546.第一次奪還結果報告会
聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新を行います!
これは二話目です。
明日からは通常通りの一日一話更新に戻ります。
聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!
よろしくお願いいたします!
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ヴィンドに最初の新規ギルド部隊を送り込んでから半月が過ぎました。
その間も各街に対して新規ギルド部隊をいろいろと派遣、各街においてコンソールの熱い嵐が巻き起こっているようです。
「さて、今日は現在の新規ギルド運営状況確認だ。特に最初に送り込んだヴィンドの状況を確認したい」
「そうですね。鍛冶ギルドですが既に旧ギルドを駆逐しつつあるそうです。ほとんどの下位職たちは私たちが送り込んだ新規ギルドで取り込み済み。鉱石やインゴットなどの素材も大量に持ち込んでいますから、職人たちもぐんぐん成長しています。対して旧ギルドに残された上位職の者たちは自分たちだけですべてを回すつもりだったようですが……当然回らなかったようですね」
「当然だろ? あいつら、インゴットの作り方とか知ってんのかよ」
「実際、知らなかったみたいですよ? 正確には知識として伝わっていても誰ひとりとして試したことがなかったとか。そういった作業はすべて下位職任せにしていた結果、鉱石からまともなインゴットひとつ作れずゴミクズのような製品しか作れておりません。当然、売り上げなど存在せず破綻するのも遠くないでしょう」
「なんとも不甲斐ない。新規鍛冶ギルドは?」
「はい。その分の受け皿になっております。まだ見習いたちの作品を並べるには数打ち品としてしか並べられません。ですが、それでさえ旧ギルドのものより格段によくなったとか。実際、買い換え時に古い剣を下取りしていますが……使い込んでいた分を差し引いてもガラクタらしいです」
「実に嘆かわしいな。上位冒険者用には?」
「講師として送り込んだコンソールの鍛冶職人たちが作った製品を販売しております。無論、エンチャントはかけずに。本人たちは『腕が錆び付きそうだ』と文句を言っていますが……数カ月ほど我慢していただきましょう」
「そちらも取り込めているなら問題ないな。次、服飾ギルドは?」
「私たちも問題なく取り込めました。引き抜いた者たちの熱気も素晴らしく、毎日努力していると報告が上がってきております。そして、旧ギルドですが、あちらは新しい服の生産どころか古着の仕立て直しすらできずに困っているご様子。古着の仕立て直し作業は『格安で』新規ギルドが買い取りました。それを見てヴィンドの文化を吸収、あらためてそれを発展させた服を販売し始める予定です」
「ヴィンドの文化も取り込めたか。宝飾は?」
「似たようなものでございます。手始めにギルドにいた下位職を引き抜き、そのあとにギルドで売っていた商品のほとんどを買い占めました。そうすることでヴィンドの宝飾文化を学ぶ資料も入手する事ができ、人材も豊富でございます。旧ギルドは商品が売れたことを大変喜んでいたご様子でしたが、新しい商品を作れないことに気が付き返品を迫ってきましたね。無論、追い返したそうでございますが」
「目先の利益しか見ていないからそうなる。次、建築ギルド」
「おうよ。俺たちも下位職どもを一気に引っこ抜いた。結果として、旧ギルドが請け負っていた建築作業のほとんどが止まったぜ。最初は甘く見ていた旧ギルド連中だったが、施工主から尻を蹴られて俺たちに下位職どもを返せと迫ってきたが俺たちも蹴り返した。結果として、現在ヴィンドの建築作業はすべて新規建築ギルドが行っている。ヴィンドの建築様式も学べて様々だ」
「こちらも順調か。馬車ギルドは?」
「私どもも極めて順調ですな。そもそも馬車は人手が足りなければ作れません。旧ギルドの上位職どもは設計と指揮だけして実際の作業は下位職に任せていた模様でございます。おかげで皆様のびのびと馬車を、新様式の馬車をすいすい作っております」
「それは『コンソールブランド』、つまりはシュミット様式のものかね?」
「シュミットの皆様はそれよりも型の落ちる馬車をご指導くださっているようです。それでも、従来品に比べれば遙かに乗り心地のいい馬車。『コンソールブランド』まで手が届かない層には需要があるでしょう」
「住み分けができているのであればよい。調理はどうだ?」
