サリナのお店、新装オープン
547.サリナ、開店準備中
聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!
よろしくお願いいたします!
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「また一着できた。できたけど……お値段、どうしよう」
冬が始まった頃からユイ師匠に命じられて布地の仕入れや既製服の在庫作りを始めています。
開店準備金として渡されたのは金貨三十枚。
ミライ様に手伝っていただきながらでも、布地の仕入れで金貨十枚近く使ってしまったので残りは金貨二十枚あまり。
お店を始めたら賃料や居候代として毎月金貨五枚を家に入れるように言われていますし、お金がなくなったら即破門でヴィンドに送り返されるとも言われています。
私のお店は子供服専門店なので男子向け女子向けだけではなく、幅広い年齢層にあわせて対応できるようサイズも取りそろえなくちゃいけない。
今作っている範囲だと四歳くらいから十歳くらいまでだと感じているけれど……成長する子供によってはこれでも小さくなりそう。
「ああ、【自動サイズ調整】をかけたいな……」
今までいろいろと練習してわかったこと。
それは、【自動サイズ調整】のエンチャント容量が非常に少ないことです。
小さな指輪にも施せるのだからある意味当然なんですが、服に施すには結構大変でした。
なので容量も多めかと考えていましたが、五歳児用の手袋に試してもエンチャント成功したので非常に容量を消費しません。
このエンチャントを施せばサイズが多少小さくなっても着ていられるから安心なのに……。
でもユイ師匠には『服に施すには相応の腕が必要なエンチャントです』と言われているため、これを施した服は絶対に安売りしてはいけないそうです。
値付けが難しい……。
「エンチャントも失敗しなくなってきたし、新しい裁縫道具で魔法布の取り扱いも……まあまあできるようになってきた。でも、ユイ師匠からはお許しが出ないんだよなあ」
マジカルコットンの糸を作るための糸車も開店準備金の中から用意……しようとしたらユイ師匠から渡され、聖獣樹の織機も新しいものが手に入ったそうなので私専用として一台いただけました。
そちらにも【自己修復】などの補強用エンチャントをスヴェイン様が施してくださり、お金を払おうとすれば『開店祝いですよ』と言って断られ、ユイ師匠に聞けば『一発でショートしますよ? 蹴られたいですか?』と脅される始末。
私、そんなに金銭感覚がおかしいのでしょうか……。
最初の値付けはミライ様に頼らないよう厳命されているし……どうしよう。
街で見た時、新品のお洋服はやっぱり高かったです。
それこそ服飾ギルドに通っていた頃のお給金では月に一着買うのがやっとなくらい。
でも……。
「もっと子供たちには喜んでもらいたいな……」
それくらい新品の服は高級品だけど、少しでも安くしてあげたいのが本音です。
布地の仕入れ値も考えなくちゃいけないし、お家賃も考えなくちゃいけない。
考えなくちゃいけないことばかりで頭がパンクしそう。
服を縫う労力は気にしないけれど、やっぱり素材はどんどん消費しちゃうからそっちも考えなくちゃいけなくて……。
ユイ師匠から仮弟子と呼ばれていた間、あんなに生地を使わせていただいていた事がどんなに幸せだったのかようやくわかりました。
普通ならその生地代も弟子が負担しなくちゃいけないはずですよね……。
私、甘えを捨てたつもりだったのにすごく恵まれた環境で育てていただけていたんだ……。
「これ、本当にどうしよう……」
商品はどんどん完成していっているけれど値段はまだひとつもついていません。
服ばかり準備できて値段はひとつも決められないなんて、想像もしていませんでした。
ユイ師匠も最初は私ひとりに任せるみたいだし、全然決められない……。
結局今日もひたすら服を作り続け、目の前にある服の値段を考え続けるだけで日中を過ごしてしまいました。
「……はあ」
