453.聖獣鉱脈探し
ユイとの会話があった翌日、僕とユイ、アリア、それからニーベちゃんにエリナちゃんの五人で聖獣鉱脈探しです。
ただし、普段とは騎獣の配置が違います。
「スヴェイン先生。ウィングじゃなくていいんです?」
「それにアリア先生もマサムネだなんて……ミライさんは?」
「今日、ミライさんにはユニに乗っていってもらいました。聖獣鉱脈探しっていろいろめんどくさいんですよ」
「「「めんどくさい?」」」
僕の発言に探したことのないユイ、ニーベちゃん、エリナちゃんの三人が疑問を投げかけます。
まあ、始める前に説明しましょう。
「聖獣鉱脈とは、聖獣の森や聖獣の泉のように聖獣たちのテリトリーです。そこはなんとなくわかりますよね?」
「うん、なんとなくだけど……」
「ユイ、聖獣農園の話は聞いたことがありますか?」
「ええっと、噂くらいしか。なんでも霊草類や霊樹を育てるのが得意な聖獣様が集まって大規模な農園を作っている場所がある、くらいしか」
「ニーベちゃんとエリナちゃんは以前『聖獣郷』に行ったとき、少しだけ見せましたよね?」
「はい! 薬草がすごくたくさん生えていました!」
「ほかにも見たことのない果実や野菜がたくさんあって……全部鑑定不可能でしたが」
「聖獣農園とは土いじりの好きな聖獣たちが集まって勝手に作りやがる農園です。しっかり大きめの場所を用意して、柵で囲ってやらないと無制限に畑を広げやがります」
「やがるって……スヴェイン?」
「僕も一度やられたんですよ……適切な範囲まで農園を絞り込むのに数カ月かけたんです。このくらい言わせてください」
「うん、わかったよ。スヴェインも苦労したんだね」
ええ、本当に苦労しました。
放置したら、いえ、焼き払おうと地中深く埋めようと翌朝には再生しているのですから。
そして、僕が苦労していると言うことは当然、アリアも苦労しているわけで……。
「ええ、私も苦労しました」
「アリアも?」
「生えているのは霊草や霊樹ばかりです。それを撤去するためにどれだけ魔法を使ったか……」
「うん。危険物だってことはわかった」
「実は聖獣農園ですが、コンソールそばの平原にもあります。カイザーによって厳重に隔離してもらいました。なので、万が一にも漏れ出す心配はありませんが」
「ちなみに……聖獣農園ってどんなものが栽培できるの?」
「植物に関するものならなんでも。それこそ世界樹だって育ちますしアンブロシアだって採取できます。本来なら僕とアリアが可能な範囲の聖獣たちを引き連れて行っても踏み込めない、魔境の深部にあるような霊草や霊樹だって存在しています」
「うわあ……」
「だからこそ人目につけるわけにはいきません。弟子たちに農園を案内したときに少ししか見せなかったのもそのためです。あんな危険な場所、可能な限り入りたくもないし案内したくもない。幸い、栽培した素材やほしい素材は頼めば取ってきてくれますから」
「えっと……ホーリーアラクネシルクも?」
「あれは『聖獣郷』にある聖獣の森に棲んでいるアラクネです。ただ、あれも物作りの聖獣ですからね。危険物をどんどん作製しているのはユイが一番よく知っているでしょう?」
「う、うん。私のマジックバッグ、すごいことになってるから」
ユイのマジックバッグも相当な危険物になっているようですね。
まあ、ホーリーアラクネシルクはユイ以外ほとんどの人が触れば灰になるので大した問題にならないのが幸い……幸い?
