260.ニーベとエリナの冒険 前編

「やっぱり商業ギルドでは魔物素材はなかったのです」


「当然だよね。魔物素材は冒険者ギルドの領分だもの」


 私とエリナちゃんは先生から必要な魔物素材を聞き出し、コンソールに飛び出しました。


 手始めにと商業ギルドへ向かいましたが当然のように冒険者ギルドを紹介されたのです。


「それにしてもコンソールの街、冒険者が増えたよね」


「お父様が言っていたのです。『コンソールブランド』を少しでも安く買うために冒険者も商人もコンソールに集まってるって」


 お父様によるとほかの街でコンソールのものを買おうとするとビックリするくらい高いそうなのです。


 私たちが作っているポーション、例えば高品質ポーション一本でもコンソールの街で買うより二倍以上高いのだとか。


 ミストさんが私たちのポーションを買い取るときに『安くて申し訳ありません』とよく口にするのもわかるのです。


 値上げしてもらう必要などないのですが。


「冒険者ギルドについたのです」


「クリスタル、少し待っててね」


「ルビーも大人しく待っていてください」


 先生たちからは聖獣のルビーとクリスタルを常に馬代わりに使うように指示されているのです。


 本当は本物のお馬さん、スレイプニルもいるのですがさすがにあの大きな体では驚かせてしまうのでダメだとか。


「……ボクたちが冒険者ギルドに入ってきても皆驚かなくなってきたよね」


「魔石をよく買いにきていますからね。不思議な目を向けてくる冒険者さんは余所の街から来ている人なのです」


「先生からもらった装備や教えてもらった魔法があっても注意しないと」


「はい。それとこれとは話が別です」


 さて、依頼受け付けは……あった!


「すみません、依頼受け付けをお願いしたいのです」


「はい、いらっしゃいませ……って『カーバンクル』!?」


「はい、ニーベです」


「エリナと言います」


「は、はい。よく存じています」


「それでですね。魔物素材の買い取り依頼を出したいのです」


「魔物素材……ですか? いつもの魔石ではなく?」


「今日は魔物素材を探してきました。さすがに商業ギルドでは……」


「ああ、断られますよね。それで、なにを……」


「ニーベ様、エリナ様。なぜ買い取り依頼カウンターに?」


「あ、ミストさん。こんにちは」


「こんにちは」


「ええ。こんにちは」


 声をかけてきたのは冒険者ギルドのサブマスター、ミストさんでした。


 この一年近くいつもポーションを買い取りに来てくれているのですっかり顔なじみです。


「それで、なぜ買い取り依頼カウンターに? 魔石ではないのですか?」


「今日は魔物素材です」


「すみません。先生から教えられた魔物素材がほしくて……」


 エリナちゃんの言葉を聞いたミストさんは少し青ざめて、なにかをつぶやいたあと話しかけてきました。


「ニーベ様、エリナ様。その話、ギルドマスタールームで伺います。どうぞこちらへ」


 どうしたのでしょう?


 わざわざギルドマスタールームで話すなんて?



********************



「よう、『カーバンクル』のちびっ子ども。今日はなにをしにきたんだ?」


「久しぶりなのです。ティショウさん」


「お久しぶりです、ティショウさん」


 ギルドマスタールームには冒険者ギルドのギルドマスター、ティショウさんがいました。


 先生が錬金術師ギルドのギルドマスターであるように、ティショウさんも冒険者ギルドのギルドマスターです。


「今日は魔物素材を探しに来たのです」


「取り扱っているかわからないので買い取りカウンターで聞くのが早いかなと」


「あ? 魔物素材? なんでだ?」


「先生から教えてもらった魔物素材があるのです」


「ボクたちどうしてもそれがほしくって」


「ん? ディスストーンだの状態異常ポーションだのの素材はスヴェインのやつにもらえばいいだろう?」


「先生は譲ってくれる気がないそうです」


「どうしてもほしければ自分たちの足で探せって」


「……おい、嫌な予感しかしないぞ?」


「そう感じてギルドマスタールームまでお連れしました」


 うん?


 なにが嫌な予感なんでしょう?


「よし、覚悟は決まった。まずなにを作ろうとしているのか。それから聞こう」


です!」


「高品質ミドルマジックポーションは成功して、あとは練習を数百回重ねれば安定すると教えられたので」


「……よし、落ち着こう。高品質ミドルマジックポーションは成功したのか?」


「成功したのです。まだ一回ずつですが」


「実物も持ち歩いています。確認しますか?」


「……確認させていただきますわ」


 私はティショウさんに、エリナちゃんはミストさんに。


 それぞれ高品質ミドルマジックポーションを渡しました。


「……確かに高品質ミドルマジックポーションだな」


「スヴェイン様でしたらもっと綺麗な色のはず。おふたりが作ったもので間違いないでしょう」


「すみません。まだまだ未熟なのです……」


「もっと勉強します……」


「いやいや!? そういう意味じゃねえからな!?」


「そうですわ! 高品質ミドルマジックポーションなんて周辺各国のギルドでも取り扱い記録が残っていないレベルの代物ですわよ!?」


「そうですか?」


「なら、よかったです」


「こいつら、本当にやり遂げやがった」


「ずっと研究をしているのは知っていましたが……十二歳で完成させるだなんて」


「先生は十四歳ですが高品質のハイマジックポーションを安定ですよ?」


「まだまだボクたちは未熟です」


「いや、あんな化け物と比べるな……」


「そうですわ。すでにあなた方の腕前はスヴェイン様を除けば周辺国一ですわ」


 そんなの気休めにもなりません。


 私たちの目標は先生なのです。


「それでだ、なんで最高品質ミドルポーションに魔物素材が必要だと知った?」


「先生に最高品質ミドルポーションの作り方を見せてほしいとお願いしたのです」


「でも、ボクたちに見せたら作りたがるからダメだって。必要素材に魔物素材があるから絶対に作れないって」


「……筋は通ってる、のか?」


「この子たちなら間違いないでしょうね」


「それで魔物素材を探して冒険者ギルドまでやってきたってのか……」


「スヴェイン様が受け渡しを拒否する魔物素材……」


「先生も意地悪なのです。ここに来て作っちゃダメだなんて」


「そうですよ。いままでは積極的に作らせてくれたのに……」


「聞くが、ハイポーションじゃダメなのか?」


「そうですわ。危険な素材がないのでしたらスヴェイン様もお許しに……」


「嫌なのです!」


「ボクたちはいま自分の実力を試したいんです!」


「……弱ったな」


「『カーバンクル』様たちは凄腕ですが十二歳の子供でしたわね……」


 むぅ。


 どうして先生もティショウさんたちもわかってくれないのでしょう?


「……わかった。なんの素材か必要かだけ話を聞こう」


「……そうですわね。その上で危険ではないと判断いたしましたら依頼として受け付けます」


 やりました!


 これで一歩前進です!


「それで、必要な素材はなんだ?」


「はい!『』です!!』

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