90.ヴィンドの街から出立
「……本当にマジックバッグ百個作ってくるとはねぇ」
冒険者ギルドのポーション作り講習会が終わった翌々日、頼まれていたマジックバッグを納めにマルグリットさんの元を訪れました。
ただし、マルグリットさんは本当に出来るとは思ってなかったみたいで……僕は無理なことをいいませんよ?
「この程度のマジックバッグなら一日で百個なんとかなるもんですよ」
「いや、普通はならないよ」
「そうですか? 私でもある程度は作れますよ?」
「本当に規格外だね、あんたらふたり」
マルグリットさんは疲れたように頭を振り、立ち上がるとマジックバッグをひとつずつ間違いがないか確認し始めます。
納品物に間違いがあってはいけませんからね。
確認は重要です。
百個は大変そうですが……。
途中からサブマスターのネルさんも加わり、一時間ほどですべての確認が終わりました。
「はぁ……本当に全部マジックバッグになっているとはね」
「発注したのはマスターなんでしょう?」
「誰が一日で百個のマジックバッグを作ってくると思う?」
「それは……まあ」
なんだかふたりとも疲れた顔をしています。
僕のせいじゃありませんよ?
「ともかく、マジックバッグ百個確かに受け取った。講習の報酬と一緒に渡すから確認しておくれ」
机の上に乗せられたのは白金貨三枚と金貨三十枚。
白金貨はマジックバッグの報酬でしょうから、金貨三十枚が講習の報酬になりますね。
多すぎませんかね?
「どうしたんだい? 講習の報酬については決めてなかったが、金貨三十枚じゃ足りなかったかい?」
「いえ、こんなにもらってもいいのかと」
「それだけの功績があったってことだよ。実際、昨日から若いのが採取してきた薬草を使って、講習を受けた連中が一般品のポーションを量産しているからね」
「なるほど。ちなみに、この街で一般品のポーションってどれくらいの値段になっていますか?」
「ほかの街より高いのは知っているが、銀貨七枚だね。数が揃ってくれば値段は下がるだろうが……しばらくはこの値段が続くね」
「そうなのです?」
「ああ。一般品のポーションは完成し、ギルドの販売所に出されるとすぐに売れちまうからね。まだまだ需要に供給が追いついていないのさ」
「それは大変ですわね……」
「若いのにも薬草採取のコツを教え込んで採取に出しているが、なかなか薬草の葉が集まらなくてね。今日もポーション作りをやる錬金術師の何人かがパーティを組んで薬草採取に向かってるよ」
「それは深刻ですね。なんとかできるといいのですが……」
薬草栽培の方法を教えればなんとかなります。
ただ、今この場で教えるのは問題でしょう。
アリアからプレッシャーも感じますし。
「薬草の買い取り価格を上げるのはいかがですか?」
「アリアの嬢ちゃん。それも考えたが、それをやっちまうとポーションの値段にも反映することになる。簡単な話じゃないんだよ」
「それに、薬草の生えている量にも限りがあります。取り尽くしてしまえば、しばらくは供給が止まってしまいますよ」
「そこが問題なんだよねぇ。グッドリッジで成功したという薬草栽培、なんとかこっちでもできないものかねぇ?」
うーん、これは僕たちの素性もばれている感じですね。
まあ、すっとぼけますが。
「薬草栽培、簡単にはいかないでしょう。それにグッドリッジはいくつかの国を挟んだ場所です。方法を伝え聞くのも楽じゃないでしょうね」
「そうかい。まあ、期待しちゃいなかったけどね。それで、ふたりはこの先どこに行くんだい?」
「当初の予定通りコンソールの街へ。この街にも長居をしてしまいましたし、弟子たちの様子が気になります」
「この前コンソールに行ったとき、近いうちに訪れますと告げてありますからね。あまりのんびりできませんわ」
「そうか。無理強いしても仕方がないか。気をつけて行くんだよ」
「はい。マルグリットさんたちも無理をしない程度に」
「ああ、今回はありがとうね」
その言葉を最後に僕たちはギルドマスタールームをあとにします。
一階に降りると、以前訪れたときよりも活気づいたギルドの光景が目に入りました。
そこにはいつも通りタイガさんの姿もありますね。
「おう。お前ら、今日この街を立つのか?」
「はい。思いのほか長居しましたし」
「そうか。それにしても、本当に三日で一般品のポーションを作れるように仕込むとはなぁ……」
「一般品質までは難しくないのですよ。職業補正とコツさえつかめば。高品質を目指すとなると、なかなか難しいのですが」
「高品質か。それが簡単に手に入るようになれば、俺たちも楽になるんだがな」
「はは。皆さんに渡してある教本には高品質の作り方まで書いているので、熟練してくればなんとかなるでしょう」
「それなら嬉しいな。錬金術師たちに頑張ってもらうためにも、薬草採取は頑張ってもらいたいものだ」
「あら、タイガさんは採取に行かないんですか?」
「アリアの嬢ちゃんも厳しいな。俺はなにかあったときの待機要員なんだよ。だから、よほどのことがないと、朝から夜までギルドでのんびりしているのが仕事なのさ」
「それはそれで退屈そうです」
「ああ、退屈だ。だから、有望そうな連中を見かけたら稽古をつけてやることもあるんだが……お前らはその必要がないからなぁ」
「はは……その、すみません」
「申し訳ありません」
「気にすんな。今度ヴィンドの街を訪れたときもギルドに顔を出してくれや。また難題があるかも知れないからよ」
「そうさせていただきます。それでは失礼いたします」
「失礼いたしますわ」
さて、本当にのんびりしてしまいました。
途中で野盗やモンスターに襲われては困りますし、ウィングたちで飛んでいくとしましょう。
ただ、日数を多少合わせるために、一度ラベンダーハウスに寄ってからですかね。
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