ともかく、聖獣農園よりは危険性はないのですから。
「さて、聖獣農園の話はこのくらいにいたしましょう。スヴェイン様、本命の聖獣鉱脈のお話を」
「そうですね。聖獣鉱脈とはその名の通り聖獣たちが作る鉱脈です。それも、自然環境化にできた鉱脈ではなくそんじょそこらの山肌や地中に勝手に作りやがります」
「あ、また言葉が乱れたのです」
「先生、また苦労したんだね」
「酷いときは『聖獣郷』に百本以上の聖獣鉱脈ができていましたからね。話を戻します。聖獣鉱脈を聖獣が作る目的は、聖獣の力が集まってできた宝石をおやつとして食べるためです。鉱脈なのでそれ以外にも普通の金属が大量に産出されますがそれらは聖獣にとってハズレで不要品。オリハルコンですらいらないものです」
「先生がなんのためらいもなくオリハルコンを使う理由がわかったのです」
「相当余っているんだね……」
「総量を知りたいですか? 文字通り山になりますよ?」
「やめておくのです」
「人はやめません」
「賢明な判断です。ともかく、今回の目的はその聖獣鉱脈探し。聖獣鉱脈は地下深くに作っていることもあるので、基本的に地上の聖獣であるスレイプニルの黒曜やブレードリオンのマサムネの方が便利なのです」
「えっと、麟音は?」
「麒麟は麒麟で特殊な感覚を持っています。地表まで出ていない鉱脈を探してくれるでしょう」
「私たちはなにをするのです?」
「話を聞く限りボクたちがついてくる必要はなかったような」
「聖獣鉱脈、地上付近や地下だけじゃなく高いところにも作るんですよ。そう言ったところを目視確認してもらいたいのです」
「わかったのです」
「でも、聖獣鉱脈って本当にあるんですか?」
まあ、そこに疑問符がつくでしょうね。
その答えも持っているんですが。
「確実にあります。最低でも二本は。まだまだ鉄や銀、銅などしか取れていないはずですが、掘っては埋め掘っては埋めを繰り返しているはずです」
「……聖獣さんの考えがわかりません」
「ボクも」
「物作り系の聖獣に関しては考えるだけ思考力と時間の無駄です。ともかく街外れまで移動、そこから探索開始です」
と言うわけで、とりあえず全員で第三街壁を抜け、山肌がある方へ。
一応鉱脈なので、山肌に近い場所にしか作らないはずです。
それ以外の場所に作られていたら探しようがありません。
そこから先はあまりスピードを上げず、聖獣基準でゆっくりと、僕とアリア、ユイは地上から、ニーベちゃんとエリナちゃんは空から鉱脈探しです。
鉱脈探し、一日で当たりを引けるかが怪しいのですが……。
てくてく歩くこと三時間あまり、どうやら麟音が何かを見つけてくれたようです。
『家主殿。この近くで明らかに不自然な力の流れが』
「本当、麟音?」
『ええ。魔力波を当てているので、そのうちあちらから接触してくるでしょう』
「ふむでは待ちましょうか」
『こういった場面では我々は不利だな。地中の振動を捉えるのは得意だが』
「適材適所です。ニーベちゃん、エリナちゃん。いったん下りてきてください」
ニーベちゃんたちも呼び、待つこと十分ほど。
岩肌の中から巨大な鬼が現れました。
『ふむ、麒麟に呼ばれたかと思って出てくれば『聖獣郷』の主だったか』
「お仕事中でしたか?」
『いや、私は休憩中だった。なにをしにこのような場所まで?』
「『聖獣鉱脈』を探しに来ました。あなたが出てきたということは当たりですね」
『うむ。この奥で鉱脈を作っている。そうだ、『聖獣郷』の主ならば余り物を引き取ってはくれぬか?』
「その余り物。コンソールの街で引き取らせていただきたいのですがいかがでしょう?」
『引き取ってもらえるならどこでも一緒だ。必要なら運搬用の聖獣も貸し出す』
「……嫌な予感がしてきました。余り物を確かめさせていただけますか?」
『構わないぞ。こちらだ』
鬼によって山肌の一部が開き、道ができました。
聖獣たちも通れるだけの広い道だったので、遠慮せず全員で入っていきましたが……。
これはまた……。
『これが余り物だ。引き受けてもらえぬか?』
「……スヴェイン様、いかがしましょう?」
「えっと、あれって人前に出していいもの?」
「濃密すぎる魔力を感じるのです……」
「これって相当な危険物じゃ……」
これは……困りました。
「うん。帰って臨時のギルド評議会です。鬼さん、もうしばらくこの余り物、預かっておいてください」
『わかった。鉱脈は五本ある。すべての余り物はここに集めてあるが……構わなかったか?』
「むしろありがたいです。では近日中にまた来ます」
……これ、いつ頃から聖獣鉱脈ができていたんでしょうか?
想定外にも程がありますよ?
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