548.サリナ、まだ開店準備中

聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!

よろしくお願いいたします!


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 翌日、エリナに指摘された私の努力の結果を値段に上乗せして値段表を再作成。


 今までよりかなり高くなっちゃったけど……これでも、街のお洋服より一割以上安いし許してもらえるかな?


 ユイ師匠はいまの時間だと多分服飾工房にいるはずだからそっちに行ってみよう。


「ユイ師匠、いらっしゃいますか?」


「ええ、入りなさい」


「失礼いたします」


「値段表、新しいものができましたか?」


「はい。できました」


「よろしい。今織っている布が織り終わったら確認しますので待ちなさい」


 ユイ師匠は今日もいつもの織機でいつもの布……ホーリーアラクネシルクを織っています。


 その手つきもよどみがなく鮮やか。


 ときどきエンチャントの輝きも放ちますし、私みたいにマジカルコットンを普通に織るだけでも手一杯な未熟者とは全然違う。


 その技を食い入るように見学させていただけましたが……やはり私の技術ではなにも盗めないし参考にできないのが悔しいです。


「……お待たせしました。今日の値段表は?」


「はい、こちらになります。その……かなり高額にしてしまいましたが」


 ユイ師匠は私が手渡した値段表を確認し、一言だけ。


「ふむ。ですが……最初はこれでもいいでしょう」


「え?」


「とりあえずはこの範囲で許可します。あなたのことですから値段を考えながらでも服を作り続けていますよね? 店舗スペースの様子を見せなさい」


「は、はい!」


 あれ?


 ユイ師匠も店舗スペースの鍵を持っていなかったっけ?


 それにリリス様だって持っているような……。


「こちらになります……」


「なんでそんなに自信がなさげなんですか? 売り物として恥ずかしいものを作っているのでしたら蹴り上げますよ?」


「いえ! そんなことはしていません!」


「では確認します」


 ユイ師匠は私が作った服をひとつひとつ丁寧かつ入念にチェックして歩き……本当に作ってあるすべての服を確認してしまいました。


 それなりの数の服を作っているはずなんだけど……。


「服の作りも合格です。販売想定年齢は?」


「四歳から十歳の子供。男の子と女の子両方です」


「それでしたらバリエーションをもう少しほしいですが……最初は仕方がないでしょう。開店後の様子を見て色や形を増やしなさい」


「はい!」


 ここまでは合格がもらえたみたい。


 あとはお店を始める許可をいただければ……。


「よろしい。次、です」


「え?」


は許可しました。あなた、服しか売らないつもりですか?」


「あーえっと、できればエンチャントも施してあげたいです」


「ではも決めなさい。初歩的なものは安く、高度なものは高く」


「……つまり、【自動サイズ調整】とかは高額ではなくちゃいけませんか?」


「当然です。あなたのことですから【自動サイズ調整】を付与する服はかなり大きめに作りますよね?」


「ええと……はい」


「そうなると二年どころか六年着ることすら可能になります。破けたりしなければですが。【柔軟】や【強靱】も付与すればそのおそれもないでしょう。つまり、子供が子供である間は買い換え費用が発生しなくなる。その分を値段に反映させなさい」