「どうしたの、サリナお姉ちゃん?」
夕食後、溜息をこぼしたら妹のエリナに声をかけられてしまいました。
妹なのに職人として何十歩、ひょっとすると何百歩も先にいる本当に尊敬できる自慢の妹。
対して私はどこまで行っても不甲斐ない姉。
惨めです。
「ああ、うん」
「最近、元気なくなってきたよね。またユイさんにお仕置きされた?」
「……お仕置きの方が悩まなくて良かったかも」
「ユイさんのお仕置きの方がいいなんて……」
ユイ師匠も値付けに関してはダメ出しはするけれどお仕置きはしません。
常に『安い』としか教えてくれず、どの程度安いのかも教えてくれない。
だからこそ判断がつかないんです。
「お姉ちゃん、破門になるかも……」
「なに言い出してるの、馬鹿姉」
「だって、いつまでも値付けが決まらない……」
「まだ悩んでるの? 秋の間毎日、それこそ街中の服屋、古着屋から高級服店、仕立て専門店まで見て歩いたんだよね? それでもダメなの?」
「値段の目安はつけてあるの。つけてあるんだけど……少しでも安くしてあげたいの」
「……少しじゃダメなの?」
「……本音を言うと半額くらいにしたい」
「生地代は出せるの、馬鹿姉」
「出せるよ? 出せるけど、それじゃあユイ師匠がダメだって」
「当然でしょう? そんなこと言い出したらボクの作るポーションなんてものすごく安いよ。薬草は自家栽培、水は裏庭の泉の水。魔石こそ冒険者ギルドで買っているけどそれだけだもの」
「でも、それはエリナがものすごく頑張った努力の結晶だから高くても当然なわけだし」
「じゃあ馬鹿姉は努力していないの?」
「努力……この一年は努力してきた……つもり」
「していなかったらとっくに家から蹴り出されているよ、馬鹿姉」
「そうかな?」
「この家の皆が厳しいことは知っているでしょう? ミライさんの一件でも」
「その……よく知ってる」
ミライ様、夏に仕事で大きなミスを犯したため今では妻の権利を剥奪されて居候に格下げ、それも私より扱いが下になっています。
妻であっても厳しい家に残していただけているって言うことは少しは努力、できているのかな?
「それならその努力した分を価格に上乗せしなくちゃダメだよ。安くしたい気持ちはわかるけど」
「努力した分を上乗せ……でも、私程度でいいのかな?」
「馬鹿姉だって服飾ギルドを卒業して正式な出店許可証までもらってきているんでしょう? それを努力って言わないでなんだって言うの」
「そっか、これも努力だったんだ」
「そうだよ。そこも考慮して値付けし直さないと」
「そうする。お姉ちゃん、行くね」
「頑張ってね」
「うん」
努力した分の上乗せか……難しいなあ。
でも、それを考えられないといつまで経ってもお店を始められないし、頑張らなくちゃ。
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「エリナちゃん、サリナに値付けのヒント与えたんだね」
「はい。いい加減ヒントでも与えないと先に進みませんよね?」
「そうだね。あの子には自分の技術がエンチャントだけならコンソールの中でも上位層にいることを理解してもらわなくちゃ」
「……お姉ちゃん、まだエンチャントをかけることにこだわっているんですね」
「うん。特に【自動サイズ調整】にこだわってる。布にかけるのは難しいからこそ服飾学の初級編に書いてあるエンチャントなのに、失敗しなくなってきてからと言うもの【擦過傷耐性】以上にこだわり始めて」
「そんなに簡単なエンチャントなんですか?」
「慣れると難しくはないかな。エンチャント容量をあまり消費しないから子供向けの衣類にも簡単にかけられるし」
「なるほど。それはこだわりそうです」
「まったく、新品の服は高級品だからって更に高品質化するような真似をしなければいいのに」
「それも教えてあげてはどうでしょうか?」
「甘やかしすぎだからダメです」
「ユイさんって本当にお仕事では鬼ですね」
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