223.『カーバンクル』の初出勤
翌朝、僕は朝から錬金術師ギルドへと出勤していました。
始業時間よりもかなり早くより。
「ギルドマスターおはようござ!?」
僕の部屋が解錠されているのを見たミライさんが声をかけてきましたが、部屋の光景を見て驚いています。
当然でしょう。
そこには『カーバンクル』がいるのですから。
「おはようございます。ミライさん」
「おはようです!」
「おはようございます」
「あの、ギルドマスター。なぜ『カーバンクル』様方がここに?」
「それを含め始業後、事務職員を含めた全ギルド員たちに説明いたします。講堂に集まるよう指示をお願いします」
「は、はい」
さて、ギルド員たちはどんな顔をするでしょうかね?
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「……というわけでして、僕の時間を作ることは難しいです。なので、弟子ふたりを錬金術師ギルドに入門させることにしました」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いいたします」
僕が滅多なことでは行わない講堂の利用。
そこで発表されたのは弟子を錬金術師ギルドへ入門させ『た』という一方的な決定。
さすがに混乱が……混乱が?
「なんでしょう、皆さん。やけに静かですね?」
「ああ、いえ。『カーバンクル』様たちが増えるだけですよね?」
「はい。基本的には僕がいるタイミングだけ。彼女たちには別の指導もあるので、毎回とは限りませんが」
「いや、それくらいだったら誰も気にしませんよ?」
「むしろ、ギルドマスターがいてくれる機会が増えるのなら嬉しいですし」
えぇ……。
「いいんですか、ミライさん?」
「私は大賛成です。これでギルドマスターが来てくれる機会が増えます。それにお弟子さんたちがギルド員の皆さんに指導する機会も与えてくれるんですよね?」
「まあ、それを望むのでしたら」
この発言に今度こそ起こった大混乱。
そこまでですか?
「あの、ギルドマスター。本当によろしいので?」
「彼女たちが拒否しなければ構いません。ただ、ニーベは感覚派、エリナは理論派です。僕よりも難解な教え方ですよ」
「いえ、その程度でしたらまったく構わないのですが……」
「そうですか。では、ふたりに教えを請うことも許可いたします。ふたりも復習になっていい機会でしょう。少し……いえ二年ほど予定より早く指導が進んでしまったので、彼女たちが他人に教えることができるかは不安なのですが」
「そんな!? 『カーバンクル』様たちに教えていただけるだけで十分です!」
「それでしたら、いいでしょう。ニーベとエリナには僕がほとんど使えていない三階のギルドマスター用アトリエを使わせます。普段はそこかギルドマスタールームにいるはずです。用があったら声をかけてあげてください」
「「「はい!!」」」
なんでしょう、腑に落ちないモヤモヤ感は。
ふたりが受け入れられたのは嬉しいですが……。
********************
「ここはですね、もっと魔力をドーンと込めるのです!」
「ああ、それじゃあ魔力が多すぎます。もっと繊細に絞りながら大目に」
「はい!」
「わかりました!」
ちょっと様子が気になったので第二位錬金術師の様子を見に来たのですが、早速ふたりからミドルポーション……の元となる霊力水を学び始めていました。
でも、あの子たちの指導で大丈夫でしょうか?
見ているとハラハラします。
「ギルドマスター? なにを?」
「ああ、ミライさん。弟子たちの指導方法が気になりまして」
「初日からそれでは気が休まりませんよ?」
「いや、そうかも知れませんが……」
「そんな事よりギルドマスターのお仕事です。ギルドマスタールームに戻ってください」
「……わかりました」
********************
「うーん、魔力水は完璧なのですが……」
「霊力水にするにはなにが足りないのかな?」
私たちが教える立場になるのは初めてなのです。
おかげでいろいろと難問が立ちはだかっているのですよ。
「もう一度、最高品質のマジックポーションを作ってもらうのです」
「そうだね。そうすればなにかわかるかも」
「はい!」
第二位錬金術師だというお兄さんに最高品質マジックポーションを作ってもらいました。
でも、私たちのマジックポーションより色が薄い以外特に変わりは……ん?
「エリナちゃん。お兄さんのマジックポーション、色が薄いです」
「ああ、本当だ。お兄さん、失礼ですが錬金術スキルのレベルはいくつですか?」
「はい。19です」
「ああ」
「なるほど」
「え、なにかまずいことでも?」
「霊力水が作れるようになるのは錬金術スキルがレベル22になってからだと習いました」
「はい。それも安定させたいならレベル25まで上げるようにと」
「そんな……いままでの苦労は一体」
「それに、そのレベルじゃと」
「ストップ、ニーベちゃん」
「エリナちゃん?」
「特級品ポーションと特級品マジックポーションの作り方は一切ヒントなしだよ。先生だってぎりぎりまでヒントをくれなかったでしょう?」
「……そうでした。ごめんなさい。エリナちゃん」
「わかってくれればいいよ。ところで、この中に特級品を作れる方は?」
エリナちゃんの質問に対して第二位錬金術師の方々は重苦しい表情をしていました。
ああ、まだまだなのですね。
「うん、大体の実力は把握したのです!」
「皆さん、これからも最高品質マジックポーションを無理のない範囲で作り続けてください。スキルレベルが上がったら、また教えに来ますね」
「がんばってなのです!」
「それでは、失礼いたします」
第二位錬金術師の皆さんがいたアトリエをあとにしました。
階段を上りながらエリナちゃんとちょっとお話です。
「人に教えるのって意外と難しいのです」
「そうだね。先生はやっぱりすごいや」
「ですです。負けないようにしないといけません!」
「そうだね」
「おお、ニーベ様、エリナ様。いいところに!」
二階に上がってきたところでアトモさんから呼び止められたのです。
「アトモ様。様付けはいらないのです」
「アトモ様から様付けはちょっと……」
「なんの、いまでは錬金術師として完全に腕前を逆転された身。様付けせねばなりません。それに私の方こそ様付けは結構、アトモと呼び捨てに」
「……仕方がないのです。アトモさんと呼びます」
「そうさせていただきます。ボクたちに聞きたいことがありますか?」
「ミドルマジックポーションの作製について少々お話が」
「わかったのです」
「お話をお伺いいたします」
アトモさんはどんなご用件でしょうか?
私に教えられることだといいのですが。
********************
「……さすがは、『カーバンクル』様たちだったな」
「まさかマジックポーションの『色』で見分けられるとは」
「しかもニーベ様は止められていたけど、あの様子だと俺たち特級品を作るのにも錬金術レベルが足りてないぜ?」
「特級品ポーション、あとは方法だけだと思い込んでた……」
「だけど、やる気は出てきたよな!」
「ああ、まだまだ俺たちも甘かったって事だ!」
「よっしゃ! 急いで薬草使用の申請書作りだ!」
********************
「ミライさん。ここ数日、また錬金術師ギルドの熱気が上がってませんか?」
「『カーバンクル』様方が皆さんに熱意を与えて回っているようですよ」
「あのふたりが。お邪魔をしてなければいいのですが」
「少なくとも弟子の様子をハラハラして見守る誰かさんよりは邪魔してません」
本当にミライさん、たくましい……。
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