455.聖獣鉱脈のその後、そして次のステップへ

「定刻となった。ギルド評議会を開催する」


 今日は緊急開催してもらったギルド評議会、その次の定期開催日です。


 頭を抱えているのは鍛冶と宝飾の両ギルドマスターですが……。


「今日の議題は『聖獣鉱脈の状況』だが……その様子だとあまりよい状況ではないな」


「いや、いいにはいいんです。医療ギルドマスター」


 口火を切ったのは鍛冶ギルドマスター。


 ……まあ、頭が痛そうなのは変わらないのですが。


「試しでいただいた鉄鉱石は非常に純度が高く、多少の加工で鋼になります。銀や銅もいただきましたが、同じことです。魔鉄以上になると相応の腕前を要求されましたが……今までに比べれば遙かに楽でした」


「そこまでか?」


「そこまでです。生産性は遙かに向上しますが……新人教育には使えません。むしろ熟練工以外が扱うと腕が錆び付きます」


「やっぱり聖獣って言うのは危険物だな」


「ええ、錬金術師ギルドマスターが臨時のギルド評議会まで開催し、大急ぎで我々をあそこに連れて行ってくれた意味がよくわかりましたよ……」


 あーすみません。


 その話、続きがあるんですよ。


「鍛冶ギルドマスター。少し、よろしいですか?」


「嫌な予感しかしませんが、どうぞ」


「あれらの鉱石類は聖獣たちにとってです。今後も山は高くなる一方ですので……」


「本当に危険物だな、聖獣ってのは」


「物作り系の聖獣に関しては考えるだけ無駄です」


「我々も大急ぎで増産体制を整えますが……を新人工に任せていいのか」


「そこも含めて鍛冶ギルドにお任せします」


「投げやりだな、おい」


「僕だって、あんなに山になっているとは考えもしなかった」


「それで、国外から輸入する鉄や銀、銅などはいかがしますか?」


「そこも悩ましい。急にストップすればなにかあると大声で喧伝するもの。それに、先ほども言ったとおり聖獣鉱脈の鉱石は純度が高すぎるものばかり。どうすればよいか……」


 ふむ、僕は純度など高ければ高いほど楽だったのですが、人を育てるにはそうもいかないようですね。


 爆弾を放り込んだ身ですし、解決案を出しましょう。


「では、僕が鬼を交渉して参ります」


「鬼殿と交渉……ですか?」


「はい。先ほど鍛冶ギルドマスターが述べた通り、聖獣鉱脈から発掘された非金属は非常に純度が高い。それが問題なら聖獣に頼んで純度を下げてもらえばいいのです。どの程度まで純度を下げてもらえるかは聖獣ごとの気まぐれですが」


「錬金術師ギルドマスター、そういう解決案があるのなら早めに……」


「鬼たちに取ってはを減らしたいのですよ。なるべくは作りたくないのが本音でしょう」


「う……」


「と言うわけで、急ごしらえになりますが来週までにマジックバッグを大量に用意してきます。それに少しでも多く詰めて今ある山を減らしてあげてください。交渉はそれからです」


 鍛冶ギルドの問題が一息ついたところで、今度は医療ギルドマスターが僕に問いかけてきました。


「あれだけの産出量、シュミットではそうさばいているのかね? 可能な範囲でいいので教えてもらいたい」


「はい。春頃にシャル……シュミット公国が聖獣鉱脈は三カ所しかありませんでした。ですが、そのあとシャルが大急ぎで国元に戻って確認したところ合計十六本の聖獣鉱脈があったそうです」


「それはそれは……」


「それらの聖獣鉱脈ではの山が多数できていた模様。荷運びは聖獣が引き受けてくれているそうですが、インゴットの生産能力が致命的に足りないとぼやいていました」


「大丈夫なのか、シュミット?」


「頑張ってもらうしか。あちらはこちらよりも鍛冶の技術が上でオリハルコンのインゴットとかも作れますし。ただ、戻ってきたシャルからは涙目で極大魔法数発を浴びせられましたが」


