335.竜の帝
「え、ええと、錬金術師ギルド、いえ、『新生コンソール錬金術師ギルド』サブマスターとしてその提言を支持します。ごめんなさい。何が何だか……」
ミライさんはもう話についていけていませんね。
仕方がないでしょう。
さて、僕からも質問をしましょう。
「ではスヴェインから質問が」
「聞こう」
「なぜ、僕が『竜の帝』だと?」
「うむ、あれはスヴェイン殿が去年の夏の終わり拠点へと帰った数日後だ」
「カイザーが全員の夢枕に立ちやがったんだよ。『我の元に来い。渡すものがある』ってな」
「おかげで夜明け前からギルド評議会でしたよ。それで、全員が同じ夢を見たことを確認。ひっそりとカイザー殿の元へと向かったのです」
「そして、全員が渡されたのがこれだ」
各ギルドマスター、サブマスターが掲げたのは小さななにかの欠片がつけられたアミュレット。
あの欠片は……。
「カイザーの鱗の破片ですか」
「ああ。カイザーいわく『大きく動けばスヴェインに察知される。普通に語りかけるのもまずい。故にそれを通じて話す』とよ」
「全員がパニックでしたよ。エンシェントホーリードラゴンの鱗の欠片。これをどう扱えばよいのかと」
「カイザー殿は『護符にでもしておけ。我が加護がある』とだけ言って眠りにつかれましたがな」
「その後、宝飾ギルドで全員分のアミュレットに加工。各自が持ち歩くこととなりました」
「すると、カイザーから逐次報告が上がって来やがった。どの竜がどれだけの軍隊を蹴散らしたかってな」
「我々も最初は驚いたのですが……次第にそう言うものだ、と受け入れました。エンシェントホーリードラゴン。神話にしか出てこない存在ですからな」
「そして、致命的だったのは春先なんだよ。『お前たちの街を竜の宝に認める。あとはおとなしく守られておけ』ってな」
「慌ててギルド評議会。そして、カイザー殿に事情を説明していただいた。カイザー殿は『この街の高潔さを竜が認めただけ。竜の帝には漏らすな』と」
「そしたら、今度は竜の帝について聞かなくちゃいけねえ。話を詳しく聞けば、スヴェインをメイン、アリアをバックアップにした存在だって言うじゃねえか」
「そして私どもは竜の帝の意味も知りました。これ以上はお弟子様たちに直接ご自身のお言葉で語るべきでは?」
ふう、何もかも知られていましたか。
では仕方がありません。
本当は巣立ちの日まで隠すつもりだったのですが……。
「先生たちがりゅうのみかどさんなんですか?」
「『りゅうのみかど』って一体?」
「お兄様。さすがに私も聞いていません」
「話しませんでしたから。誇ることでもないですし」
一拍間をおいてから、弟子たちに語りかけます。
「ニーベ、エリナ。僕がカイザーの契約主であることはよく知っていますよね」
「はいです」
「よく知っています」
「実はカイザーはある竜の種族数千匹を束ねる竜の帝だったんですよ」
「りゅうのみかど……」
「それって竜の王様ってことですか?」
「わかりやすく言えば。カイザーは別種族の竜の帝から卑怯な手で不意打ちを受け、瀕死の状態になっていました。本来、竜の帝同士の争いに加担するのはあまりにも無粋。それは知っていたのですが『パンツァー』の背から見ていてあまりにも卑怯な手段。僕は竜の帝の争いに割って入り、ほかの竜の帝を撃退。一匹は心臓だけを破壊して素材状態で『ストレージ』に補完してあります」
「……頭がついていけないのです」
「先生がものすごいと言うことだけ」
「僕、そのときにはすでに時空魔法を極めていましたから。そして、命が尽きかけようとしていたカイザーを助けて帰ってきたところ、カイザーから聖獣契約を求められた。ここまでは以前も話しましたよね?」
「はい。死にそうになっていたカイザーさんを助けたって」
「それが竜の帝となにの関係が?」
「あまりにもしつこいため、僕も渋々ですがカイザーを受け入れました。そして、そのとき差し出されたのがこれです」
僕は手のひらの上に真っ白な宝玉、一部が切り取られた宝玉を出現させました。
「これはダミーですが、これは竜の帝の証である竜帝玉。さすがの僕も、ひとりでは受け入れきれなかったため、一部をアリアに引き取ってもらいました。なので、アリアもわずかではありますが竜の帝の権利を得ています
「先生たちがすごいことしかわからないのです……」
「竜の帝になると具体的にどのようになるのでしょう?」
「竜の一種族すべてが眷属として配下になります」
「へ?」
「は?」
「竜は下位竜以下だとあまり知性を持たないため眷属にできません。ですが、僕はカイザーに従っていたすべての竜、その主です」
「ええと、先生って具体的にどのくらいの竜を従えているんです?」
「さあ? 僕も数えるのが馬鹿らしい程度にはいます。上位竜だけでも千は超えているでしょう」
「……先生、スケールがちょっと」
「だからこそ話さなかったし話せなかったのです。ちなみに僕がなんの竜族の帝かわかりますか?」
「はい。ホーリードラゴンなのです……」
「カイザーさん、エンシェントホーリードラゴンだもんね……」
「ちなみに、カイザー以外にもエンシェントホーリードラゴンは五匹います。……さすがに動かせないため、竜の帝としてじっとしているように命じてありますが」
さて、弟子たちが話を受け入れられるまで少し……おや、もう大丈夫そうですか?
「続きを話しても?」
「大丈夫です」
「先生たちのことですので受け入れます」
「……なんだか投げやりになられている気がしますが、まあいいでしょう。僕はそういうわけなので竜を千単位で動かせます。しかも、動くのはホーリードラゴン。ブレスによって焼くことのできる相手を自在に選べる最上位種です」
「そういえば、おとぎ話ではホーリードラゴンって守護者とかいい竜さんです」
「だよね……」
「なのでカイザーは僕をうかつに動かせない。動かしたくはない。グッドリッジを平定したときは『スヴェイン = シュミット』として動きました。ですがこの街で僕はただの『スヴェイン』です。竜の力を借りることに何ら遠慮はない」
「それで、カイザーさんはあんなことを……」
「いろいろ繋がりました……」
「はい。聖獣の主として動いても国は滅びます。竜の帝としても国は滅びます。なので僕を動かしたくはなかったんですよ、すべての竜たちは」
「……私たち、竜の帝の弟子ですか? それとも、スヴェインとアリアの弟子ですか?」
「そこははっきりさせてください」
「もちろん、スヴェインとアリアの弟子です。あなた方に竜の帝の力は渡さない。……竜たちがあなた方に懐いているので、そのうち契約したがるかもしれませんが」
「そのときは覚悟を決めるのです」
「ただし先生たちが仕向けたり、口出ししたり、止めたりはしないでください」
「もちろん。竜の帝の名にかけて」
弟子たちは、本当に急速に成長しています。
やっぱり、僕とアリアの技を想定以上に刻み込まなければなりませんね。
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