550.サリナ、ヴィンドの現状を知る
聖獣とともに歩む隠者第二巻好評発売中!
よろしくお願いいたします!
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マジカルコットンで仕事着を作る許可をいただいたので早速何着か作成開始です。
自分の体型も把握しているのでそれよりも大きめに作っておけば、【自動サイズ調整】の効果でぴったりになるし着替えも楽だし助かりました。
「見て見て、エリナ! これがお姉ちゃんの仕事着だよ!」
「ほとんどメイド服だけどリリスさんのお許しはいただいたの?」
「うん!」
「それならいいんだけど」
「サリナ、とりあえず着替えてきなさい。これから夕食です」
「……夕食の間も着ていちゃダメですか?」
「あなたのことですから【防汚】と【防水】をかけているでしょうが完璧ではありません。いきなり汚したくなければ着替えてきなさい」
「はい……」
もっとエリナにお姉ちゃんの仕事着を見せていたかったな……。
あ、お仕事といえば気になる噂を聞いたんです。
それもあとでスヴェイン様に伺わなくては。
「ヴィンドの街の新規服飾ギルドですか?」
夕食後、早速とばかりに街で聞いた噂を伺ってみました。
なんでも、コンソールからの援助でヴィンドの街に新規ギルドがたくさんでき、大勢の下位職たちがそちらで働かせていただいているとか。
服飾ギルドにもできたのか確認しないと。
「はい、できていますよ。ヴィンドの街に戻りたくなりましたか?」
「いえ、そう言うわけではありません。ただ、下働き仲間たちのことは気になっていましたので」
「ヴィンドの街にもコンソールからの支援で各種新規ギルドを立ち上げました。服飾ギルドもそのひとつです。そこでは元々あった服飾ギルドから大勢の下位職たちが移って来ており毎日頑張ってくれているそうです。最初は見習いからですが腕が伴ってくれば相応の地位が与えられます。コンソールの方針そのままですね」
「ええと、お給金ってやっぱり安いですよね? 見習いですから」
「あまり高くはないですね。一カ月大銀貨五枚からスタートです」
「大銀貨五枚!? それって今までの年収の数倍ですよ!?」
「その分、修行もハードですよ。音を上げた者もいないようですが」
「当然です! それだけの厚遇をしていただけるんですから諦めるはずがありません!」
「まあ、そうかもしれません。コンソール流の指導、つまりはシュミット講師が入っての指導にも耐えています。皆さん、生活が、今後の人生がかかっているだけあって必死のようですね」
「でも、よかったです。下働き仲間たちにも希望ができて」
「この先ついてくるのは大変ですし、指導は三年間で終了ですがね。それから先は自分たちの手で自分たちなりのギルドを作っていただかないと。昔のように根腐れを起こし屋台骨が腐り落ちればそれで終わりです」
「そんなことにはならないと信じています。『職業』に意味がないことを痛感した以上、努力が、技術の優劣のみが絶対の差だと気が付いてくれるはずなので」
「それだと嬉しいですね。コンソールも支援した甲斐があります」
「でも、そんな簡単に内情を話してよろしいのですか? 今のってギルド評議会の話ですよね?」
「サリナさん、外で話しますか?」
「いいえ、絶対にそんなことはしません」
「それを信じただけです。それにヴィンドは馬車で一週間の距離。遅かれ早かれ詳しい内容が飛び込んできますよ。できれば、第一街壁外の人口がそっちに流出してくれたほうが嬉しいですね」
「……ありがとうございます。ヴィンドの皆を助けてくれて」
「いえいえ、各地方領主があまりにも不甲斐ないため、シュベルトマン侯爵から協力要請がコンソールにありましたから」
「……そういうことにしておきます」
「はい。そういうことにしておいてください」
本当によかった、私だけじゃなくてヴィンドの皆も救いの手が差し伸べられて。
できればその手をしっかり握り絞めて離しませんように。
「ほかにヴィンドの状況で知りたいことってありますか? 答えられることと答えられないことはありますが」
