545.街を奪う者 コンソール
聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をし行います!
これは一話目です。
二話目は夜19時ごろ公開予定。
お楽しみに!
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「ふむ。勝手に新しいギルドを作るですか」
「いかがでございましょう? 公太女様」
「お兄様も一緒ということは賛成なのですね?」
「はい。各街の屋台骨は既に腐り落ちています。大嵐の前のコンソールみたいに屋台骨が倒れるかどうかの瀬戸際なんて状況じゃありません」
「その上で各街の下位職たちを大量雇用してのいわばギルド革命。……これならば文化侵略にならないと言う名分も立ちますかね」
「それではご一考願えますかな?」
「念のため本国にいるお父様と相談です。ですが、断られないでしょう。それにしても街を奪うとは大胆な策に出ましたね?」
「それだけのっぴきならない状況なのですよ、シャル」
「我が国でも調べてはあります。まったく、この国の貴族は本当に情けない」
「同感です」
さて、これでシュミット公国の協力は大丈夫でしょう。
次、シュベルトマン侯爵の協力です。
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「なるほど、勝手に新しいギルドを作り、そこを下位職たちの受け皿にしてしまうか」
「はい。そうすることで各街の持っている文化継承や腐った上位職の排除を行います」
「ふむ。文化継承はうまくいくのか?」
「最悪、現体制下にあるギルド資料から紐解くしかないでしょうね。少なくとも食文化に関しては問題ないでしょうが」
「だが悪い案ではない。講師の都合はつくのか?」
「そちらもシャルと協議して本国にいるお父様と連絡を取ってもらっています。お父様の最終判断待ちと言うことは、ほぼ問題ないでしょう」
「なるほど。では、私も備えをしておこう。私に望むことはなんだね?」
「シュベルトマン侯爵に望むことは……」
シュベルトマン侯爵の協力も取り付けました。
商業ギルドの方でも急ピッチでヴィンドにある大規模な空き家を買い取り、新規ギルドに仕立て上げてくれているそうです。
決行はすぐそこですね。
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「さて、今日が決行日だ。各自、抜かりはないな?」
「鍛冶ギルド、問題ありません」
「服飾もです」
「宝飾も問題ございません」
「建築もだ。まあ、建築は後回しになっちまうがな」
「馬車も建築と同様、即効性に欠けるでしょうね」
「調理はすぐに結果を出すさ」
「製菓もですよ」
「錬金術は元より新規ギルドが立ち上がっているので今回は手出しなしですね」
「冒険者も問題ないが……ギルドマスターとの折衝と講師の送り込みだけで十分なのか?」
「ヴィンドの冒険者ギルドマスターとは顔なじみですから。それに、あそこには切り札もいらっしゃるそうで」
「そうか。じゃあ、冒険者も問題ない」
「では、第一段階として攻め落とす九ギルド、すべて動けるな。今回の作戦、竜殿たちもえらく乗り気だが……」
「コンソールのように覚醒する街が少しでも増えてくれれば嬉しいそうですよ」
「なるほど。我々は侵略に行くのではないからな。あくまでも街を立て直すだけだ」
「ものはいいようだねえ。爺さん」
「なんとでもいえ。さあ、行くぞ!」
僕たちは数々の物資や人員を竜に乗せ、コンソールからヴィンドの街を目指します。
さあさあ、今日からは眠らせるわけに行きませんよ?
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「……なんだい、ありゃ? コンソールのところの聖竜が九匹。なんでヴィンドにやってきてるんだい?」
「さあな、マルグリッドさん。相手は聖竜、下手にちょっかいを出したら街が一瞬で消されちまう」
「そんなことは……って、一匹近づいてくる!」
「なんだってんだ!?」
「よっと」
「あ?」
「お前……スヴェイン……か?」
「はい、スヴェインです。三年ぶりくらいでしょうか、おふたりとも」
ヴィンドの街を訪れるのも三年ぶりくらいですね。
まさかこんな形でとは思いもよりませんでしたが。
「アンタ、一体?」
「それについてはこれを。コンソールギルド評議会とシュベルトマン侯爵の書状です」
「ギルド評議会と侯爵様からの書状?」
「そいつをなんで俺たちに?」
「うーん、僕の知り合いだからでしょうか?」
「……ここに書いてあることは本気かい?」
「ええ、本気です。この街でコンソール商業ギルドが大きな建物をいくつも買っていたのはご存じだったでしょう?」
「……こんなことをすれば街が吹き飛んじまうんじゃないか?」
「吹き飛ぶのは腑抜けと根性なしだけですよ。僕が大嵐を起こすより遙かにマシだ」
「いや、だが、各ギルドで使う機材は……」
「既に商業ギルドが偽装して搬入済みです。あとは空の上で待機している人員が下りてくれば新しいギルドができます」
「はっ! コンソールも侵略的になったもんだね!」
「シュベルトマン侯爵の書状にもあったとおりですよ。『あまりにも我が領地が不甲斐ないため、竜宝国家コンソールの力を拝借する事となった』と」
「あくまで侵略ではないと」
「ええ、各ギルドに派遣されてくる指導員の任期は三年。それまでに新しい屋台骨を作っていただきます」
「そいつは手厳しい。ああ、竜が下りてき始めたよ」
「では作戦開始時間なんですね。申し訳ありませんがここにも指導が入ります。冒険者担当の一般技能講師ひとりですが……まあ、一年は全員転がされ続けるだけでしょう」
「そいつはうかうかしちゃいられないね!」
「ええ。これからは街を眠らせません。御覚悟を」
「スヴェインの覚悟しろは本気で怖いからね! ああ、あいつは……コンソールの冒険者ギルドマスター。その横にいるのが」
「今回呼んだ一般技能講師です。まあ、頑張って」
「ああ、頑張らせてもらうよ!」
「あいつ、やっぱり俺より強いか?」
「タイガさんでもしばらくは転がされるでしょうね」
「そいつは燃えてきた! 根性なしは知らんがやる気がある連中は火が付いていくぜ!」
「それでは、ほかのギルドの様子も見てきますので、失礼」
さて、ほかのギルドはうまくいってますかね?
