233.他国からの使者

「失礼いたします。ってアリア様、いらしていたのですね」


「はい。失礼しています」


「ミライさん。僕との扱い違い過ぎません?」


「ギルドマスターはギルドマスターですから」


 その日はアリアも連れて錬金術師ギルドへ来ていました。


 目的は……。


「これ、コンソールの街の地図?」


「はい。コンソールの地図です」


「そんなものを取り出し、ふたりでなにを相談していたんですか?」


「いえ、そろそろ学園都市の箱だけでも作ろうかと」


「それでコンソールの地図?」


「はい」


「この二本の線は?」


「私たちが想定しているコンソールの拡大範囲ですわ」


「拡大範囲ですわって……広すぎません?」


「そうですか? 第二街壁の内側には新市街を、第三街壁の内側には農地や放牧地を作ると考えればこれくらいないと」


「ああ、なるほど。いやいや、納得しかけましたがそんな予算、今のコンソールにありませんって」


「今後を考えればこれくらいはありませんと」


「なにも十年二十年先の話ではありません。百年先程度の話ですよ」


「……遠大ですね」


「先を見越さねば」


「僕たちはふたりとも人間です。そう長生きはできませんから」


「……いや、まだおふたりとも十四歳でしょう」


「百年後にはこの世にいませんよ」


「神薬を使えば別ですが」


「延命方法、あるじゃないですか!?」


「ですがそれを望みません。例えそれを使ったとしても世俗を離れます」


「そういうことですわ。それにしても、学園都市の講師は頭の痛い問題です」


「まったくですよ。ほかの国から探してこようにもあてがありません」


 本当にままなりませんね。


 学園都市計画を実行するための土地は入手できたというのに。


「ちなみに、どんな学科を想定しているんですか?」


「できる限りすべての学科を。そして、学科内でも更に細分化したいところです」


「錬金術と魔法だけでしたら私たちでもなんとかなります。ですが、ほかの学科はどうにも」


「しかも、『交霊の儀式』直後から受け入れ始めたいんですよね?」


「はい」


「もちろんですわ」


「本当に野心があふれていますね、おふたりとも」


「野心でもなければ街を作ろうだなんて計画立てませんよ」


「そうですわ。街のどこかに私塾でも構えた方が安上がりで現実的ですし」


「そう言われると確かに……」


「アトモさんやそのお仲間さんでもこれ以上のあてはないそうですからね……」


 三人で頭を悩ませているとギルドマスタールームのドアがノックされました。


「どうぞ」


「失礼します。隣国マーガレット共和国エヴァンソンからの使者と名乗る方々がやってきて、ギルドマスターと面会がしたいと」


「マーガレット共和国? エヴァンソン?」


「ああ、ギルドマスターは知りませんよね。この国、エニリックと接している国のひとつです。エヴァンソンは共和国を形成している国々のひとつですよ」


「ふむ、身元は確かですか?」


「おそらくは。エヴァンソンの国旗を掲げていましたし、騎士証も持っていました」


「では、お会いいたしましょう。ミライさん」


「はい。案内してきます」


「アリアは……」


「弟子たちの様子を見て参ります」


「お願いします」


 アリアが出ていって少し経つと純白の鎧に身を包んだ騎士の方がやってきました。


 彼女がエヴァンソンからの使者ですかね。


「失礼する。……貴殿が本当にギルドマスターか?」


「残念ながらそうなります。ほかの誰もこの椅子に座りたがらないので。ああ、自己紹介が遅れました。スヴェインと申します」


「私はジェレミだ。しかし……あなたが本当に腕利きの錬金術師?」


「んー、申し訳ありません。僕より上の錬金術師は師匠以外に会ったことがありません」


「師匠というのは?」


「セティ様です」


「セティ……まさか『大賢者セティ』!?」


「本人は賢者なのですが……些細なことですね。それよりもご用件をお伺いしてもよろしいですか? わざわざ外国から物見遊山でやってきてギルドマスターに会いに来たわけでもないでしょう?」


「あ、ああ。失礼した。実はあなたがハイポーションまで作れる御仁だと噂に聞いてやってきたのだが……」


「はい。高品質まででよければいくらでも。ハイポーションがご所望ですか? 他国とは言えあまり見知らぬ方にはお譲りしたくないのですが」


「い、いや、そうじゃない。我がエヴァンソンの代表者ズレイカ様が病に伏せっていて治療薬をと考えやってきたのだが」


「治療薬、ですか。具体的な症状は? めまい、吐き気、腹痛、動悸、その他なんでも構いません。知っている限りの情報を」


「あ、いや、私に託された使命は『薬を買ってくる』ということだけで」


「……子供のお使いですか。まったくもって役に立たない」


「な!?」


「それで、そのズレイカ様? ですか。その方がお亡くなりになると、なにか困ることでも?」


「その……」


「話せないならそれで結構、会談はここまでです」


「わかった! 話す! ズレイカ様の後任がまだ決まっていないのだ。このままでは……」


「はあ。ここでも後継者問題ですか。嘆かわしい」


「ここでも?」


「ああ、こちらの話です。あまり気にしないでください。それで、治療をご所望ですか?」


「頼めるのか!?」


「僕も鬼ではありません。対価はいただきますが、治療はいたしましょう」


「対価は!? なにを望む!?」


「それはそちらの国の事情を見てから考えます。正直に言って、僕も錬金術師ギルドもお金が余りすぎていて困っているのです」


「わかった。馬車で四カ月ほどの……」


「そんな暇は僕にありません。馬車ごと『飛んで』移動します。この街に来たばかりでしょうがすぐに出立できますか?」


「えあ、いや、可能だが」


「それでは僕は相棒のアリアを呼んできます。魔法薬が必要な場合、彼女の知識も必要ですから」


「え? あ?」


「では、外でお待ちください。すぐに参ります」


「ああ、わかった」


 人助けの依頼ですか。


 余所の国との接点と考えれば悪くはないでしょう。


 問題は僕が求めるような人材がいてくれるかですね……。

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