333.あまりにも不穏な空気

「ユイ」


「はい」


 あまりにも不穏な呼び出しに対し、呼び出されず『武門』ではない彼女の安全を優先せねばなりません。


 僕は彼女に一本の鍵を放り投げると彼女も危うげなくそれをうけとりました。


「ギルドマスター用のアトリエ、場所はわかりますね」


「もちろんです」


「そこのです。内側からそれで閉めると結界が発動、部屋全体が……最上位竜の攻撃程度ならびくともしなくなります」


「お心遣い感謝いたします」


「もし弟子たちが来たら一緒に閉じこもって待っているように。いいですね?」


「はい」


 これで彼女の安全は大丈夫でしょう。


 次、移動手段の確認。


「移動手段は不問なんですね?」


「はい!」


「アリア、ミライさん。ユニに乗って移動を。マサムネはおって移動させます」


「え、マサムネに乗って移動じゃ……」


「マサムネは飛べません。彼の脚力で屋根伝いに行くのも怖いし、全力で走れば人をはねます。あとから追いかけさせます」


「了解しました!」


「では移動しますよ。あまりにもきな臭すぎる」


「はい」


「はい!」


 ミライさんが気負いすぎてますが……まあ、仕方がないでしょう。


 シュミット関係者が慣れすぎているだけですから。


「あなた、全職員に避難し……」


『その必要はない』


「アーマードタイガー?」


 普段は前庭で寝ているアーマードタイガーがここまで来るなんて。


『緊急事態なのだろう。ならば行け。この場は私が守護する』


「おかしいおかしいと感じていましたが、あなた」


『答え合わせは落ち着いてからだ、さっさと行け』


「ですね。行きます」


 ふたりを連れて、ギルドマスタールームを飛び出し一階へ。


 入り口では、既にウィングとユニが待っていました。


『行くよ、スヴェイン』


『アリア、ミライ。早く乗って』


「ええ、行きましょう」


「うぅ……空を飛ぶのはまだ苦手……」


「つべこべ言わずに早く乗る」


「はい!」


「マサムネ。あなたは」


『人をはねない程度に急いで、だな』


「マサムネが喋った!?」


「必要があれば喋りますよ。では」


 ウィングとユニに分乗した僕らは一路、ギルド評議会会館へ向かいます。


 ただ、その途中で珍しい相手と合流しました。


「お兄様。奇遇ですね」


「シャルも呼び出しですか」


「はい。正式なドレスを着る暇さえない」


「そうですね。発令は」


「『』を」


「特殊災害とは思い切りましたね」


「状況が読めませんもの。当然です」


「あの、特殊災害って……」


「ユイは?」


「ギルドマスター用のアトリエに。いろいろ小細工をしてありますから」


「『』ですものね」


「すみませんね。あまりにもまばゆすぎて、僕とアリアで囲ってしまいました」


「ついでに食べてしまったそうではないですか」


「妻に恥をかかせないためですよ……あの子、リリスから余計な技を学んでましたが」


「でも気持ちよかったでしょう?」


「……ええ、まあ」


「ダメだ。この兄妹。この状況でも軽口を……」


「この状況だからです」


「アリア様?」


 すみませんがミライさんへの説明はアリアにすべてぶん投げましょう。


「大昔のシュミットではは日常でした。そのときに備えて災害命令レベルの設定があります。おふたりが軽口をたたき合っているのも戦場に向かうための合い言葉ですよ」


「……ちなみに特殊災害は?」


「最上位竜レベルと伺いました」


「いやー!」


「うるさいです。第二夫人」


「うう、この状況でも軽口をたたけるなんてやっぱり第一夫人もシュミット……」


「さてギルド評議会会館前ですよ」


「着陸しましょう」


 一気に降下してそれぞれの騎獣から飛び降ります。


 ミライさんがおっかなびっくりなのは今更無視して。


「シャルロット公太女様、スヴェイン様、アリア様、ミライ錬金術師ギルドサブマスター! ……ミライ様の騎獣は?」


「彼が全速力で走ると人をはねるのでおって来ます。入館しても?」


「はい。入館してください!」


 あまりにも引っかかる言葉です。


 聖獣ごととは。


「わかりました。マサムネは?」


「到着し次第、入館していただきます!」


「お願いします。行きましょう」


 状況が読めません。


 カイザーがを動かしたことといい、まったく状況がつかめない。


 評議会会議室前まで到着すると見慣れた影がふたつ。


「先生」


「スヴェイン様、アリア先生」


「あなたたち、なぜここに?」


 ギルド評議会とは無縁のニーベ、エリナ。


 しかもそれぞれルビーとクリスタル、それから……。


「なぜ、エリナの聖獣が、それも?」


「ええと、今日はお屋敷にいたのです」


「そうしたら、冒険者ギルドの職員さんが飛び込んできて至急ローブを着用でギルド評議会館へって」


「そのとき、契約聖獣の中で連れてくるように言われました」


「ニーベちゃんの契約精霊は……」


「かわいらしいのばかりなのでエリナが貸し出したんですね。状況は理解しました。それで、なぜここに?」


「先生方待ちでした」


「おふたりが着いたらと」


 ますます不穏です。


 一体なにが……。


「スヴェイン殿。『カーバンクル』がコウ様のお屋敷にいて助かりました」


「あなたは?」


「冒険者ギルドの事務員です。ティショウ様がギルド評議会に出る直前に『『カーバンクル』を見つけ出してギルド評議会まで連れて来い、大至急だ!』とだけ。仲間は方々に散っています」


「お手数をおかけしました。時間もなさそうなのでこれで」


「はい。よろしくお願いします」


 ティショウさんの指示……更に不穏度が増しましたね。


 も慌ただしいですし、一体なにが……。


「おお、スヴェイン様方。ご到着ですね!」


「はい、入場手続き……」


「シャルロット公太女様! スヴェイン様! アリア様! ミライ錬金術師ギルドサブマスター! 『カーバンクル』! ご入場!」


「手続きすら無視ですか……」


 本来であれば入場前に手続きがあるはずです。


 そして、評議会会場内には錬金術師ギルド以外のすべてのギルドマスター及びサブマスターが勢揃いしていました。


 これは……。


「また、僕をのけ者ですか」


「すまぬ。今回ばかりはスヴェイン殿に動いてもらうわけにはいかなかった」


「本当に済まねえ。大人の、ああいや、お前も成人したから大人か。先達の我が儘だと考えて諦めてくれ」


「左様。……本当にあなたに動かれてはまずかったのですよ、『国崩しの聖獣使い』いえ『』」


「竜の?」


「みかど?」


「弟子たちにすら話してなかったのか?」


「いずれ時が満ちれば、とは。つまり、のっぴきならない事情がおありですね」


「うむ。遂に『国が崩れた』」

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