457.魔綿花栽培:魔綿花栽培編

 さて、管理者……というか管理ウサギも集まったので畑に戻ります。


 第三街門では大量のウサギを引き連れてきたことに驚かれましたが……僕の顔を見るなり納得されたのはなぜでしょう。


 腑に落ちません。


 とりあえずウサギ……コットン・ラビットたちを農地まで連れて行くと、予想以上に広かったのか土の上を跳ね回ったり転がり回ったりの大騒ぎです。


 聖獣なので土まみれになってもすぐに落ちますが、あまりやってほしくはないですね。


「スヴェイン殿、私はこれから打ち合わせ通りに?」


「お手数ですが、服飾ギルドの見習いから熟練工まですべての職人を連れてきていただけますか? すべての工程を見せて……あと魔綿花採集の体験もさせたいと考えていますので」


「わかりました。それで、その……」


「コットン・ラビットです。セシリオ様」


「そうでした、ユイ師匠。コットン・ラビット様たちはおとなしくしていてくださいますかな?」


「言い聞かせれば、は種植えだけでも満足するでしょう。明日以降は……保証しかねます」


「わかりました。速やかにすべての工房員を集めて参ります」


「お願いします。皆は今のうちに携帯食料で昼食を済ませますよ」


 セシリオさんが服飾ギルドへ工房員を呼びにいっている間に僕たちは携帯食料で食事を済ませてしまいます。


 その間もコットン・ラビットたちは畑の上ではしゃぎまわり……途中、ユイの号令で集まり数を数えられたあと、またまたはしゃぎ出しました。


 そんなに広い農地が嬉しいのですね。


「戻りましたぞ、スヴェイン殿」


「お帰りなさい、セシリオさん」


「……ユイ。畑の上ではしゃぎ回っているのってコットン・ラビット?」


「そうよ。目を疑いたくなるだろうけど」


「……全部で何羽いるの?」


「さっき数えた。百二十二」


「シュミットの三倍近いんだけど?」


「そうね」


「これ、フル稼働したらシュミットにマジカルコットンの糸だけでも輸出できるんだけど?」


「そうね」


「ユイ、投げやりになっていない?」


「投げやりにだってなるわよ! なんなの、この量!?」


 あー、多いなとは感じていましたがそこまででしたか。


 これ、不要品はシャルに買い取ってもらいますか。


 お金をコンソールに還元できないって嘆いてましたし。


「それで、スヴェイン殿。我々はこのあとどうすれば?」


「ああ、すみません。黄昏れてしまい。コットン・ラビットさん。ですよ?」


 


 その言葉を聞いたコットン・ラビットたちははしゃぐのをやめて、一列に並びました。


 そして一気に土魔法を発動、畑を耕し、石ころなどを吐き出していきます。


「これって、私たちも使ってる『クリエイトアース』です」


「数は多いけどボクたちよりも遙かに上手だよ」


「聖獣、それも物作り系の聖獣ですから。この手の作業なんてお手の物です」


 そんなことを話している間にも畑作り作業の第一段階は終了、吐き出された石を畑の外へと蹴り出していきました。


 コットン・ラビットって見た目によらずキック力があるんですよね……。


 石ころがなくなったら畑作業を再開、今度は畝を作り始めます。


 ここまでは薬草栽培とまったく一緒ですね。


「なんだか薬草栽培と似ているのです」


「土魔法で魔力溜まりを作って、畝を作るところまでは一緒だね」


「ここから先が変わります。あなた方も見ておくとなにかの役に立つかも知れません」


 畝が完成し終わったら今度は手分けして種を撒いていきます。


 間隔は……かなり狭いですよ?


 広い畑なのに、種の幅が狭いということは相当フラストレーションが貯まっていましたね。


「畝を作ってから種まきですか」


「ええ。ここからが、綿の本領発揮です」


「本領発揮?」


「プー!」


「クー!」


「ブー!」


 コットン・ラビットが思い思いになくとその体から魔力がほとばしり、それが雲になり始めます。


 やがて雲からは雨が、虹色に輝く雨水が振り始め……一気に綿花が育ち、実が割れて綿が姿を現しました。


 これこそがコットン・ラビットの特技であり魔綿花畑の管理者である所以です。


「……今の現象は?」


「私がお答えします。あの虹色の雨水は聖属性と光属性、闇属性、回復属性、時空属性の合わさった雨水です。それがないと魔綿花は育ちません。なので魔綿花栽培にはコットン・ラビットが必要不可欠。だからこその綿です」


「な、なるほど。シュミットでは?」


「コットン・ラビットなしでは再現不能です。そのコットン・ラビットもシュミットでは四十あまりしかいません。これだけの大規模栽培はできていないのです」


「それほどまでですか」


「はい。私もこの子たちの数を見た時に気圧されましたから」


「ユイ師匠でさえも……スヴェイン殿、このあとは?」


「せっかくです。魔綿花採集を皆さんに体験してもらいましょう。ただし、不手際があまりにも多ければコットン・ラビットからが入ります。気をつけて採集してください」


「うう、この数の魔綿花。日暮れまでに採取できるのかなあ」


「それ以上に私たちシュミット組だって魔綿花採集なんて実地訓練依頼だよ? また指導を受けると思うと……」


「ほら! さっさと始める!」


「ユイがいつの間にか職人モードになってるし……」


「仕方がない。皆、始めるよ!」


 魔綿花採集はユイが指導担当となり、おっかなびっくり始まりました。


 ただ、は入ったみたいです。


「きゃう!?」


「ひゃん!?」


「そこ! 綿花の取り方が甘い! 最初は見逃してくれているけど、何回も失敗していたらコットン・ラビットからが入りますよ!」


「指導って……お尻にキック?」


「それもすごく痛い……」


「ボサボサしているとまた蹴られますよ?」


「「はい!」」


「……ユイ師匠のはこれが原型ですか」


「そのようですね」


「子供たちが見ていなくてよかったですよ」


 子供たち?


 そういえばニーベちゃんとエリナちゃんは?


「スヴェイン様。あのふたりなら、あちらの隅で魔綿花採集をしています」


「ふむふむ。魔綿花はこうやって採集するのですね」


「ピー」


「なるほど。注意する点も薬草とは少し違うけれど、種を落としたり、茎を傷つけないのは一緒だね」


「プー!」


「コットン・ラビット様もあのふたりの元に集まっていますな」


「おそらく、物覚えのいいふたりが気に入ったのでしょう」


「あの子たち、どこを目指しているのでしょうね?」


 ともかく、この日は夕暮れ時まで魔綿花の採集作業は続けられ、シュミット講師も含め全員幾度となくお尻を蹴り上げられることに。


 お尻を一度も蹴られていないのは、端のほうで魔綿花採集をやっていたニーベちゃんとエリナちゃんのみでした。


 服飾工房の皆さん、明日……いえ、今日はしっかり眠れるでしょうか?

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