549.サリナ、仕事着を作る
聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!
よろしくお願いいたします!
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エリナからヒントをもらったあともダメ出しをされ続け、許可が下りたのは冬の一カ月目が終わった頃です。
長かった……。
「とりあえず、エンチャントの値段もこれで問題ありません。マジカルコットンを使いたい場合は私を呼びなさい。私が値段を決めます。私がいない場合、マジカルコットンの使用は禁止、口外も禁止。いいですね?」
「それは私の値付けがまだ甘いということでしょうか?」
「それも否定できません。ですが、そもそもマジカルコットンが流通していないんですよ。流通していないものを使おうとする以上、値段はこちらの言い値になります。安くしすぎるのも高くしすぎるのも禁止。あなたには値段の見極めができないでしょう。コンソールでも流通し始め、取り扱えるお店が増えてくれば別でしょうが……五年以上先でしょうね」
「そんなに難しいんですか、マジカルコットンって。私でも半年でできたのに」
「私が鍛えたあなただから半年で満足に扱えるのです。そもそも、マジカルコットンを織るための霊木織機だってコンソールでは入手できないと昔教えたでしょう」
「あ……」
「服飾ギルドが教育用として数台シュミットから輸入したようですがそれだって安くはないはずです。あなたは私がプレゼントした聖獣樹の織機があるからこそほとんどコストがかからずに作れているだけ。霊木織機を入手する原価を布の費用に加算すると、今のコンソールでは子供服一着でさえ金貨二十枚以上を上乗せしなければなりません」
「なるほど……」
「と言うわけで、あなたのお店の奥にあるマジカルコットン。あれは基本的に死蔵です。今日の夜にスヴェインが帰ってきたら頼んで魔法錠をかけてもらいます。解錠用のエンチャントアクセサリーはあなたにも渡しますがくれぐれもなくさないように」
「練習はしても構いませんか?」
「その程度ならいくらでも。ただし、練習で作った服を間違えても販売しないこと。その服も魔法錠のかかった棚の中に収納するように。いいですね?」
「はい、わかりました」
そっか、こんなところでも私は恵まれていたんだ。
よく考えたら服飾ギルドに来ているシュミット講師のリーダーだった人に個人レッスンを受けているんだもの、恵まれていないはずがないですよね。
私の環境、恵まれすぎているなあ。
「さて、服の値段、エンチャントの値段、死蔵品のマジカルコットンの扱い。以上のものは決まりました。お店のオープンまでに決めなくてはいけないことはなんでしょう?」
「オープンまでに決めなくてはいけないこと……開店日……とか?」
「違います」
「ええと、店員」
「前に話しましたがあなたのお店で働く店員候補は私が探してきます。そちらはあなたが気にしなくても結構。別のことです」
「ええと、それじゃあ……」
「あなたに任せているとわからないでしょう。あなたの服装です」
「私の服装?」
「あなた、普段着と外出着しか持っていないでしょう? 服飾ギルドに通っていたときからずっと」
「はい。それがなにか?」
「服屋の店主、それも新オープンの店主がそれで務まるとでも?」
「あ……」
「と言うわけで、次のあなたの課題。あなたの仕事着を作りなさい」
私の仕事着……。
考えたこともなかった……。
その日から私はまた昼間コンソールの街中にくり出すようになり、今度はいろいろなお店で働いている方の仕事着を確認して回りました。
やっぱり高級店の店員さんはきっちりした服を着こなしていて隙がなく、下町のお店に行けば……そこでも私の外出着よりもしっかりした服を着ています。
洋服店だけでもそれですのでほかのお店、それこそ飲食店になると本当に様々。
個人の服をそのまま着ているだけのようなお店もあれば、おそらくお店が貸し出しているであろうおそろいの服を着ているところもあります。
宝飾品店はもっと高級で上品な感じの服ですし、雑貨屋などになれば多種多様。
それぞれお店の個性が出ていて……確かに私の仕事着が必要でした。
でも、私の仕事着ってなにがいいんだろう……。
「あれ、サリナさん。こんにちは」
「え? あ、エレオノーラ様、こんにちは」
仕事着を考えながら歩いているとエレオノーラ様に出会いました。
この時間、出歩いているっていうことはお休みの日かな?