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*鍛冶ギルド
「うん? なんだお前たちは!?」
「俺たちはコンソールから派遣されてきた鍛冶師だ。この街に『新規鍛冶ギルド』を作るためにな」
「なんだと!?」
「そのための許可はシュベルトマン侯爵から既にいただいている。それで、下位職諸君、俺たちの元で仕事をするつもりはないか?」
「え?」
「でも、俺たちはただの下位職で……」
「やる気と覚悟があるなら我々は大歓迎だ。指導も厳しい。だが結果は必ず出す。コンソール流の指導だからな」
「コンソール流の指導……それって『コンソールブランド』も!?」
「そこまでたどり着けるかは保証しない。だが、鋼なんてつまらない武器だけではなく、魔鋼やミスリル合金は確実に使えるようにしてやる」
「それで、給金は!?」
「そうだな……俺たちに認められている範囲だと見習いに支払われる給金は一月大銀貨五枚だ。最低な」
「は?」
「もちろん、腕前が伴ってくれば更に上がる。指導も厳しいが音を上げずについてくる覚悟のあるヤツだけついてこい」
「おい、どうする」
「決まってるだろう! 俺はついてく!」
「俺もだ! こんなひもじい生活はごめんだ!」
「お、おい! お前ら、勝手な真似をすれば鍛冶ギルドから破門だぞ!?」
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*服飾ギルド
「……と言うわけでして、我々はシュベルトマン侯爵のご協力によりこの地に新規の服飾ギルドを立ち上げることとなりました」
「馬鹿をいわないでください! どこにそのような証拠が!?」
「証拠でしたらここに。エンチャントも施してあるので破り捨てることもぐしゃぐしゃにすることも燃やすこともできませぬが」
「ッ!?」
「さて、ご理解いただけたようですな。私ども新規服飾ギルドでは皆様を雇う準備がございます。最初は見習いからでございますが技術指導はしっかりいたしましょう。最低給金はひとりあたり一月大銀貨五枚。指導も厳しいですがついてくる覚悟のある方は見捨てません。成果を出せばお給金は更に上げましょう。必死で食らいついてきなさい。それでは、私ども新規服飾ギルドにお集まりいただける方々はどうぞ私についてきてください」
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僕は各ギルドの様子を見たあと、エルドゥアンさんの宿屋を訪ねてみました。
こちらも、突然やってきた竜に騒然となっているご様子ですね。
エルドゥアンさん以外は。
「お久しぶりです、エルドゥアンさん」
「お久しぶりでございます、スヴェイン殿。やはり、この騒ぎ、コンソールが元凶ですか」
「まあ、元凶ですね。ヴィンドにコンソールの熱い風を無理矢理吹き込ませて目覚めさせるという一大改革ですから」
「ほほう、それはそれは。その中に宿屋ギルドは?」
「第一陣の中には含まれていません。興味がおありで?」
「もちろんです。この宿の質を更に高められる機会、見逃すわけには参りません」
「それでは、帰ったらその話もしてみます。第一陣は生活に直結するギルドばかりでしたから」
「よろしくお願いいたします。そうそう、スヴェイン殿たちの専用部屋ですが孫たちも使わせています。構いませんか?」
「ええ、構いません。むしろ、そうしてください。僕もコンソールのギルドマスターになって以降、コンソールから離れるのが大変でして」
「かしこまりました。孫たちが次に来るのは……来年でしょうね」
「はい。いつ頃かはわかりませんが、来年の夏か秋には顔を見せに来させます。成人したのにその顔も見せないのは問題でしょう?」
「そうでございますな。説得、よろしくお願いいたします」
「任されました。それでは、外の様子を見てきますのでこれで」
「ええ。ヴィンドもこれで活気を取り戻してくれればいいのですが。
「活気、取り戻してもらわないと困るんですけどね。コンソールとしても」
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