「その……金貨一枚程度とかじゃ……」


「蹴られたいですか?」


「申し訳ありません……」


 お店、まだ始められません……。


 、まったく考えていませんでした……。


 その後もエンチャントの値段表を考えてはダメ出しされ、再度考え直してはダメ出しされてを繰り返し半月が経過。


 今日もまた、手慰み代わりにマジカルコットンを織っています。


 服の在庫を増やすのは生地代がかかるけれど、マジカルコットンの在庫を増やすのは魔綿花の素材費用がほとんどかからないため気にしなくてもいいので……。


「あ、また織り終わった。最近は段々失敗しなくなってきたなあ」


 スヴェイン様にかけていただいたエンチャントのおかげかマジカルコットンの成功率もかなり上がりました。


 失敗することも多いけれど自分で糸を作って自分で布を織るだけなので、その……時間つぶしにもなります。


「エンチャントのお値段もだけれど、マジカルコットンを使う時の値段も決めなくちゃいけないよね……」


 マジカルコットンの在庫もかなり……と言いますか普通の生地よりも増えてきましたが、それは私が手作りできるから。


 シュミットでは高級品らしいですし、安売りしようとすればお尻を蹴られるどころか大通りに全裸で蹴り出されます。


 エンチャントの値段の次はマジカルコットンの値段でしょうし、今から考えておかないと。


「マジカルコットン。私が作る限りは安いんだけれど、本来は高級品だから高くしなくちゃいけないんだよね……」


 マジカルコットンを織る途中でエンチャントをかけようとすると必ず失敗しますが、それは自分の腕が未熟だから。


 エンチャントを使おうとした瞬間に魔力が乱れるのを自分で理解してしまうのですからどうにもなりません。


 時間ができたらそこもユイ師匠に見ていただかないと。


 そして、今日もお夕食後にテーブルで溜息をこぼしてしまいました。


「……はあ」


「今度はなにで悩んでいるの? 馬鹿姉」


「最近お姉ちゃんにまた冷たくなってきたよね、エリナ」


「食事中から難しい顔をいつもしているからね。食事中くらい食事を楽しみなよ」


「悔しいけれど言い返せない」


「それで、今度はなにで悩んでいるの?」


「エンチャントの値段」


「エンチャントの値段か……そっちも技術料を考えればいいんじゃない?」


「そうだけれど……それを考えても安いって言われ続けているの、半月も」


「じゃあ、お姉ちゃんの見立てが甘すぎるってことだよ。値段表、今ある?」


「あるよ。さっきダメ出しされたものなら」


「それでいいから見せて。ボクもエンチャントはまだ習っていないからよくわからないけど」


「じゃあ、はい」


「ありがとう。……ねえ、【防汚】とか【防水】がこの値段って安すぎない?」


「そう? それって一番初歩のエンチャントだよ?」


「でも、【防汚】ってかかってなかったら場合によっては服がダメになるようなものだよね?」


「ええと……うん」


「【防水】だってかける服や状況によっては重要なエンチャントだし。【柔軟】や【強靱】って?」


「【柔軟】は布が柔らかくなって肌触りがよくなったり引っかかりにくくなったりするエンチャント、【強靱】は布が頑丈になって破けにくくなるエンチャントだよ」


「……馬鹿姉。それって服をダメにしなくするような大切なエンチャントじゃない」


「え? え?」


「いい、馬鹿姉。【防汚】にしろ【柔軟】にしろ【強靱】にしろ、どれも服を長持ちさせるエンチャントじゃない。それって技術料だけじゃなくて長持ちさせるためのお金も取らないと」


「え? そうかな?」


「そうだよ。服が長持ちするっていうことは、いずれ古着として売るときだって高値で引き取ってもらいやすいってことなんだもの。ましてや、今は子供服でエンチャント付きの服なんてほとんどないんだよ? そこも理解している?」


「……ごめんなさい。理解していませんでした」


「それだけ希少性が高いってことなの。そこも考えて値付けしないとダメ出しされるに決まってるじゃない」


「……反省しています」


「あと、マジカルコットンだっけ。あれの値段も決めてないんでしょ? 安売りしようとしたらまた野良犬コースだよ?」


「やっぱり?」


「ボクだって十二歳の頃から高品質ミドルマジックポーションを作り続けているけど、その売値なんてお姉ちゃんが想像しているより遙かに高いよ? それなのに毎週冒険者ギルドでは抽選販売、ボクが冒険者ギルドに渡す時のお金だってすごく高いんだから」


「あの、エリナ様ってものすごくお金持ちでしょうか?」


「お姉ちゃんが想像しているよりは遙かにお金を持ってるよ。お金は貯まるけど使い道がないんだもの」


「……考えが甘すぎた」


「それだって原価は売値を考えればほとんどかかってないんだからね。そこのところ、お姉ちゃんも理解しないとダメだよ」


「私が簡単にできるからって安くしちゃダメなんだね……」


「わかったら考え直してきて」


「うん、そうする」


 そっか、私が簡単だからって他の人まで簡単とは考えちゃダメなんだ。


 値付けって難しいなあ。



********************



「エリナちゃん。ヒントを与えすぎでは?」


「与えすぎちゃいましたか?」


「私としてはもうしばらく頭を悩ませてほしかったけど……あのままだと来年の夏になってもお店を始められそうにないし、それよりもいいか」

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