454.聖獣鉱脈へ

 聖獣鉱脈を見つけたその日、文字通り飛んで帰ってミライさんにお願いしてもらい緊急のギルド評議会の開催を提案。


 翌日にはギルド評議会も開催され、僕の慌てぶりからただ事ではないと判断した各ギルドは早速聖獣鉱脈の視察をすることになりました。


 移動は歩いていくには時間がかかり、馬車で行くには道が悪すぎるためロック鳥便を使います。


「しかし、錬金術師ギルドマスター。君がそんなに慌てるほどの量があったのかね?」


 問いかけてくるのは鍛冶ギルドマスター。


 彼としても鉄鉱石などの鉱石はあればあるだけほしいのでしょうが……実物を見てどれだけ冷静でいられるか。


「とりあえず、実物をご覧ください、としか。案内してくれた鬼は聖獣鉱脈はと言ってました。更に山が高くなっている恐れがありますが……」


「ギルドマスター。あなたがそういうことを言うときは本当に心臓に悪いことが起きるときなのでやめてください」


「実際、心臓に悪かったですよ、ミライさん。昨日、あなたが一緒に来ていなくてよかったと感じるほどには」


「でも結局、今日知るじゃないですか!」


「覚悟ができているだけマシです。不意打ちでを見せられたら本気で気が遠くなります」


「このギルドマスター、ああ言えばこう言う!」


「そこの夫婦。ケンカは家に帰ってからやってくれ」


「できないんですよ、冒険者ギルドマスター! 最近、家に帰ったら食事時以外は特別な帳簿の付け方とか特殊素材のお勉強とかでスヴェイン様にも会わせてもらえず……」


「お、おう。頑張れ……」


「頑張ります……」


 ミライさん、帰ったらお説教です。


 それはともかくそろそろ……ああ、鬼さんがいました。


 着陸ですね。


『昨日ぶりだな。よく来てくれた、『聖獣郷』の主よ』


「いえ、こちらこそ。お出迎えありがとうございます」


『大したことはない。それで、を引き取ってもらえるのはそちらの人の子らか』


「そうなります。……どれだけ引き取れるか、疑問ですが」


『ふむ。あの山が小さくなってくれればありがたいのだが。ああ、せっかくなので種類別に分けておいた。人の子にはその方がわかりやすかろう?』


「そうですね。僕ならまとめて錬金術で……になりますが、普通は違いますから」


『人里に下りている者たちに学んでおいてよかった。ではこちらだ』


「はい。それでは、皆さん、こちらです。多少とは言え足元が暗いのでお気をつけて」


「うむ」


 さて、聖獣鉱脈内部の方に足を踏み入れていくわけですが……皆さん、周囲を照らしている鉱石が気になっているようですね。


「スヴェイン殿、この光っている鉱石は一体……」


「エレメントクォーツの若い結晶です。大抵はそのまま砕けますが……成長しきった結晶が正式なエレメントクォーツになります」


「エレメントクォーツ……精霊水晶!?」


「はい……ああ、それを持ち帰ろうとしないでくださいね。簡単にもぎ取れますが、もぎ取った瞬間に風化して崩れ落ちますから」


「ああ、いや。そのような真似はいたしませんが……エレメントクォーツとはこうやって採掘? 採取? できるのですか」


「はい。なのでエレメントクォーツには『鉱脈』という概念がありません。ごくまれに人里で発見されるエレメントクォーツは、聖獣鉱脈の名残が奇跡的に残った代物。その周囲をいくら掘り返してもそれ以上のエレメントクォーツは出てきません」


「……この情報だけでも驚きましたぞ」


 とりあえず、周囲を照らしている鉱石を説明し終えたらそのまま奥へ。


 途中途中で聖獣が何かを食べているのが気になる様子なのでそれも解説しますか。


「聖獣たちが食べているのは聖獣鉱脈から採掘された宝石、そのうち聖獣の力がより浸透したものになります」


「聖獣が宝石を食べるのですか!?」


「鉱脈を掘っている聖獣だけですよ。普通の聖獣は見向きもしませんし、普通の宝石にはこの子たちも興味を示しません。あくまで聖獣鉱脈で採掘された中で聖獣の力が浸透した……いわば熟成した宝石のみになります」


