456.魔綿花栽培:管理者出迎え編

 魔綿花栽培用と言うことで今度こそ第二街壁と第三街壁の間に農地をもぎ取ってきました。


 しかも、聖獣農園のことを知っているジェラルドさんがいてくれたのでかなり広めです。


「錬金術師ギルドマスター。こんなに広い農地が必要なのですかな?」


「スヴェインで構いませんよ、セシリオさん。今回お願いするのはおとなしいとは言え、物作りの聖獣です。十分な農地を与えておかないと不満が爆発して勝手に農地を広げ始めます」


「それは……困りますな」


「でしょう? そういうわけですので、街道から離れ、人目につきにくいこの場所に広大な農地を分け与えてもらえたんです」


 本当に広大です。


 これだけの広さがあるなら、僕の提案した薬草畑なんてちっぽけなものでしょうに。


「……さて、あまりのんびりもしていられません。まずは範囲を確定します」


 僕はいつかと同じように魔法で作った柵を使い、もらった農地をぐるりと囲いました。


 これだけの広さがあれば、満足して勝手に広げはしないでしょう。


「あとは……これも今から置いておきましょう」


「なんですかな、その大きな木箱は?」


「聖獣樹で作ったマジックボックスです。いわゆる収穫箱ですね」


「……嫌な予感しかしませんね」


「仕方がありません。おとなしいと言っても物作りの聖獣。自分たちの素材が有効活用されていると知れれば、毎日のように喜々として大量の素材を詰めていきます」


「物作りの聖獣様とは……」


「考えるだけ無駄です。ユイ……となぜかアリアたちも持っています。次に行きましょう」


 今日声をかけたのは服飾関係者で魔綿花採集にも関わったことのあるユイ。


 でも、最近ユイばかりに声をかけることに嫉妬してアリアもついてきました。


 そして、アリアに修行をつけてもらえずサンディさんの都合もつかなかった、ニーベちゃんとエリナちゃんも一緒についてくることに。


 あなたたち、僕はお仕事なんですよ?


「スヴェイン殿。向かうのは聖獣の森ですかな」


「はい。そこにならもう棲み着いているはず、なんですよ」


「はず、ですか」


「はず、ですね。僕も裁縫は簡単なことしかできないため、それ系の聖獣たちとは……あまり縁遠くないのですが、これだけの規模の聖獣の森です。もうある程度の数は棲み着いているでしょうし、栽培の許可が出たと知れればわんさか集まるでしょう」


「……せめて我がギルドで収まる数にしていただきたい」


「ギルドの支部なりを作って見習いを鍛えてください。マジカルコットンと言っても糸紡ぎをする段階では普通のコットンです。魔法布として扱わなくてはいけないのは機織りから。そこを間違えなければ練習素材にはもってこいですよ」


「うう、確かに見習い……お針子希望者は殺到しているのですが頭が痛い」


「指導者がいるだけマシです。僕らは箱を作ってもこれ以上指導者がいないので人を集めようがないのですから」


「人手不足か、指導者不足か、箱不足か。コンソールもいい加減、本当の意味で生まれ変わるときですな」


「はい。そろそろつきますね。いつものドライアドさんがいてくれると話が早いのですが」


 聖獣の森、冒険者が挑む『試練の道』から離れた一角。


 そこに乗り付けた僕たちは森に向かって呼びかけてみます。


「ドライアドさん。今日はいらっしゃいますか?」


『ええ。いるわ』


 いつも通り、地面の中から姿を見せてくれるドライアドさん。


 ただ、その目は僕の弟子たちの方を見つめていますね。


『あなたたち、私のあげたお花、大切にしてくれているようね?』


「もちろんです!」


「大切に飾らせていただいています」


『そう。もう一輪持っていかない? 今度は花瓶に生けるサイズのお花よ?』


「いいんですか?」


「もらいすぎのような……」


『精霊の気まぐれとでも考えて。私としても、あなた方みたいに大切にお花を扱ってくれる人は好きよ』


「ではいただくのです」


「ありがたく頂戴いたします」


『ええ……はい。これね。あとそっちの女の子も花瓶をもらっていたわね? 同じ花をあげるから大切に飾ってね?』


「ありがとうございます。ドライアド様」


『いいえ。お花や樹木を大切に扱ってくれる人は好きよ。それで、今日のご用件はなあに? 森の恵みがほしいの?』


「いえ、それはまた後日。魔綿花の種が……と言うか、魔綿花栽培に必要な聖獣たちが棲み着いていないか聞きに来たのですが」


『その言葉だけで十分みたいよ? もう今か今かと出番を待っているわ』


「……そんなに棲み着いていましたか」


『農園に自分たちの居場所をほとんどもらえなかったことが不満だったみたいよ? 魔綿花は人前に出してもさほど問題ないからって』


「……農園は人目につくとまずいもの優先でしたからね」


『そういうわけだから早く呼んであげて? 呼ばないと自分たちから突撃してくるわよ?』


「突撃? スヴェイン殿、一体なにが?」


「あー、そんなにフラストレーションがたまってたんだ……」


「ユイ師匠?」


「うん、ごめんなさい。人の街がすぐそばにあって、聖獣たちがあんなに棲んでいるのに自分たちの栽培場所がないってかなりストレスだったようです」


『手土産もたくさん用意しているわよ。早く呼んであげて』


「わかりました。コットン・ラビットさん。出番ですよ」


「コットン・ラビット?」


「セシリオさん。これから魔綿花畑の管理者になる子たちだから覚えてあげてください。個体差はわかりませんが……」


「はあ……」


 僕の呼びかけに応じて出てきたのは……百以上のウサギの群れ。


 すべてが耳をピンと立て、茶色い斑点がついている以外……見分けがつきませんね、僕でも。


「この子たちが、コットン・ラビットですか?」


「はい。この子たちがコットン・ラビットです。……それにしてもずいぶんといるわね。シュミットでも四十くらいしかいないのに」


「……あなた方、きちんと僕が定めた範囲内だけで魔綿花栽培を行うのですよ? 範囲を超えたら聖なる炎で焼き尽くしますからね?」


「ピープー」


『わかったって』


「……本当ですか? あと、先頭の子たちが頭に乗せている木箱は?」


『今まで作ったマジカルコットンの一部よ。この子たちじゃ収穫まではできてもそれ以降ができないから、それ以外の工程はほかの聖獣にお願いしたんだけど』


「危険物ですね。セシリオさん、預かります?」


「……スヴェイン殿がひとまず預かってください」


「でしょうね。人間がすっぽり入るサイズのマジカルコットンなんて危険物以外の何ものでもありません」


『ちなみに、それは一部だからまだまだたくさんその子たちの取り分は森の奥に残っているわ』


「……危険物を増やさないでください」


「……プー」


『残念だって』


「まあ、軌道に乗ることができればそれらも使うかも知れません。大切に保管しておいてください」


「プー!」


『大切に保管するそうよ』


「よろしくお願いします。ではセシリオさん。畑の予定地まで戻りましょう」


「あ、ああ。もう今日はこれだけでも疲れた……」


 セシリオさんは午後からの合流でよかったでしょうか?


 でも、いきなりウサギの群れが種植えをしている作業を見せるのもなんですし……。


 なにが正解だったんでしょうね?

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