「大丈夫じゃねえな。シュミット」


「まあ、シュミットも同じような問題に直面しているとしか。彼の国でも、見習い用にわざと純度の低い金属を掘り出してもらっているそうですし」


「やはり、そうですか」


「そうなります。商業ギルドマスターもそれにあわせて、不自然じゃない程度に鉱石の輸入量を減らしていってあげてください」


「そうですな。そうしましょう」


 鍛冶ギルドの話題が一段落したところで会場の空気が一度穏やかになります。ですが、爆弾はもうひとつ残っているわけで。


「次、聞くのが恐いが宝飾ギルドマスター、報告を」


「はい。我々のギルドは鍛冶ギルドほどの被害は出ておりません。ただ、あれほど上質な宝石を無料でお譲りいただいた事だけが心苦しく……」


「ああ、それでしたら気にしない方がいいですよ。と言っても、は少なかったでしょう?」


「ええ、それは、まあ」


「そういった宝石は熟しやすく、精霊のおやつに消えやすいんです。下級宝石ほどおやつになりにくい。そういった意味でもあまり気にしない方がよろしいかと」


「錬金術師ギルドマスターがそうおっしゃるのなら」


「ふむ。聖獣鉱脈とは思いのほか爆弾だったな」


「本当に申し訳ない。まさか聖獣の森より先にできていたとは思いもよらず」


「まあ、責めるつもりもない。ほかになにか意見のあるものは?」


 意見、意見……この際だからはっきり言ってしまいましょう。


 幸い、素材は山と手に入りましたし。


「皆さん、そろそろ竜宝国家の彫像とかほしくないですか?」


「スヴェイン、却下だ」


「早いですね、ティショウさん」


「お前のことだ。魔霊純晶を使おうとか言い出すんだろう?」


「……皆さんの手元に飾る分には使おうと考えていましたが」


「却下だ」


「……そうですか」


 残念です、多少でも不良在庫が減ると考えたのに。


「しかし、今になってなぜそのようなことを?」


「あー、今になってではないのですよ。去年の冬ぐらいから念話で何回もカイザーとパンツァーから『我らの彫像を作れ』と……」


「……あいつら、人との生活に馴染みすぎてねえか?」


「僕もそんな気がします」


「だが、竜殿の願いだ無碍にもできまい。錬金術師ギルドマスター、作れるか?」


「ええ。何度かはダメ出しされるでしょうが、一度意匠が固まれば何個でもサイズ違いでも量産できます。内容物は……ミスリル六にオリハルコン四の割合で」


「オリハルコン、混ぜるのですな……」


「風化して錆びたり痛んだりしないためにはその配合比率くらいは必要です。磨かないとさすがに埃などはたまりますが」


「わかった。それで、いつから作り始める?」


「準備ができ次第、ですかね? いい加減催促が……止まりました。自分たちの彫像が作られることを知り満足したのでしょう」


「それで、飾る場所は?」


「申し訳ありませんが、皆さんに任せます。僕は彫像作りが始まるとまたそっちで忙しくなるので。竜の要望って細かいですから」


 ほんっとうに細かいんですよね。


 翼の形どころか鱗の一枚の再現までダメ出ししてくるんですから。


「とりあえず、ここの入り口は必須だろう? ほかには?」


「各街門には設置したいな。あとは……中央公園広場か」


「多ければ多いほど喜びますので設置場所の検討は任せます。あと、必ず一対で飾るように。竜の嫉妬は周辺地域を巻き込みます」


「……本当に災害だな竜って」


 災害なんですよ、竜、それも古代竜エンシェントドラゴンって。


 本当に手に負えない。


「そういえばと言っていましたが……何かほかに準備するものがおありで?」


「服飾ギルドマスター、そろそろ魔法布がほしくありませんか? 下級品であっても練習素材として」


「ええ、まあ。今はシュミットから輸入に頼る高級品。おいそれとは練習に……」


「今度こそ第二街壁と第三街壁の間に農園をいただければマジカルコットンの素材、魔綿花の畑を作れますよ?」

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