「は、はあ」


 宝飾ギルドマスターも大変そうですね。


『宝石を食べる』だなんて聞かされたら慌てもしますか。


 さて、聖獣鉱脈の案内もそろそろ終着点。


 正確には鉱脈はもっと奥まで続いているのですが……までたどり着きます。


『人の子らよ。ここがの保管場所だ』


「……スヴェイン様?」


「錬金術師ギルドマスター?」


「スヴェインよう? 、どうすりゃいいんだ?」


「だから、臨時のギルド評議会なんですよ……」


 目の前にあったのは文字通り山と積まれた鉄鉱石。


 それから多少少なめの銅鉱石にそれより更に少ない銀鉱石。


 あとは……。


「鬼さん、正直に答えてください。この鉱脈、最初はいつから作っていましたか?」


『む? 隠すほどのことでもないが……聖獣の森ができる前には作っていたぞ?』


「でしょうね。なんですか、この魔鉄にミスリル、ガルヴォルンの山。そして、そっちは純度が低いですがオリハルコンじゃないですか……」


「ミスリルにオリハルコン!?」


「スヴェイン殿! 春の話では秋にミスリルだったのでは!?」


「僕は去年の夏か秋くらいに聖獣鉱脈を作り始めたかなと考えていたんです。まさか、聖獣の森より早かっただなんて……」


 どうしましょう、この山。


 あと、そっちの方に置かれているも。


「錬金術師ギルドマスター。あちらにあるのは宝石の原石のようですが……あれもいただいてよろしいのでしょうか?」


『構わぬ。熟成しきれなかった若い実。我々には不要だ』


「ではありがたく。そして、その隣に置いてあるとても神々しい水晶と更にまばゆい水晶はなんでしょう?」


「宝石の山の隣にあるのが完成したエレメントクォーツ。その隣にあるのがマナクリスタルです」


「エレメントクォーツにマナクリスタル? 精霊水晶に魔霊純晶?」


「はい。エレメントクォーツは……さっき説明しましたね。成長しきると光を発しなくなるため不要品になるんです。マナクリスタルはおやつになるんですが……舌が肥えすぎるので、採掘されても欠片ひとつ食べれば満足して放置されます」


 本当に、どうしましょうね、エレメントクォーツとマナクリスタルは。


 これって人里に出していいものなんでしょうか?


 ああ、いや、ミストさんとフラビアさんの杖にはエレメントクォーツを使わせていただきましたが。


『どうだ、人の子らよ。引き取ってはもらえぬか?』


「ああ、いや、その」


「商業ギルドマスター。これ、輸出できませんか?」


「無理を言わないでください! 錬金術師ギルドマスター! どうやってこれを輸出しろと!?」


「鍛冶ギルドマスター。どれくらい鉱石使えます? ちなみに、オリハルコンとか使えますか?」


「無理を言わないでくれ! シュミットの講師は作れるのか!?」


「オリハルコンは純度が低すぎるので無理でしょうね。魔鉄は楽に魔鋼にできるでしょうが、扱えてもガルヴォルンが限界。それだって最初は一日十本インゴットにできるかどうか」


「そんなオリハルコンは無理だ! ほかの鉱石だって限界ってものがある!!」


「ですよね。宝飾ギルドマスター。宝石の原石は持ち帰ればどうとでも使うでしょうが……エレメントクォーツとマナクリスタルって使います?」


「無理です! そんな危険物を渡さないでください!!」


「ギルド評議会議長。どうしましょうね、この山」


「う、うむ。まずはオリハルコンと精霊結晶、魔霊純晶は錬金術師ギルドマスター、ああいやスヴェイン殿に渡そう」


「はい。危険物の処理は得意なので引き受けます」


「残りは……鬼殿だったか? 運び出すにはどうすればよろしい?」


『引き取ってくれるのならば聖獣を出す。我々もこの山を少しでも減らしたい』


「ありがたい。それで、商業ギルドマスター。本当に交易品にはならぬのか?」


「できません。コンソールに鉱脈がないのに鉱石やインゴットを輸出するのはあまりにも不自然です」


「では、鍛冶ギルドに頑張ってもらうしかないのだが……どの程度使う?」


「まずは鉄鉱石を荷馬車ひとつ分だけもらって帰ることは可能でしょうか? それで質を見極めてあらためて数を伝えます」


『そうか。もっと持っていってもらってもいいのだが……残念だ』


「最終手段は錬金術師ギルドマスターか……」


「なんでも僕に……ああ、いえ。大きめのマジックバッグを量産します。それに詰めて保存してください」


「……助かる」


 とりあえず危険物はやはり僕がもらうことに、残りは鍛冶ギルドと宝飾ギルドに。


 鍛冶ギルドで鉄鉱石を試した結果、恐ろしく純度が高いことが判明して更に頭を悩ませる結果となり……。


 ついでにミライさんからは『心臓に悪いものを見せるな、このマセガキ!』と言われる始末。


 なんのためのギルド評議会だったと考えているんですか……。

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