「サリナさん、今日はどうしてこんなところに?」
「ええと、エレオノーラ様も私がお店をオープン準備中なのはご存じですよね?」
「はい。もちろん」
「それで、ユイ師匠から課題を出されていて」
「課題ですか?」
「はい。服の値付けやエンチャントの値付けは合格をいただいたのですが、今度は仕事着を用意しろと……」
「ああ、なるほど。サリナさんって普段着と外出着、それから寝間着くらいしか持っていませんよね?」
「……恥ずかしながら、服飾師なのにそれしか必要性を感じていなかったもので」
「まあ、わかります。私もユイからプレゼントされている服しか着て歩かないですし」
「ユイ師匠から?」
「ええ。最初はシャル経由だったんですけど、内弟子に入ってからは直接ユイに渡されるようになって今でも定期的に」
ユイ師匠から直接っていうことは、今着ている服もホーリーアラクネシルク製なんだ……。
あの神々しい布が普段着と変わらないようになっているなんてユイ師匠はこんなところでもすごい。
「どうかしましたか? 私の服を見つめて」
「ああ、いえ。ユイ師匠はやっぱりすごいな、と」
「はあ?」
ユイ師匠のことを知ればどんどん遠くなってしまう。
でも、まだ追いかけることを諦めちゃいけない。
「あれ、そういえばエレオノーラ様って普段から錬金術師ギルドのローブを身につけていますよね。それはどうして?」
「これですか? スヴェイン様から身を守るためにって渡されているんです。いろいろ特別製らしく」
「特別製のローブ、ですか」
「はい。それにこの街で錬金術師ギルド本部のローブを身につけている人を襲おうとする者ってまずいませんから」
「ああ、なるほど」
確かに錬金術師ギルド、それも錬金術師ギルド本部の関係者に手を出すような人は命知らずでしょう。
手を出せば襲いかかってくるのは聖獣様たちですから。
「ウサギのお姉ちゃんだ!」
「ウサギのお姉ちゃん、遊ぼう!」
「あ、皆!」
「わ、わ!」
エレオノーラ様と話をしていたら子供たちがじゃれついてきました。
一体なにが!?
「エレオノーラ様!?」
「ああ、この子供たちは私の講習会に来てくれた子供たちです。休日に街歩きをしているとじゃれつかれることがあって」
「あ、なるほど」
講習会、子供向け講習会でエレオノーラ様の人気は有名です。
きっと子供たちもエレオノーラ様のことが大好きなのでしょう。
「ウサギのお姉ちゃん、このお姉ちゃんは?」
「私が昔お世話になっていた下宿先で同居人だったお姉ちゃん!」
「そうなんだ! お姉ちゃんも一緒に遊ぼう!」
「え、うん、いいよ」
「やったー! じゃあ、あっちの公園に行こう! リリスお姉ちゃんも来てるんだ!」
「あ、リリスさんもこっちまで来ているんですか」
「リリス様も?」
「リリスさんも子供好きですからね。近所の公園以外では滅多に出歩かないようですが、今日はこちらまで来ているようです」
「そうだったんですね……」
「早く早く!」
「待って、皆!」
子供たちに急かされてやってきた公園では本当にリリス様が子供たちと遊んでいました。
多数の子供たちを上手にあやしながら、仲良く。
「……あら? エレオノーラ様。それにサリナも。あなた方も子供たちに捕まったのですか?」
「はい、捕まっちゃいました」
「どうやらそのようで……」
「それでは子供たちと遊びましょう。あなた方も早く加わりなさいな」
「はい!」
「……はい」
そのあと、子供たちと遊んだときのエレオノーラ様とリリス様の様子は本当に楽しそうで……。
私もこんな風に子供たちを笑顔にしてあげられれば……。
あ、私の仕事着!
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「ふむ、それがあなたの仕事着ですか」
「ええと……ダメですか?」
「リリス先生?」
「まあ、よろしいのではないかと」
「リリス先生のお許しも出ましたし認めましょう。そのほぼメイド服の仕事着を」
「ありがとうございます!」
「許可は出しました。汚れたり破れたりした時用に替えを……マジカルコットンを使っていいので何着か作っておきなさい。エンチャントもご自由に」
「はい! 失礼いたします!」
「……リリス先生、本当によかったんですか? ほぼメイド服なのに」
「いいのではないでしょうか。半端な覚悟で店を構えようとしているわけではないのですし」
「まあ、先生がいいって言うなら営業時間だけは。あの子、なにを見てメイド服に決めたんだろう?」
「私が子供と遊ぶのを見てだと思います」
「子供と遊ぶのを見て。あの子らしいといえばあの子らしいけれど……単純」
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