「こっちもうまくいってるよ。下位職たちが大量に流れ込んでくれたおかげでヴィンドの味付けもバッチリ盗めた。あとはそれをどう発展させるかだね」
「素晴らしいな。製菓も同様か?」
「はい、こちらも同様です。やはり調理やお菓子作りは現場の人間が、下位職が一番よく味を覚えていました。素材さえあればレシピがなくともいくらでも再現可能。それを元にあらためてレシピを起こし、記録として保存。今後の発展にも活かせる次第です」
「ここまでは順調か。冒険者はどうだった?」
「ああ。スヴェインの口利きもあってうまくいった。冒険者どもは講師相手に転がされているだけだろうが、それはコンソールも一緒だったから仕方がねえだろう。あとはどれだけ火が付くかだ」
「冒険者も問題なしか。最後、錬金術は?」
「僕のところは去年から支援していましたからね。去年の秋には弟子たちが根腐れを起こしていた病巣を一掃したようです。今回の視察では問題ありませんでした。……せめて最高品質ポーション程度は全員が安定していてもらいたかったのですが」
「スヴェイン、『全員』がってことは『一部』は安定しているのか?」
「はい。昔、僕がヴィンドで冒険者として講師をしたときの元冒険者の錬金術師たち、それからコンソールからヴィンドに渡った錬金術師たちは非常に高確率で最高品質ポーションを作れるそうです。ほかは……ぼちぼちだと、講師に入っていただいているアルデさんから報告が」
「新規錬金術師ギルドも素晴らしいな。これで主要九部門は抑えたことになるか」
ヴィンドの街はほぼ制圧完了でしょう。
最初に送り込んだ九ギルド以外のギルドも一部乗り込んで旧ギルドと渡り合っていますし、完全制圧も目前です。
なにより市民からの声を無視できませんからね、代官も。
「そういやよ。恐ろしくあっさりことが進んでいるが、どうして権力の横やりが入らねえんだ? 普通、余所の国がここまで暴れたら止めに入るだろう?」
「ああ、それでしたら、シュベルトマン侯爵の協力を取り付けてあります」
「シュベルトマン侯爵の協力、ですか?」
「うむ。儂がスヴェイン殿を通じてお願いをしてもらった。今回の一件はシュベルトマン侯爵から竜宝国家コンソールへの依頼によるものであると。その上で現在のギルドについては来年の春から夏にかけて視察をして回り、コンソールの用意したギルドよりも業績が悪ければギルド資格を剥奪。その街を治めている代官や地方領主にも責を負わせるとな」
「そいつは愉快だね! 首を切られたくなかったらなんとしてでもコンソールに勝たなくちゃいけないんじゃないのさ!」
「そのようですな。しかし、それだけですとコンソールからの新規ギルド部隊を拒む街が増えるのでは?」
「各地方領主にはコンソールからの支援を拒まないように命令も出されている。拒めば即刻追放だともな」
「恐ろしいですな」
「そして、商業ギルドでは各街で各ギルドが新本部にできるような建物を抑えてもらっている。そうだな、商業ギルドマスター」
「もちろんでございます。結果報告待ちの場所も多いですがそれさえ終われば竜殿に頼み空輸していただけますよ」
「聖竜たちをこんなことに使うのもなんだがなあ……」
「いいんじゃないですか? 彼らも役に立てて喜んでいますし、ヴィンドも輝きが変わってきたと言って喜んでいますし」
「さっすが、スヴェインの言うことは違う」
「このスピードでの新規ギルド部隊の展開は竜殿たちの助力があってこそ。まことにありがたい」
「これで各地域の上位職どもの意識も変わりゃいいんだがな……」
「それは今後に期待するしかあるまい。ヴィンドからも暮らしに余裕がある今のうちに逃げ出す上位職が増えているのだろう? どうしようもない」
「ヴィンド周辺の街はもうすべて抑えてあるんだがね」
「あとはそうなると村に押しかけることだが……そもそも村の中では『職業優位論』など大した意味を持たないからな」
「行き着く先はシュベルトマン領からの逃亡か?」
「そこまでして、自分の席があるとお思いなのでしょうか……」
「そうなる前に『職業』にさほど意味などないと気が付いてほしいのですがね。難しいのでしょうか」
「古来より身に染みて伝わってきた石化した時代の風習だ。今更、自分たちが特権階級だという驕りを捨てることもできないのだろう」
「……嘆かわしい」
まことに嘆かわしいことです。
たかだか上級職になることができたかどうかで将来が、人生が決まるなど。
たった二週間でも結果が出ているのにそれを受け入れられないのであれば……どうにもならないのでしょうね。
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