんとエリナちゃん。
どちらも僕の『弟子』であり、コンソールの街では『カーバンクル』と呼ばれる有名人。
そして、僕を除けば『この付近にある国すべてでも随一の腕前を誇る十二歳の錬金術師』です。
ふたりとも礼儀を忘れるような子たちではないのですが……。
「えーと……」
「ギルドマスター、それでは私たちはこれで……」
「はい。ふたりの用事は僕にでしょうからイーダ支部長とロルフ支部長補佐は支部に戻ってください」
「「わかりました」」
イーダ支部長とロルフ支部長補佐は弟子ふたりの横をすり抜けて部屋をあとにしました。
残されたのは僕にミライさん、それから部屋に飛び込んできたニーベちゃんとエリナちゃんです。
「ふたりとも、どうしたのですか。そんなにはしゃぐなんて珍しい」
「そうですね。『カーバンクル』様方はいつも元気ですが、礼節はわきまえていますから」
「ごめんなさいです、先生」
「申し訳ありません。少しでも早く結果をお知らせしたくって」
「結果……」
その言葉を聞いた瞬間、僕は部屋に再度結界を張りました。
慌てたのは取り残される形になったミライさんですね。
「あ、あの、ギルドマスター!? おふたりの研究成果を私が聞いちゃってもいいんですか!?」
「今更です。成果事態は今日中にでもギルド内を駆け巡ります。製法は……まあ、黙っておいてください」
「黙っておいてくださいって。いいんですか、そんな簡単に信用して」
「もう一年近い仲です。人間性はよく知っていますよ。覚悟を決めてください。人外方面へ足を踏み入れる覚悟はできているのでしょう?」
「ああ、もう! このギルドマスター!! ああ言えばこう言う!!」
「というわけです。ふたりとも結果を報告してください」
「はい! 高品質ミドルマジックポーション成功です!!」
「再現には失敗していますけど……一回ずつはできました!!」
ふむ……たどり着いた。
いえ、たどり着いてしまいましたか。
「あの、ギルドマスター。嘘でしょう? いくら『カーバンクル』様方とはいえ十二歳ですよ? 高品質ミドルマジックポーションなんて……」
「む! ミライさんが信じていないのです!!」
「証拠はありますよ。ほら」
ふたりが差し出したポーション瓶。
ミライさんはそれを恐る恐る受け取り鑑定した結果……。
「本当に、高品質ミドルマジックポーション。嘘……金翼紫どころかこの国近隣じゃ成功例を聞いたことがないのに?」
「嘘がないことくらいカーバンクルの主ならすぐに見抜けたはずでしょう?」
「いや、そうなんですが……え、これ、夢じゃない?」
ミライさんもなかなか信用しませんね。
……まあ、仕方がないのかもしれませんが。
「ふたりとも。念のため作製手順を」
「はい! 基本必要素材は上魔草と霊力水の高品質以上なのです!」
「それにしても酷いですよ先生。錬金触媒が複雑すぎます」
「え、複雑すぎる?」
ミライさん、話を聞いてるのか聞いてないのかどちらなんでしょうか?
聞いていたとしても漏らすことはないでしょうけど。
「はいなのです。基本触媒として風と水の合成触媒と回復の触媒までは見当がすぐについていたのです」
「あの! 合成触媒ってなんですか!?」
ミライさん、食いつくんですね。
覚悟を決めましたか。
「特級品ポーションと特級品マジックポーションを作る時の触媒ですよ」
「錬金触媒同士を錬金術で合成して作るのです」
「……私、ものすごい事、聞いちゃった?」
「諦めてください。そして聞いてしまった以上、最後まで聞いてください」
「はい、ギルドマスター……」
普段の勢いがありませんね。
仕方がないでしょうか、ミライさんって研究職ではなく事務職ですし。
「ふたりとも、続きを」
「はい。ボクたちはそのあと聖の触媒や光の触媒、闇の触媒を加えて試しました」
「でも、どれも失敗して消滅しかしなかったのです」
「ふむ」
ここまでは正しいですね。
さて、続きがあっているかどうか……。
「それで錬金触媒を【神眼】で鑑定し続けていたらあることがわかったのです!」
「光と闇で触媒を合成できるなんてまったく想像できませんでした!」
「それも触媒同士を合成させるのに必要なのは聖だったのです!」
「これで水風、回復、光闇の三つの錬金触媒が揃いました」
そこまでヒントなしでできましたか。
発想力も素晴らしいですね。
「でも、この三つを使ってミドルマジックポーションを作っても高品質にならなかったのです」
「なのでほかの合成触媒も総当たりで試してみました。ですが、すべて消滅しただけでした」
「続けなさい」
「はいです。最後に聖属性の錬金触媒を試してみたのです。すると、これだけ手応えが違いました!」
「はい! ニーベちゃんとボクで感じ方は違いましたが、手応えがあったのは一緒。なので、ひたすらそれを試し続けました」
「そうしたら、昨日の夕方、帰る直前に私が高品質ミドルマジックポーションの作製に成功したのです!」
「ニーベちゃんが成功したなら錬金術スキルのレベルが高いボクでも成功するはずです。なので、朝から先ほどまでずっと試し続けていました。そして、ようやく一度だけ完成しました!」
「私も朝からずっと再現をしようとしていますが成功しないのです。これって錬金術スキルレベルのせいですよね!?」
はあ、そこまで到達しましたか。
この子たちは本当に……。
「はい、すべて正解です。手順もあっていますし、再現に失敗するのはスキルレベルがぎりぎりなのとまだ試行回数が少ないせいです。中級ポーション以上は繊細な魔力操作が必要なもの。例えスキルレベルが十分でも、一般品質が安定していても、何十回、何百回と試行しなければ安定しません」
「やったのです!」
「やったぁ!」
「え、ギルドマスター。本当に『カーバンクル』様方が高品質ミドルマジックポーションの作製手順をすべて解き明かした?」
「はい、ミライさん。まことに残念ながら僕の研究内容と一切食い違いがありません。あとは時間と手間をかけて熟達すれば、いくらでも大量生産できます」
「あの、ギルドマスター。なにを落ち着いているんですか!? これって大革命ですよ!?」
「僕はそれ以上のことができますからね。……まったく、見習いの教育計画を狂わせた僕が言えたことじゃないですが、これでもう錬金術の課題はクリアです。あとは魔法だけで『魔導錬金術師』の条件達成ですよ」
「本当です!?」
「嬉しいです!!」
「はあ。本当に、ほんっとうにこれ以上課題がありませんよ。まったく……」
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