334.国が崩れる

「『国が崩れた』……王家の崩壊ですか」


 、そのときが来たようです。


 秒読み段階だとは感じていましたが。


「うむ。理由の説明は?」


 医療ギルドマスター、ジェラルドさんが重々しい口調で問いかけてきますがそんなの無視です。


 伊達にシュミット家で十年過ごしたわけじゃない。


「僕たちシュミットは必要ありませんが……弟子たちやミライさんを巻き込んだんです。説明を」


「わかった。まず、この街が幾たびも攻められているのはカイザー殿から聞いたな」


「まったくです。彼も主たる僕になにも告げないとは」


「カイザー殿に言わせれば、『どちらとしても動かれては問題だ』からだそうだ」


「僕はそんな節操なしじゃないですよ」


「短気だとは聞いたぜ?」


 軽口を挟んでくれるのは冒険者ギルドマスターのティショウさん。


 まったく、さすが冒険者ギルドマスター。


 この状況でも普段と変わりない。


「短気……否定できませんね。を守るためなら竜は怒り狂うのが掟です」


「……おまえ、ユイって嬢ちゃんも大事にしろよ?」


「むしろ彼女の護衛が一番厳重ですよ」


「おお、怖い」


「彼女に言わせると僕は独占欲が強いですから」


「それくらいがちょうどいい。さて、話をすすめましょう」


 次は商業ギルドマスターですか。


 次から次へと。


「彼の国は無謀な突撃を繰り返し、戦費がかさんでいた。無論、『コンソールブランド』は……」


「売ってないでしょうね?」


「もちろん。徴収された可能性も否定できませんが」


「そうなると今後は売り控えも考えねばなりませんか」


「そこは商人の知恵、スヴェイン殿の考えることではないかと」


「ふむ……では任せます」


「さて、戦費の話はしたな。問題はここからだ」


 再び話はジェラルドさんへ。


「国がへ出していた助成金。それが遂に途絶えたそうだ」


「各ギルドですか……」


「あ、あの! 錬金術師ギルドサブマスターとして発言の許可を!」


「どうぞ。錬金術師ギルドサブマスター。あなたにも聞く権利がある」


「各ギルドってだけじゃなかったんですか?」


「『コンソールブランド』が全領域をカバーしたことで、すべてのギルドで売り上げが低迷、国から独立している冒険者ギルドと商業ギルド以外のすべてギルドに助成金が出ていたのだよ」


「その通りです。私たち鍛冶ギルドや服飾ギルドも後れを取ったとは言え『コンソールブランド』となった。初歩的とは言え必ずエンチャントが施され、通常の値段とはさほど変わらぬ装備や衣服。これによって彼の国はじわじわと圧迫されていたのです」


「一番致命的だったのは我々馬車ギルドだったようですな。貴族名義で王家が購入して分解し技術を盗もうとしたが、元に戻すことさえ不可能になったと伺っています」


「……とまあ、各ギルドが各ギルドで致命的な打撃を受けていたのさ。もちろん、一番致命的だったのはポーション類だ。それに加えて冒険者どもも偏りを見せた結果、物流にまで影響が出始めた。あげくは賊のはびこっている地域まであると聞く」


「商業ギルドとしては、融通していたので致命的とはならなかったのですが……恨まれましたな。いやはや、きちんと離縁状は送ったというのに」


「あ、あの……ギルドマスターはともかく私まで聞かされてなかった理由って……?」


「うっかり漏らす可能性を減らすためだ」


「それにこう言っちゃ悪いがミライの嬢ちゃんも評議会じゃスヴェインについで若い。経験年数的に次点はミストだが、もう何年も務めているベテランだ。接点は多くてもついうっかり、なんてことはない」


「え、私、そこまで信用されてなかった?」


「嬢ちゃんの信用じゃなく、スヴェインの勘なんだよ、問題は……」


「普段は飄々としていますが、ここぞという場面では鋭く動く。まさに常に機をうかがっているのです」


「そういうことだ。申し訳ないのだが、去年の秋頃より錬金術師ギルド抜きのギルド評議会を深夜に開催することが多かった。許せ、などとは言わぬが陳謝しよう」


「ああ、いや。確かに私が参加していたらうっかり話さなくても気がつかれる可能性はあったかなーと感じるので」


「ではあらためて内乱の話だ。金が無くなったことにより各ギルドから不満が爆発。地方からも王家を見放す動きが出始め、なにを考えたのか国は地方からの税金を一気にあげた」


「金が無くなったことで焦ったんだろうよ? まったくなっさけねえなあ」


「建築ギルドマスター。お金は血のようなもの。無くなると文字通り致命的なのですよ?」


「徴収金を上げたのは地方だけではなく各ギルドに対してもだ。結果としてすべてのギルドが国から離反。地方も結託して王家を滅ぼした」


「ここまではいいか、ミライの嬢ちゃん?」


 一気に各ギルドマスターから説明を受けたミライさんは……軽くパニックを起こしながらも頷きました。


『新生コンソール錬金術師ギルド』サブマスターの名は伊達ではないですね。


「では続きだ。王家を攻め落とした、まではよかった。各地方ほとんどが協力したのだからな」


「問題はそっからなんだよ。今度は王家を決める争いが公爵家や侯爵家の間で広がっちまった。それで、あの国は一気に内乱だ」


「故にコンソールとしてどう動くかを話し合わねばならなかった。そのためにお主たち抜きでまずは方針を決めた。理解してもらえたか」


「蚊帳の外なのは納得できませんが……スヴェイン様を動かしたらいけない理由があるんですよね。その……『りゅうのみかど』とかいう」


「そういうことだ。それでは、竜の帝並びにその妻、シャルロット公太女様、帝の弟子たちにコンソールの決定を伝える」


 僕たちシュミット関係者は大体読めているのですが……ミライさんや弟子たちは緊張していますね。


 無理もない。


 戦争状態なんて経験したことがないのですから。


「コンソールは動かぬ。竜に守られることをよしとはせぬが、竜殿たちが我々に『動くな』と命じられた。我々はその意思を尊重し、武装防衛に努める」

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