336.竜の守る都市

「事情説明は終わったかな?」


 ジェラルドさんから声をかけられてしまいました。


 あちらはあちらでお待たせしていますね。


「ええ。お待たせして申し訳ない」


「いや気にしない。私たちも黙って秘密を知ってしまった負い目がある」


「まあ、そういうこった。問題はこっから先どう動くかなんだよなあ」


 はて、先ほど結論を聞いたような。


「動かない、そう決めたのでは?」


「うむ。だがいつまでも竜殿たちに守られ続けられているわけにもいかぬ」


「コンソールは『交易』都市。物流が途絶えるのは痛い」


「幸い食料なんかの備蓄は数年分あるけどね」


「その通りです。舌が肥えすぎる、と言う問題を除けば聖獣の森や聖獣の泉でも恵みを分けていただけるでしょう」


「それは頭の痛い問題ですね」


 確かに物流が途絶えるのはよろしくない。


 かと言って下手に『コンソールブランド』を流せば、内乱に使われる。


 僕が出せる答えはないですね。


「でだ、のけ者にしておいてここぞって時だけ頼るのは申し訳ないんだが……スヴェイン。お前の力を借りたい」


「構いませんよ。竜の帝ですか? それとも、聖獣の主?」


「聖獣の主の方だ。ビンセントと話をしたい」


「シュベルトマン侯爵ですか。シャル、彼の地にいるはずの指導員は大丈夫なんでしょうね?」


「『武門』はいません。ですが、非常時はすぐに冒険者教官が守る手筈になっています」


「まて、『武門』ってなんだ?」


「申し訳ありません。説明が遅れました。『武門』というのは戦闘職でありながら職人の道を行くもの。いざというときの守りの要です」


「……そのような者たちが」


「コンソールには各ギルドにひとり以上。もう既にを発動いたしました。各ギルドに散っている者たちは、それぞれのギルドで『武門』の名に恥じぬ動きを見せているはずです」


「その、ってのは?」


「最上位竜が攻めてきた場合に対する備えです。シュミットの『武門』はその程度では臆しません」


「……さすがだ」


 各ギルドマスターが安心したような、あるいは呆れたような顔をしています。


 でも、これだけじゃあないんですよ。


「同時に特殊災害命令が出されたことでシュミットからコンソールに紛れ込ませた暗部の者たちも動き始めました。聖獣様の守る街で不埒ものが暴れようとしたところで、聖獣様が滅ぼすでしょうが念のため。人ができることは人がやる。当然です」


「まて、ギルド評議会でも暗部を動かした。かち合うことは?」


「……誠に申し訳ありません。ギルド評議会の暗部についてはすべての方々を調査済みです。かち合う恐れはありません」


「シュミットってのはここでも恐ろしいものだな」


「武門ですから」


「いや、公太女様がコンソールの街を高く評価してくれていると考える。ギルド評議会を代表して感謝する」


「はい。感謝を受け取りました。それで、このあとはどうしますか」


「冒険者ギルド……いや、ティショウ個人としてビンセントと話がしたい。スヴェイン、力を貸してくれ」


「既にギルド評議会会館前にサンダーバードのライウを呼び寄せてあります。剣と盾と足。すべてにお使いください」


「本当に済まん。俺はもう行く」


「どうぞ。ライウには今伝えました」


「じゃあ、後は任せたぜ、爺さんども」


 ティショウさんは駆け足で会場を出て行きました。


 本当に大急ぎでシュベルトマン侯爵と話をするためでしょう。


「任された。ギルド評議会からスヴェイン殿にお願いだ。『カーバンクル』を守ってもらいたい」


「言われずとも。可愛い弟子たちです。少し窮屈な思いをさせますが、我が家にかくまいます」


「先生たちの家にお泊まりです?」


「そこまでしなくとも聖獣たちが……」


「まことに残念ながら聖獣も万能ではありません。聖獣の力を無力化する魔導具も存在するのです」


「そうなんです?」


「はい。すべての種類に効くわけではありません。ですが、一部の種類に効くものは闇で多く出回っています。ウィングも密猟団に襲われていたところを助けた縁で聖獣契約しましたからね」


「知りませんでした……」


「そのうち昔話もしてあげましょう。それで、僕に望むことはこれだけですか?」


「うむ。あとのことは私たち先達でなんとかする。ただ、もしいくつかの席が空席になった場合、手助けをお願いしたい」


「万に一つもあり得ませんよ。皆さんには見えない護衛をつけていますから」


 僕の言葉に評議会の先達たちは完璧な不意打ちをされましたね。


 これ以上の苦労はごめんです。


「頼もしい。では、スヴェイン殿たちに望むことは以上だ」


「わかりました。では、僕から皆さんへの望みを」


「なにかね?」


「この都市の上空に僕の眷属である最上位竜が数十匹、既に集まってしまいました。今は姿を隠していますが彼らが姿を現してもいいように取り計らいを」


「スヴェイン殿の命令かね?」


「いえ、勝手に。カイザーと僕。現帝と前帝の守る宝を守るため、自発的に集まりました。命じて散らすこともできますが?」


「いや、これ以上頼もしいことはない。すぐにギルド評議会からの発令として各地に伝令を飛ばす」


「わかりました。……と言うことらしいですよ、バニージュさん」


 僕がを呼ぶと暗闇からすっと姿を現してくれました。


「なっ!? いつから!?」


「スヴェインたちが来る前、お前たちだけで話し合っているときからずっと話を聞かせてもらっていた。ナギウルヌ様からの命令でな」


「この結果、ナギウルヌさんに伝えていただけますか? あと、スラムの暗部はスラムの守りに徹してください」


「そう言われるだろうと予測もされていた。全員、スラムで守りについている」


「お願いします。僕も万能ではない。攻めは得意ですが、守りはどうにも」


「スラムのことはスラムでする。それがスラムの掟だ」


 それだけ告げるとバニージュさんはまた姿を消しました。


 スラムに戻るのでしょう。


「ではそのように。僕たちはこれで」


「私もシュミット大使館に引き上げます。状況報告を受けねばなりません」


「うむ。この混乱が収まるまで毎日ギルド評議会は開催される。だが、錬金術師ギルドは参加せずともよい。一ギルドが空席であることより、この街から『カーバンクル』が姿を消すことの方が難題だ」


「わかりました。このこと、コウさんたちには?」


「既に了解を得ている。このまま家に連れ帰ってもらって構わない」


「では、ギルド本部の様子を確認し三番目の妻を拾ったあと家に戻ります。なにかありましたらカイザー経由で」


「承知した。……街のための守り、まことに感謝する」


「竜たちが自発的に動き出したことです。それでは」


 今度こそ、弟子や妻たちを連れてギルド評議会会館をあとにします。


 さて、ギルド本部にいる職員や錬金術師たちも避難していてくれるとありがたいのですが。

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