弟子たちは更に高みを目指したい
257.第二支部、第三支部
「そうですか。あれ以降、特に問題は起きていないと」
ギルド支部での騒動があってから一週間後、ギルドマスタールームにてミライさんとともにイーダ支部長とロルフ支部長補佐から説明を受けています。
支部の運営、少なくとも事務処理は滞りなく進むようになったようで結構。
「はい。おかげさまで一般事務員たちも大人しく指示に従うようになりました」
「……少々怯えられるようになったのが難点ですが」
「その程度は諦めてください。ほかに支部運営で問題は起きていませんか?」
「はい、サブマスター。問題と言うほど大きな問題ではないのですが……」
「なにかありましたか?」
「シュミット講師陣の指導に熱が入りすぎていて、一般入門の見習い錬金術師に後れが出始めているものが若干名」
「シュミット講師の圧についていけない人もやはりいますね……」
やっぱり出始めましたか、個人差の問題が。
しかしこればかりは大きな集団となった以上、仕方がないでしょう。
「とりあえずいまはどうしていますか?」
「講師陣が有志に補講を行っています。ですが、それにすら参加しないものもいて」
「支部長命令を使っていいのかどうかわからず」
「ギルドマスター、どうしますか?」
ここはギルドマスター判断ですよね。
仕方がないところでしょう。
「いまは無視してください。春頃になっても成果を上げられないのでしたら考えがあります」
「考え……ですか?」
「初夏までにマジックポーションを安定させられないのであれば当ギルドから去ってもらいます」
「な!? それは……」
「いいのではないでしょうか」
「サブマスターまで」
「少なくともギルドマスター本人が講師をしたとか、現在の第二位錬金術師が講師をしたとか差がありますが、本部には見習いがいない状況です。これは誰でも高品質マジックポーションが安定していることを指します」
「もちろん。それはよく知っています」
「ギルド支部までギルドマスターや第二位錬金術師の皆さんが講師にいけないことは承知しています。ですが、代わりにシュミットから講師の方をたくさん招き……招き? ともかく、たくさん集まっていただきました。教育環境は十分に与えていると考えております。それでもなお半年経って一般品のマジックポーションすら安定できないのでしたら、今のコンソール錬金術師ギルドには不適格な人材かと」
「僕の言いたいことはミライさんがすべて説明してくれました。僕が足りない分の手はひとまずシュミットから借りています。今のコンソール錬金術師ギルドは甘くない。それを理解できないなら追い出すよりほかありません」
「理解しました。そのことはいまから告知しても構いませんか?」
「ダメです。告知は春になるまで待ってください」
「ミライさんの意見を支持します。春まで遊んでいたとしても、三カ月ほどの猶予はあるのです。最低限その程度はできるようになってもらわないと」
「いまから春までという期間では?」
「それはそれであまりよろしくない。最初から火が灯っていないものを見極める期間も必要です」
「それから、酷な言い方かもしれませんが見せしめという意味合いもあります。遊びほうけては生きていけないという覚悟を持ってもらいましょう」
僕とミライさんの冷酷な意見にイーダ支部長とロルフ支部長補佐は気圧されていますが……仕方がないことでしょう。
しっかりと指導はするが甘くはない、という姿勢を見せる必要があるのですから。
「わかりました。それでは、今日の報告は以上です」
「承知しました。問題が起こりましたら気軽に相談に来てください」
「といいますか、できる限り早く相談を。どこかの誰かさんが勝手に第二支部を建て始めています。問題点の洗い出しを速やかに行って、次に活かさなければいけないので」
ミライさんにはこのあたりの情報が筒抜けですからね。
でも、急ぎたいのです。
「……気が早いです。ギルドマスター」
「まだ第一支部すら安定し始めたばかりですよ?」
「せっかく人が集まり始めている機会なのです。のんびりできませんよ」
「はぁ。商業ギルドも乗り気ですがてんやわんやですよ? あちらのサブマスターも愚痴をこぼしてました。少しは加減を覚えてほしいと」
「すみません。何分、周りを巻き込む大嵐らしいので」
「……私は慣れていますがほかのギルドはそうもいきません。第三支部は最低二年待ってください」
仕方がないことでしょう。
ですが、二年も待てるでしょうか?
「最悪、僕が構想中のあれに取り込みますが構いませんか?」
「それでしたらそれで構いません。……はあ、そのときは私も引き抜かれるんだろうなぁ。後任どうしよう」
「あはは。まあ、さすがに二年ではまともな組織になりませんよ。ただ、エルフだからと言って後継者を育てないことは許しませんよ?」
「もちろんです。私も商業ギルドから借りている秘書以外に補佐を見つけなくちゃ」
「それがいいですね。……ああ、そうなると僕も後釜候補を見つけて育てないと」
僕たちの言葉を聞いて、イーダ支部長とロルフ支部長補佐は首をひねり始めました。
当然でしょう、僕は十四歳、ミライさんはエルフ。
病気や事故がなければまだ四十年や五十年は現役なんですから。
「あの、おふたりは一体なんのお話をされているのでしょう?」
「いまおふたりがこのギルドを抜けると素材があったとしても機能不全を起こすのですが……」
「わかっていますよ。そんな事は」
「万が一の備えです。おふたりはあまり気にせずに」
「「はあ?」」
まあ、そう遠くない未来の万が一なんですがね?
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