動き始める学園都市構想
228.ギルドマスターたちの茶飲み話
「そうか、遂に錬金術師ギルドもシュミット流を取り入れたか」
「はい。ですがシャルの言っていた事が嫌というほど理解できました。皆さん、気合いの入れすぎです」
「なんともうらやましい話ですな」
今日は錬金術師ギルドへとやってきたティショウさんと商業ギルドマスター、ふたりと打ち合わせです。
ほぼただの世間話ですが。
「ティショウさん、カーバンクルの売れ行きは相変わらずですか?」
「相変わらずだ。まったく、ポーションを抽選販売してるギルドなんてここだけだろうぜ」
「私どもとしては『カーバンクル』様方のポーションも商材にしたいのですが……無理そうですね」
「無理だ。諦めろ」
「諦めます。それにしても、この国の錬金術師ども。本当に頭の固い」
「そういえば、昔の話ではこの街におけるポーションの作り方も販売する予定でしたよね?」
「ええ。ですが、一件たりとも問い合わせがございません。それほどまで古い体質にこだわっているのでしょう」
「あのアトモに対してすら金翼紫を返還するとき、喜んで受け取っていたって話だからな」
そこまでですか。
本当に始末に負えませんね。
「おかげさまで『コンソールブランド』のポーションは大人気なのですが……売れば売るほど受注が増えて困っています」
「コンソールのポーションを飲んじまったら、あのクソまずいポーションには戻れないんだろうよ」
「それで各街の錬金術師ギルドは潰れないのでしょうか」
「国から補助金が出ているそうです。『コンソールブランド』のポーションを買わないように圧力もかけている模様ですが……」
「効果は出ていないようだな」
「はい。そうなってくると、今度は『コンソールブランド』全体を国全体で買い取り禁止にする法律を作ることです」
「そんな事して大丈夫なのかよ?」
「きちんと対処をしていますので大丈夫ですよ。本来であれば国はコンソールの街を攻め落としたいそうですが」
「途中にドラゴンがいるんじゃなあ」
「ええ。実際、一度だけ軍が通り抜けようとして蹴散らされた事例があります」
なんですって?
「僕、ドラゴンたちからその報告を受けていません」
「ドラゴンからすれば報告するまでもない些事なのでしょう」
「実際、
「そういうわけです。なので、国としてはこの街を干上がらせたいのでしょう」
「できるのですか?」
「無理です。各地に間者を潜ませております。国が『コンソールブランド』を禁止すれば、間者たちの手によって暴動が起きるように誘導いたします」
「関係のない人々に犠牲が出るのは心苦しいですが……」
「スヴェイン殿はそれくらいでよろしいのです」
「そうだな。
「ともかく、『コンソールブランド』もしばらくは安泰です。シュベルトマンの一部ギルドが対抗馬になっていますが、さしたる脅威ではありません」
「そうですか? シュミットの講師が手を抜くとは思えないのですが」
「手を抜いているのは教えを受けている方です。いまだに職業優位論を信じており、上位職であれば努力せずともなんとでもなると」
「嘆かわしい」
「ええ、まったく」
「冒険者ギルドではさすがに改革が進んで来ているらしいが、ギルドマスターが乗り気じゃないらしく、冒険者の気合いもいまいち足りないそうだ」
「もったいないですね」
「実際、公太女様は一年で講師を引き上げることを検討中だとさ。ビンセントはなんとかしたがっているが」
「由々しい事態ですね。コンソールの街以外で講師陣を受け入れていただけないというのは」
「スヴェイン殿も大変ですな。錬金術師ギルドマスターとしての顔とシュミットの顔、双方をお持ちなのですから」
「……シュミットは約四年放置してしまいました。そして長子であるにもかかわらず、後継ぎの座も放棄しました。どうしても気にかけてしまうのです」
「公太女様が聞いたら嬉しいだろうな、おい」
「こんなこと聞かせられません。そんな事をしたら、次代の座を押しつけられます」
「普通の貴族や王族は次代の座というのを巡り、骨肉の争いを繰り広げるものなのですが……」
「シュミットじゃ一番年下が貧乏くじを引かされたみたいになってんな、おい」
「面目ない」
まったくもって面目ないです。
幼い頃からその風潮があったのですから始末に負えません。
「そういや、公太女様もいつまでこの街にいるんだろうな」
「この前、アリアがそれを聞いたそうです。僕とアリアが建設予定の学園都市、それに噛みつくまでは帰れないそうです」
「気の長い話ですな」
「僕としても講師陣を一気に集められるのは強みではあります。ですが……」
「全部シュミットってのは気に入らないんだろう?」
「はい。僕も源流をたどればシュミット。シュミットの教えだけで学園都市を運営するのは、侵略的すぎて好ましくありません」
「難しい問題ですな。この国の連中では高度な教育など施せますまい」
「かと言って、シュミット一色ってのはさすがにまずいのは理解できる。いい人材をどこかから引っこ抜いて来られないものかねぇ」
「まったくです。例えば、この国で厄介者扱いされているような、優秀すぎる研究者や教育者。そういった人材を……」
そこまで言いかけたとき、ドアがノックされました。
入室の許可を出すとやってきたのはアトモさんです。
「失礼いたします。なんでも優秀すぎる人材をお捜しとか」
「おや? 廊下まで聞こえてしまいましたか」
「はい。『カーバンクル』様方にお手本を見せていただき戻る途中だったのですが」
「おい、スヴェイン。アトモのおっさんだったら同じような境遇の……」
「はい。同じようにこの国では異端とされ冷遇された結果、隠遁生活へと移った者たちを多数知っております」
「なんですって!?」
おっと、思わず大声が。
喉から手が出るほどほしかった人材。
そうですよ、アトモさんもこの国では『異端児』扱いでした!
「アトモさん! その方々がいまどこに住んでいらっしゃるかは!?」
「もちろん知っておりますとも。この国の王都にいた頃は定期的に文通をしていた仲です」
「おい、スヴェイン」
「錬金術師ギルドマスター」
「いけます! いけますよ!!」
「おや、もっと早く知らせるべきでしたでしょうか」
「こいつが抜けてるのが悪ぃ。アトモのおっさんは気にすんな」
「そうですな」
「アトモさん! 明日から予定を空けることはできますか!?」
「ええ、もちろん」
「ちょっと弟子たちに明日から出かける許可を取り付けてきます。今回ばかりは僕の我が儘、通させていただきます!」
ああ、ああ!
まさか、なんで気が回らなかったのか!
楽しみになってきました!
********************
「行ってしまわれましたな」
「そもそも弟子相手に『我が儘を通す』っておかしくねぇか?」
「それだけあのおふたりを大切にお考えなのでしょう。……さて、私はアトモ様の連れてくるであろう人材が住める物件を探しておきましょう」
「アトモのおっさん。総勢何人くらいになるんだ?」
「さあ……隠遁生活に入ったあと、弟子をどうしたかまで私も把握しておりませんので」
「……本格的にコンソールが手狭になって参りましたな」
「拡張工事、本気で考えなくちゃな」
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