「あ、じゃあ。お爺ちゃんってどうしていたかわかりますでしょうか?」
「エルドゥアンさんですか。僕が会いにいったときは元気にしていました。今は……ひょっとすると第二陣として送り込んだ新規宿屋ギルドで指導を受けているかも知れません」
「お爺ちゃんの宿でもですか?」
「一応、すべての宿屋にチェックは入るでしょう。エルドゥアンさんも今の宿の質を更に高めたいとおっしゃっていました。ただ、エルドゥアンさんの宿です。さすがのコンソール宿屋ギルドでも改善点がほとんど見つからないかも知れません。エルドゥアンさんならそれでも食い下がりそうですが」
「……お爺ちゃんらしいです」
「サリナさんも忙しくなる前に一度帰郷されてはいかがですか? それくらいでしたらエリナちゃんに頼めば日帰りでもできます。コンソールの服飾ギルドを卒業し、コンソールでも認められる一人前の服飾師になれた姿。一度見せてきては?」
「ありがたいお言葉ですがお断りさせていただきます」
「ほう、それはなぜ?」
「私はまだまだ居候でしかありません。確かにユイ師匠には正式な弟子として認められました。服飾ギルドの免状もいただいております。でも、まだそこ止まりなんです。私はまだ立派な職人になれておりません。次に帰るときは早くてもユイ師匠から卒業を言い渡されたとき。本音を言えば自分で自分の事を一人前の職人だと認められるまで帰りたくはありません」
「その覚悟は堅いですね?」
「もちろんです。一年前のような半端な気持ちではありません」
「そうですか。では、この指輪を」
スヴェイン様から渡されたのは小さな宝石がはめられた……裁縫などをしても邪魔にならないような指輪です。
これって一体……?
「その指輪には【負傷急速回復】などいくつかのエンチャントを施してあります。裁縫をすれば間違って針を指に刺すこともあるでしょう。ユイにいわせればそんなことをした時点で半人前と言われそうですが……まあ、転ばぬ先の杖とでも考え受け取りなさい」
「ですが……安くはないですよね?」
「この街で作れるものは少ないでしょう。ですが僕なら片手間で作れるような代物です。開店祝いのひとつと考え受け取っておきなさい」
「ありがとうございます!」
私は早速指輪をはめさせていただき……少しだけ体が温かくなったような感覚を感じました。
これもエンチャントの効果でしょうか?
「かけたエンチャントの種類は内緒です。念のため【自己修復】もかけてありますが大切に扱うように。いいですね?」
「もちろんです! 申し訳ありません、服飾学の本を読み進めたいのでこれで失礼したいのですがよろしいでしょうか?」
「もちろん。お勉強の邪魔はしませんよ。早く自室にお戻りなさい」
「はい! ありがとうございました!」
思いがけない頂き物までしてしまいましたが……それに見合った結果も出さないといけません!
正式オープンまでもうすぐでしょうし、自習ももっともっと頑張らないと!
もしエンチャントの要望があったときに備えて知識だけでも増やしておかなくちゃ!!
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「スヴェイン、甘やかすのはあまりよくない」
「そうですか? 彼女、はりきりすぎますよ?」
「あの指輪、【体力上昇】と【体力回復速度上昇】、【疾病耐性】、【エンチャント強化】だけじゃなくて【快適温度常備】もかけられてたよね? 【快適温度保存】じゃなくて」
「はい。かけてありますね」
「指輪にかけるなんて相当難しいエンチャントじゃない?」
「宝石の種類を選べばどうとでもなりますよ?」
「甘やかしすぎ」
「ユイにも指輪、贈りましょうか?」
「カーバンクルの指輪と結婚指輪だけで十分。ほかの指輪なんていらない。特に宝石付きは」
「自分が宝石じゃない指輪は意地でも受け取りませんか」
「当然でしょ。そして、サリナにはあの指輪にふさわしいだけ頑張ってもらうことにする」
「そうしてあげてください。一日でも早く親に顔を見せられるように」
「……甘やかしすぎ」
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