912. 状況説明

 北と東の制圧は完了しました。

 そうなると、余計な暴発を防ぐために西のボスには連絡を入れておかなければいけません。

 彼女の居場所ってなぜか隠密系の聖獣ですら探りきれないので大変なんですよね。

 今度、そのあたりについても伺ってみましょうか?


「なるほど。北と東は静かになったんだね」


「はい。作戦時にいた構成員は取りこぼしなく捕まえました。違法な薬物や密造酒、違法奴隷なども見つけてあります」


「まったく、コンソールの怪童に目を付けられたら私らも終わりだね」


 西のボスはふざけたように手を広げますが、眼光の鋭さは消えていません。

 なにかあれば食らいつく、そういった意思がありありとしています。

 裏社会のボスはこうでなくては。


「それで、私らにも軍門に降れと?」


「そんなことは言いませんよ。密造酒の販売をやめてもらえるなら、これまで通り娼館運営や用心棒を続けていただいて構いません。コンソールの衛兵も一気に新市街を管理下に収められるほど人数がいないもので」


 これは僕の本心です。

 いくら治めるチャンスがあろうとも人数がいないのではどうにもなりません。

 ここは実績もある方に治めてもらう方がいいでしょう。


「わかった。だが、話はそれだけじゃないんだろう?」


「はい。表の話になりますが、ギルドの支部を作らせてください。どの支部がどの地域に、というのはまだ決まっていないのですが、3つくらいの支部が立つかと」


 ギルドの支部が立つ、さすがにこの話には西のボスも食らいついてきました。

 そうですよね、いままではあまりにも狭き門で入れなかったギルドに新しい受け皿が、それも新市街の中にできるんですから。


「それは本当かい、コンソールの怪童」


「ギルド評議会での議決ももらっています。建て終わるには時間がかかりますが、それでも急ぎ仕事として北、東、西にギルドの支部を設置し、新たな門下生を募ります。立地条件的に新市街の人間が有利でしょうね」


「表の連中にまっとうな稼ぎ口ができるんなら願ってもないね! ああ、ただ、もうひとつ注文を付けてもいいかい?」


「なんでしょう? 注文とやらの内容にもよりますが」


「コンソール旧市街だけで行われてる子供向け講習会を新市街でもできないものかね?」


 子供向け講習会ですか……ちょっと困りましたね。


「子供受け講習会はギルドにもよりますが、順番待ちでパンク寸前のところもあるんですよ。教育する側の人数も足りていないので、この場で判断することはできませんね」


「そうか……いや、気にしないでおくれ」


「代わりにと言ってはなんですが、読み書きや計算を教える程度の講習を開くならできそうです。こっちもギルド評議会に通さなければいけませんが、子供向け講習会を通そうとするよりはるかに確率が高いでしょう」


「それじゃ、そっちを頼もうかな。私は混乱に陥っているだろう北と東の建前上の顔役を説得することだね。コンソールの恐ろしさは十分理解しただろうし、うまくいくさ」


 ああ、そういえば表向きの顔役も別にいるんでしたか。

 どうにも裏社会ばかり相手にしていてこう感覚が抜け落ちていました。


「ところで、南はどうするんだい? 話に出てこなかったが」


「南は裏社会のボスが折れるまで放置です。短気を起こして攻め込んでくれれば、それを理由に押し返せますし、なにもしなければ住民の不満がそちらに向くよう仕向けます。裏社会を浄化しない限り、南の支援は難しいですね」


「なるほど。あんたの提案に乗っていた私は勝ち組だったわけだ」


「そうなります。密造酒の販売以外は潔白でしたからね」


 さて、本当に南のボスがどう動くか、これから先はそこを注視しなければなりません。

 どう転ぶかわからない以上、気は抜けませんね。

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