カーバンクル印と武具錬成の追加オーダー
104.挿話-7 カーバンクル印
「おい、このカーバンクルの装飾がされたポーションはなんだ?」
「ほかのより銀貨一枚も高いんだが……」
口々に不審な言葉を投げかける冒険者たちであったが、販売所の店員はまったく動じない。
「ああ、それですか。冒険者ギルドで特定の錬金術師と契約している証拠の装飾です。私も一本試しにと飲まされましたが、嫌な味が残らず爽やかなポーションでした」
「ああん? ポーションが爽やかねぇ……」
「とても信じられないな……」
「まあ、信じるかどうかはお客様次第ということです。おすすめはいたしますが、無理強いはしませんよ?」
「どうするよ?」
「ポーションひとつにつき銀貨一枚ずつ高いのはなぁ……」
そこに新たな人物がやってきた。
Cランク冒険者、グレッグである。
「うん? このカーバンクルの装飾が施されたポーションはなんだ?」
「これですか。冒険者ギルドで特定の錬金術師と契約して販売しているポーション類になります。雑味がなく、爽やかなポーションですよ」
そこまで聞いた途端、グレッグの表情が一気に変わった。
なにを隠そうこのグレッグ、初めてニーベとエリナがポーションを売りに来たとき、真っ先に飲んだ冒険者だからだ。
「そのポーション、まずは一本くれ」
「はい。……お代もあっています。どうぞ」
グレッグは受け取るとすぐにポーション瓶の蓋を開け、中身を一気に飲み干した。
そして、そのまま表情を変えずに販売所の店員に問いただす。
「おい、このカーバンクル印のポーション、どれだけ種類がある?」
「はい。高品質ポーション、一般品ポーション、一般品ディスポイズン、低級品マジックポーションです」
「全部買う。個数制限はいくつだ?」
「高品質ポーションが四つ、一般品ポーションがふたつ、ディスポイズンがふたつ、マジックポーションが三つです」
「よし、その範囲で全部買う。代金はあるからすぐに用意してくれ」
「毎度様です。それではポーションを集めて参りますので少々お待ちを」
冒険者たちは、グレッグがなんのためらいもなく最大個数を買うのを見ていた。
そこに遅れて、あの日稽古を付けてもらっていたEランク以下のパーティがやってくる。
「グレッグさん、どうしたんですか? 販売所前で仁王立ちして」
「おう、お前らか。あの日のポーションが販売されたぞ」
「本当ですか! いくらです!?」
「ほかのポーションよりも銀貨一枚高い。だが、命の値段を考えればまったくもって安すぎる買い物だ」
「購入限度数は! 入荷数はいくつなんでしょう?」
「限度数はランクによって違うかもしれない。販売所の店員に聞いてくれ。入荷数は……俺も聞きそびれた。このあと聞く」
「はい、よろしくお願いします!」
「ああ。お前たちも懐事情は厳しいだろう。だが、高品質ポーションを二本くらいは用意しておけ。あのポーションなら普通の品よりもよく効くかもしれない。おまじない程度だがな」
「はい! そうさせてもらいます!」
こうして一部の冒険者の間で大好評だったカーバンクル印のポーション。
その話を聞いていた冒険者たちも話の種程度の軽い気持ちで購入していき、その効果の違いに驚くという形になる。
結果として、カーバンクル印のポーションたちは三日ですべて完売となるのだった。
********************
「……おい、ミスト。こんな騒ぎになると思っていたか?」
「なんとなくは、でしょうか。あのポーションは性能ではなく使いやすさも考えられており、性能一辺倒だったこれまでの常識を覆すものですわ」
「ポーションってのは冒険者にとって命綱だからな……」
「はい。それが扱いやすいとなれば、その価値はとても高くなるでしょう」
「それで、次週の仕入れだがどんな予定になっている?」
「今週はマジックポーション作りに専念させる、とスヴェイン様はおっしゃっていました。マジックポーションが多めになるかと」
「それはそれで争奪戦が起こりそうだな。この街でも貴重なマジックポーションの大量入荷だ。それも噂のカーバンクル印でな」
「買い取る前に私も一本飲ませていただきますが、期待を裏切るようなことはないでしょう」
「まったく、どこをどうしたらあんなに使いやすいポーションが出来るんだ?」
「その辺も探りを入れてみますか?」
「いいや、探りを入れるときは俺が直接聞く。コウの助言にもあったが高圧的な態度はNG、一番望ましいのは対等な形でテーブルに着くことらしいからな」
「普通は下手に出てもらうのが最良だと思うのですが……」
「それはそれで下心があるように見えて嫌なんだろうよ。ともかく、アイツが隠したい内容と公開したい内容の区別がまるでつかない。今度、冒険者ギルドに来たときにでも、顔をつきあわせて詳しく話を聞かせてもらうとする」
「それがよろしいでしょうね。ですが、今度はいつ冒険者ギルドにいらしてくださるでしょう?」
「それなんだよなぁ……あいつら、普通の冒険者じゃないから一般的な依頼を受けることはないんだよ。かと言って、なんの用もなしに冒険者ギルドまで来いっていうのも、弟子の教育で忙しいって断られそうだしよ」
「ありえますわね。本人たちが非常にやる気になっていることもあるようですが、かなりハードな育成メニューを組んでいるようですわ」
「それ、どこ情報だよ」
「マオ様に聞きました。マオ様のお店で扱っているネックレス、ようやく私の番が回って参りましたので」
「ああ、あれか。ブローチは頼んでいないのか?」
「頼んでいますわよ。ですが、どれも半年以上待ちになるそうです……」
「そこまで大人気なのかよ」
「もちろんですわ! この街の上流階級のご婦人たちでは大流行ですもの!」
「男にはよくわからん世界だ……」
「ティショウ様も見てみればわかりますわよ」
「そうかい。で、話を戻すが来週の入荷はマジックポーションがメインなんだな?」
「はい、その予定ですわ」
「ポーションの方はどれくらい入荷できるかねぇ……」
「そちらの方は少量になるかと。販売数制限も少なくしなければダメですわね」
「偽物が出回らないか心配だよ」
「あの精緻な文様を真似できるとは思えませんわ」
「だが、空き瓶にポーションを詰め直すことも出来るだろう?」
「それをいたしますと、金の装飾が黒く錆びてしまうように仕掛けが施してありました。まったく、どこまで見据えているのやら……」
「それだけ、弟子の育成と保護には力を入れているということだろう」
「ですわね。さて、来週の入荷もしっかりしてこないと」
「そうしておけ。それから販売所の方で来週の入荷予定として『マジックポーションメインになる予定です』とでも貼り紙をしておけ」
「それもそうですわね。早速指示を出しましょう」
これにより、次週のカーバンクル印ポーションはマジックポーションがメインだと知れ渡る。
ただでさえ貴重なマジックポーションをカーバンクル印で入手できるとあって、冒険者たちの熱気は盛り上がっていった。
次週の入荷後の販売が二日で売り切れることになったのも仕方がないことだろう。
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