596.栽培結果の試食

 開拓団を招き入れたあと最初のギルド評議会。


 開拓団の中で〝農業ギルド〟の正式な代表が決まっていないと言うことなので、とりあえずドナルドさんとマクリーンさんに臨席いただきました。


 席次の高さに驚いていましたが。


「ジェラルド殿、ああいや、この場では医療ギルドマスターと呼ぶんだったな。ここが農業ギルドの椅子になるんだろう? ずいぶんと席次が高くないか?」


「そのことか。いまのギルド評議会に置いて席次の高さはあまり意味を持たない。まあ、場所が偉い人間の位置に近いくらいでしかないな。あとは発言順位くらいか」


「そ、そうか。錬金術師ギルドがやけに低いことも気になるが……」


「ああ、それか……」


「僕たちはこれくらいで良いんですよ。重要な舵取りは先達どもに任せます」


「……と言う具合で断られ続けているのだ。コンソールの技術発展に一番寄与しているのは錬金術師ギルドマスターのスヴェイン殿であり、改革の始まりも錬金術師ギルドであったのだが」


「よくわからないが……飲み込もう。そして、農業ギルドだがもう少しだけ待ってくれ。多分、このまま俺とマクリーンがギルドマスターとサブマスターに就任することになるだろう。念のための意思統一中だ」


「急いでもらわなくとも構わない。まずは、ギルド評議会の空気に慣れていってほしいからな。では、ギルド評議会を始める。定例報告からだ。最初に鍛冶ギルド」


「はい。私たちは……」


 定例報告が始まると、場の空気が一気に引き締まりました。


 ドナルドさんもマクリーンさんもその変化に驚いていますね。


「全ギルド、特に問題はなしか。相変わらず錬金術師ギルドの動向が不安だが」


「僕たちとしては何ら問題なしです。ギルド本部も支部も揺らいでません。抜けていっているのは破門を恐れた者たちばかり、その程度の覚悟で居座られても困りますよ」


「そうか。ならば問題ないな。では次、試験耕作地で試した農作法についての説明を錬金術師ギルドマスターより説明を」


「はい。今回の試験栽培ではという試験栽培を行いました。これは古代文明から復元した農作方法の中で一番簡単かつ効率が上がる方法でしたので最初に行った次第です。結果ですが、時空魔法によって三カ月分強制育成しましたが肥料だけでも十分に育成可能、味も従来品より格別においしくなりました」


「錬金術師ギルドマスター。具体的にすべてとは?」


「はい、魔術師ギルドマスター。農耕地、種、肥料すべてです。農耕地にはアリアが耕す際に神聖の精霊で聖属性を付与。種は僕が聖属性を付与。肥料は腐葉土の中に貝殻を細かく砕いたものを混ぜ込み聖属性を与えています」


「貝殻を混ぜ込むだけで聖属性になるのか?」


「なります。種類にもよりますが、貝殻を細かく砕くと微弱な聖属性を帯びます。それを大量に混ぜ込むことで肥料に聖属性を与えました。肥料そのものに聖属性を付与してもいいのですが、肥料に与える聖属性は多すぎてもいけないため今後を見据えた方法で代用しています」


「具体的に何の貝殻を混ぜた?」


「主に真珠貝ですね。ほかにもいろいろと混ぜています。基本的には白色の貝殻が聖属性を帯びる結果を生む貝殻です」


「ふむ……医療ギルドマスターから聖属性魔法を鍛えるように至急の指示が来たのはそのためか」


「種に付与する聖属性はレベル30クラスでなければなりません。また、耕作地に聖属性を付与する場合もレベル28の『セイクリッドクラウド:レインコール』を使い聖水の雨を降らせて畑を耕し、再度聖水の雨を降らせて耕し、という作業を繰り返す必要があります。読み解いた史料ではもっと簡単な方法も記載されていましたが……レベル40程度の上位属性など現実的ではないでしょう?」


「すまぬが難しいな。大至急でレベル30の術者を複数名育て上げる。それまでは錬金術師ギルドマスターが代行してもらいたい」


「了解しました。今回の試験栽培で試した方法は以上になります」


 僕の説明が終わるとギルドマスターたちからは感心のような呆れのような反応が返ってきました。


 ええ、ええ、慣れてますよ、その反応。


「スヴェイン、つってたな? ほかにも種類はあるのか?」


「ありますね。ただ、配合に失敗すると毒になる特殊な肥料を用意しなくてはいけなかったり、魔術師による結界作製と天候管理が絶対必要なものだったりといまのコンソールでは再現不可能なものが多いので試せません」


「だな。そんな物騒な技術はいらん」


「そうしてください。ほかに質問は?」


「真珠貝などの貝殻はどこから仕入れればよろしいのでございましょう?」


「そうですね……一番近いところですとヴィンドです。あそこでは真珠の養殖も盛んですし、真珠貝の貝殻もたくさん出ているでしょう。将来的な需要には足りませんが、ひとまずの仕入れ先にはなるかと」


「将来的には……肥料に聖属性を付与できるようにするしかないですね」


「そうなります。強すぎてもダメ、弱すぎてもダメと言う繊細な付与。将来的にも試験耕作は止められないでしょう」


「種などへの聖属性付与は強すぎても大丈夫なのか?」


「大丈夫みたいです。と言いますかレベル30程度の聖属性魔術師では全力で付与しないと魔力が足りません」


「そっか。魔術師ギルドには本気で急いでもらわなくちゃなんねえな」


「質問は出尽くしたか? それでは今回の試験栽培で収穫できた作物の試食に移ろう」


 医療ギルドマスターの宣言で配られたのは栽培された野菜を塩だけで炒めた野菜炒め。


 あと、麦をひいてパンとクッキーにしたものですね。


「……うめえな」


「味付けは塩のみなのにこれだけのおいしさですか」


「野菜そのものが甘い。コンソールで売られているものとは格別でございます」


「パンとクッキーもです。小麦の違いだけでここまでおいしくなるとは」


「これでも数日経ってるから味は落ちてるんだけどねえ」


「まったくです。マジックバッグは使いましたが、それでも鮮度は幾分か劣る。それなのにこのうまさ。この栽培方法が軌道に乗ればコンソールの食文化は更に発展するでしょう」


「儂と錬金術師ギルドマスターは収穫直後の野菜も試食した。ただかじりついただけなのに本当にみずみずしく甘みにあふれていたぞ」


「そういうことです。次の試験栽培も僕が力を貸しますが、できればその次は僕と魔術師ギルド双方の比較栽培としてください」


「わかりました。次の栽培開始は何カ月後でしょう?」


「三カ月後予定です。魔術師ギルドにはそれまでに聖属性魔術師の育成を」


「三カ月あればなんとか。しかし、本当にうまい野菜だ」


「農業をずっとやってきた俺たちだって驚いたんだ。ほかの連中がもっと驚くのは仕方がないさ」


「確かに。さて、この農法をシュベルトマン侯爵に報告するのはいつにするべきか」


「一年後くらいでいいのでは? 僕が手を貸している段階ではあまり意味を成しません。せめて、魔術師ギルドだけでもある程度形ができるようになってからでないと成果にならないでしょう」


「それもそうだな。方法だけは伝えるが、シュベルトマン侯爵も詳しいレポートが上がるまではお試しにならないだろう」


「試されても困るがな」


「ドナルド殿の言うとおりか」


 シュベルトマン侯爵のところまで僕とアリアがお手伝いに行くわけにもいきませんからね。


 方法は伝えてもいいでしょうが、実際に試すのは待っていただきましょう。

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